ザ・グレート・展開予測ショー

横島奮迅録(2)


投稿者名:アストラ
投稿日時:(02/ 3/20)



 数十分後、横島とタマモは再び丘にいた。
「へぇ・・・あれが妖精スプリガン?」
「あぁ、そうだ」
「・・・想像以上に警戒が厳重ね。まあ、あんたの責任だけど・・・って」
 タマモの口を噤ませたのは、彼女の手に置かれた赤いバンダナだった。
「あんた、どういうつもり? こんなの私に預けたりなんかしてさ」
「もし俺がここで死んだら、シロにこれを渡してくれ・・・」
「はぁ? 何ですって?」
「シロがあんな目に遭ったのは俺のせいだ・・・俺は死んでも敵を取らなきゃならない。自らの贖罪をかねてな・・・。ただ、もしもの場合、シロにそのことを・・・少なくとも俺はお前のために頑張ったんだって・・・伝えてくれる奴がどうしても必要なんだ・・・」
「ふーん。私は事務所でのあんたが、助太刀してくれる人が欲しいって顔してたように見えたけど? とんだ詭弁ね」
「・・・かもしれんな。でも、あいつは・・・シロは・・・俺みたいな奴の事を先生と慕ってくれているんだ・・・。せめてこういう時ぐらい、先生として、師匠として行動しなきゃ・・・」
「・・・あんたも色々思う所があるのね。分かったわ、私は手出ししない。でも、あんたを死なせはしない。・・・あんたが死んだら同行していた私が叱られるし、シロもうるさいし」
「タマモ・・・ありがとう」
「勘違いしないで。私は自分の保身のために言ってるんだから」


「うおおりゃあ!」
「ン? サッキノ人間カ!? ムザムザ殺サレニ来ルトハ、愚カ者メ! クタバルガイイ!」
 スプリガンのうち、刀を持った連中が飛びかかり、ライフルを持った方が刀部隊の背後で射撃体勢に入った。
(あのバカ・・・猪じゃないんだから猪突猛進しないで戦術ってもんを考えなさいよ! ああ、やっぱり押されてる!)
 案の定、横島は劣勢だった。だが、タマモの考えている所と、別の場所に劣勢の原因はあった。
当然、シリアスな横島には煩悩が無い=パワーの源である煩悩が無いから弱い、という事になる。
たとえ人間的に成長しても力量が欠けるとは、横島の悲しき定めであろうか・・・。


まさに暴虎馮河と言えよう。
自らの体を省みず仇を討つために突入する事は愚かな事なのだろうか。
 繰り出される刃の嵐や弾丸の飛礫は、横島の体に悲鳴をあげさせる。
 それでもなお、左手に文珠、右手に霊波刀を携えたこの少年は、自分の過ちと、それゆえに傷ついた者のためにあえて己に試練を課して闘っているのであった。
 振り下ろされた刃を上段で受け止め、同時に手首を鷲掴みにして投げ飛ばす。投げ飛ばされた妖精は空中で一回転し、上斜めの角度から突撃する。が、その動きを読んでいた横島は体を横に動かして、着地点から三歩の所へ体を移動し、拳法でいう背面蹴りの要領で、背後に迫っていた数匹の妖精を弾き飛ばした。
『喰ラエ!』
 先程特攻攻撃を仕掛けた妖精が、ワンバウンドして後ろから低空飛行のまま、体の基点であり、重心である足目掛けて向かってくる。
「・・・・・・っ!」
 間一髪でその攻撃を避けると、すかさずしやがんで首を掴み上げ、当て身を喰らわせて昏倒させた。
 危なっかしく立ち回りながらも、横島は攻撃の手を緩めずに立ち向かう。が、所詮多勢に無勢であり、局地戦で勝利を収めたところで、それが必ずしも全体の勝利に結びつくとは言えないのだ。
 いや、むしろ局地戦で消費した体力が後々響くとも考えられる。
 タマモは一人で思考を巡らせ、幾度となく訪れる危機のたび、飛び出して加勢したい衝動に駆られた。
 しかし、自分が今そこで出て行ったら、それこそ横島の望んだもの――自らの手で敵を討つ事――
 を、揺るがせてしまうため、出て行くことが出来ない。掩護用に狐火を燻らせてはいるものの、出て行けないせいでイライラし通しの彼女はそれを敵に浴びせたい渇望に苛まれているのだった。
 烈火の如く斬りこんできた妖精の刀が斜めに振り下ろされる。横島は、霊波刀を顔の前で弧を描くように回し、それの軌道を逸らすと文珠を投げつけた。『縛』であった。
 次々と吐き出されるライフル弾に彼が倒れないのも、文珠の効果による。胸ポケットに『防』を入れているからこそ、一見無謀の様に見える突撃ができるのだ。
 ところが、横島が文珠を出そうと手に力を込めたその時、異音がしたかと思うと、手の中に文珠は無かった。精製に失敗したように見えた。
 横島がその反動で若干よろめくと、スプリガンの首領格が腕をさっと振った。と、同時に無傷のスプリガンが一斉に跳躍し、横島に襲い掛かった。
 殺られる! 彼はそのような状況に置かれた人間がとっさにやってしまう行動――顔を腕で庇い、体を竦ませる――を取ってしまった。
 その刹那、スプリガンよりも早く飛び出してきた影に、横島ははっと息を飲んだ。
 出てきた影に対して驚いたのではない。その迅速な行動と、状況判断の正確さに度肝を抜かれた。
 素早く横島の前に立つ、待ってましたと言わんばかりに狐火を放つ。それが当たると、今度は体制を立て直せないために幻術を発して、足止めを喰らわせ、横島を叢に引きずり込んだ。
「何するんだ、タマモ・・・!?」
「言ったじゃない。“死なせはしない”って。少なくともあの状況で出ていかなかったら今頃あんたは冥土行きよ」
「・・・・・・」
「それより、さっきの失敗は何? 文珠の精製に手間取るなんて・・・」
「あれは失敗したんじゃない。あれは双――」
 鼓膜を連打する銃の乱射音に二人は咄嗟に飛びすさった。
 直後に、二人のいた場所がはじけ、土が散った。
「早いわね・・・」
「くそ・・・どっちみち長期戦は物理的、人数的に考えても不利だ。タマモ、しばらく、いや、五十秒でいい。時間を稼いでくれないか。その間に、さっきは失敗したが、今度こそ双極文珠の精製にはいるから」
「・・・・・・了解。ただ、それを使った時の勝算は?」
「数分前と比較すれば、ケタが違うだろうな」
「分かった。五十秒、防いであげる」
 タマモは語尾を言い終わらない前に、叢から出て行った。
『? 新手カ!』
タマモは問いには明確に答えず、不敵ともとれる笑みを浮かべ、腕を羽に変化させて宙へ舞った。彼らの特徴は来る途中に読んだレポートをみて頭に叩き込んでいた。
(特徴一:自在に姿を変えることができる・・・やっぱり! こっちが飛べばついてくるのは当然よね。それに元は妖精なんだし)
 ―――十秒。

