ザ・グレート・展開予測ショー

血塗られた3月14日(一)<終>


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 3/20)




 そっと風が頬を撫でたーー・・・そんな気がした。

 気がついてから、彼はまず左右の手で拳を握り、開く。
「う・・・!」
 そうしてややあってーー・・・目を開くと彼は、ぐったりと脱力し、立ち上がる力さえも入らない己の肉体に無理をきかせ、上半身だけを起こす。

 ーーー生きている。

 あの恐怖、いやそうと呼ぶのすら生ぬるい衝撃に満ちた十数分の魔空間、自分はそこから生還出来たのだ。


「に、逃げ・・・なさいっ・・・ピ、ピートく・・・」

 凄まじく強固な精神力をもって、現れた彼女、美神美智恵はそう言ってきた。
 しかし彼は動けない。それは最悪の選択・・・いや選択すらしていないのだから、それ以前の問題か。
 すくんでいるのだ。両脚とも言う事をきかない。過去最大級、例がない程の危地のただ中にいるというのに。
 そして、それはーー・・・
『ピート君』
 それはーー・・・
『どんなに背のびしててもね、令子や他の娘達は甘いところがある。そう思った事はない?』
 それ・・・は・・・
『心底憎い、そう思わせる輩に会ったらね・・・』
 彼女がバイクに向かい手をかざす。
『言葉を交わす事なんてない。コレが・・・』
 彼女の手から注がれた霊波に反応して、何らかのシステムが起動、バイクが見る間に姿を変えてゆく。
「あ、あう・・・」
 異常だ。
 いくら何でも、例え悪霊と戦うGメンの指令官といえども、ここまでの重武装が許されるのか?
 もはや『ソレ』はバイクなどでは無い。
 大地に固定され、こちらに向けられるのは漆黒。
 大型の筒状に変形した『バイクだった何か』は、震動と共に淡い光を撒き散らしはじめた。
『コレが・・・最善よね』
 そして、時は来た。
 肉眼で捉えられる太陽が、それが幾重にも重ねられたように眩しい『光』がこちらへと一直線に向かってくる。
 霧になろうと、丸ごと灼き尽くされる!

 一瞬でそれを看破したピートはしかし、確かに憶えていられたのはそこまでだったーー・・・


「ピート君・・・生きてる・・・みたいだね」
 ようやく上半身を起こしたこちらの、その背後からかけられた・・・聞き知った声。
「先生も気がついたようだよ、さ、これを飲むんだ」
 差し出された小瓶、その中に含まれた液体を無心のままにピートは受け取り、口にする。
 苦い。しかし今はそんな味などに構ってはいられない。
 全て飲み干したピートは、そこで再び大地へと倒れこむ。

 薬を彼に手渡したGメン捜査官、西条は慌てて、担架を急がせたーー・・・


「やるわねーー・・・ママと相打ちにまで持ち込むなんて、瀬戸際に追い込まれた生き物ってほんと強いわよねーー・・・」

 再び気がついた時、まず耳に入ったのはそんな言葉だった。

 ほのかに漂う霊的な薬物などの匂い。
 この匂いや空気は間違いない。ここはGメン管轄の病院だ。どうやら瀕死の自分はここへ運びこまれたらしい。
「あ、ピートさん・・・気がつきました?」
 声のした方へと、首だけ動かす。
 魔鈴めぐみ。レストランを経営している現代の魔女。どうやら自分に起こった異常はこのヒトが何とかしてくれたようだ。
「災難だったわねーー、ま、事を起こしたうちの丁稚とかは西条さんとエミが追ってる・・・?」
 病室にいたのは自分と魔鈴だけではない。美神、キヌ、シロ、タマモーー・・・最初に自分を張った女性までいる。
 しかし!
「今・・・美神さん?」
「な、何?」
「何て・・・言いました?」


 そして一ヶ月の時が流れ。


「とうとう・・・この日が来た。これまで生きてきて、この日をこれほど待ち望んでいた憶えはありません・・・」
 手に入る全てのオカルトアイテムによる武装、この日の為に研ぎすませた牙、霊力の修行も倍に増やしてきた。
「本気でやるつもりかい?・・・虚しくなるだけと思うが」
 神父は無駄と知りつつも、あえてその言葉を口にした。
 案の定・・・ピートは首を横にふる。
「聞いた事がありますよね?ホワイトデーには・・・」
 最後に、決して忘れてはならないーー・・・『特製マシュマロ』を手にし、ピートは教会の扉を開けた。


『3倍返しが通例なんですよ』

 
 もはや復讐の(吸血)鬼は振り返る事はしなかった。


 後日談として、この日がオカルト業界において、伝説のホワイト・・・いやブラックデーとなったのは言うまでもない。





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