 ルシオラ。その全てを自分に捧げてくれた女(ひと)。
 そして、守れなかった女(ひと)。
 横島はルシオラに念を集中させ、双極文珠の手筈を整えだした。

 榴弾砲のように高速で迫り来るスプリガンをかわしつタマモは各個撃破していく。相手の裏をかいて、突如反転し、足蹴りを喰らわせて墜落させる。羽でスプリガンをはたき、風を裂いて、バランスを崩す様仕向けて落下させる。
 ―――二十秒。

 シロ。自分を慕ってくれる女(ひと)。
 そして、無くてはならない人の一人。
 手が煌々と光はじめ、文珠の形が整った。

 昇れるところまで昇ってしまえば、あとは降下しか手段は残されていない。そんな事はとうに分かっている。
 だが、あえて上昇することで、落下速度を初速の速度に加重させる事が出来たのなら、敵を一挙に叩くことができる。時間的にも、心理的にも余裕が生まれる。
 ―――三十秒。

 文珠が光を増し、勾玉を二つ、繋ぎ合わせたような形になった。
 『陰』と『陽』、すなわちそれぞれ『闇』と『光』を司る。
 元来、二つの力は互いに侵食しあう。
 だが、それらが共に行使されたとき、その力は万物を凌駕するであろう。

 意を決したタマモは降下を始めた。風のはためく音が、耳の中を容赦なく乱打する。
 心臓が押さえつけられるような圧迫感。すべての物が停止しているような錯覚に囚われ、時間が逆流していくかに思えた。
 スプリガンを蹴散らしながら、タマモは降下を続けていく。
 ―――四十秒。

双極文珠は形を成した。
一方が白、もう一方が黒く彩られた姿は、まさに陰陽を表していた。
 キーワードを入れ始める。

 降下を続けていたタマモの羽、つまり腕に灼熱感が走った。
 スプリガンが持ち出したライフルに撃たれたのだ。
みるみるうちに減速し、釣瓶落としに降下していき、地面が眼前に迫った。
が、前触れもなしに体が宙ぶらりんになり、目線を流すと、借りは返した、と顔に書かれている横島がいた。
「五十秒、たったな。タマモ、ありがとうな」
「これぐらいで・・・礼を言われるつもりはなかったんだけどね」
 横島はタマモを地面に降ろすと、出来上がった双極文珠、『殲』、『滅』を持ち、策略によって、上空にいたスプリガンに向かって力一杯投げつけた。彼らの目が見開かれる。
 夜明けが漸次に近づく空に、大轟音が木霊した。

続く

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