ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 制御編 前


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 3/17)

 「ねっ、知ってる?知ってるっ? 呪いのMDの話!」
 「えっ、なになに? なにソレー!?」「どんな話!?」「知らな〜い!」
 「今、ネットとかで話題になってるんだけど、聞くと1週間後に必ず死んじゃうMDがあるらしいの」
 「ウッソー!」「聞いたことないけど…」「こわ〜い!」
 「ホント、ホント! 細かい内容とかまで書いてあるサイトもあるの! 女の人の声で恨めしそうに『タスケテ〜』とか『死にたくなかった〜』とか言うらしいわ」
 「キャーッ!!」「う〜ん。いかにも本当らしいわね」「やめてー!やめてー!」
 「……でもね、そのMDを2つダビングして、まだ聞いた事のない人ふたりに聞かせれば助かるらしいの」
 「なんだ♪ じゃ、心配ないじゃない」「不幸の手紙の焼き直しみたいな話ね」「イヤー!そんなことできないわー!」

どこにでもあるような噂話。どこにでもあるような女子高生の談笑。どこにでもあるような放課後のいち風景。しかし―――
 「……妖怪が怪談すんなよ」
横島は苦笑しながら話者の背後からつっこみを入れた。
 「なによーアンタは黙ってなさいよね!」「愛子ちゃんが妖怪だからって差別するの!?」「ひっど〜い! サイッテ〜!!」
途端に聞き手達の猛反撃を食らう。いつもの事とは言え、怯む横島に話者の追い撃ちが入る。
 「怪談じゃないわ! 実話よ! GSのクセにこんな話も知らないのっ!?」
 「うっ……!」
それは横島を沈黙させるには十分な発言だった。
確かに横島はGSとして霊的な現象に携わってはいるが、見習いの立場に甘えて知識的な部分は師匠の美神に頼っているのが現状だ。
それを不都合に思ったことは無いが、やはり知識を問われると立場が悪い。
 「あ、ヤベッ! もうこんな時間か。バイトに遅れちまうっ!」
こんな時は逃げるが勝ちだ。
横島は相手の反応も見ずに一目散にその場から離脱した。



 「ちゃ〜す! ……って、アレ?」
いつものように元気に事務室のドアを開けた横島だが、室内の異様な雰囲気に気付く。
まず、誰も返事を返さない。
事務室にいたのは美神とおキヌの二人だ。
二人共、思案げにデスクの上に目を落としていて、横島の入室からワンテンポ遅れてそちらに顔を向けてきたのみだ。

シロとタマモがいないことは概ね予想済みだった。
玄関を入ったときにシロが飛びついて来なかったから出掛けているのだろうと思っていたし、タマモも一緒ではないかと思った。

しかし部屋にいる二人―特におキヌちゃんまで―無言というのは、ただならない感じがする。
 「ど、どうしたんスか?」
入口で固まって動けないまま、横島はどちらにともなく声をかけた。

 「……そうだ! コイツがいたわねっ!」
先に反応したのは意外にも美神の方だった。
しかし何か妙案が思い浮かんだかのような言動が横島を不安にさせる。
 「……な、何のことっスか……?」
昔からこういうときはロクでもない目に遭わされることが多い。
半分逃げ腰になりながら、とりあえず訊いてみる。
 「あんたチョット、家でコレの中身聞いてみて」
美神はそう言ってデスクの上に置いてあった物を放って来たので、横島は反射的にそれを受け取った。
……MDカセット。
 「コレがどうかしたんですか?」
 「………」
美神は答えようとしなかった。
しかし代わりにおキヌが答えてくれた。
 「カオスさんから送られてきた荷物に混じってたんです」
 「えっ? カオスのおっさんのって……? この前頼んだアレがもう来たのか?」
アレというのはいま依頼が来ている古代の魔物についての資料の事だ。
前にも一度、貧乏神の除霊法を探してもらったことがあったらしいのだが、あのおっさんが役に立つというのはイマイチ納得し難い。
 「…はい。必要な資料はちゃんと揃ってたんですけど、そのMDの中身が分からなくて……」
どうやら本当に役に立つ事もあるらしい。世の中にはまだまだ分からないことが多い。

 「横島さん、確かMDが再生できるラジカセ、持ってましたよね?」
 「……あっ? ああ、ヒトにもらったヤツだけどね」
そう言えばMDの話だった。慌てて返事を返す。
 「ウチにはMDなんてマイナーメディアが再生できるような機器は置いてないのよ。だからあんたに頼んでるわけ」
美神が口をはさんで来る。頼んでいるにしてはやたら高圧的な態度だが、これはいつものことだ。
 「……あれ? 何か一つぐらいありませんでしたっけ……?」
MDがマイナーメディアであるかどうかはともかくとして、再生できる機器は何かあったような気がした。
しかしそれは結果に大きな影響を与える要素ではなかった。
 「う、うるさいわねッ! あんたは言われたとおりに聞いて来ればいいのよッ!」
 「ハ、ハイぃッ!」
横島は怒鳴り声に条件反射的に返事を返した。

 「あの……横島さ……」
 「せんせぇ〜〜〜!!!」
先程から黙り込んでいたおキヌが何か言おうとしたが、それは反対側から響いてきた声にかき消された。
 「遅かったでござる! 拙者、学校まで迎えに行こうと思ったのでござるよっ!」
シロが横島を床に組み伏し、顔を舐めながらきゃんきゃんと吠える。
 「バカ犬。道を知ってるのかと思ったらデタラメに歩き回るんだから。私が横島の霊波を嗅ぎ当てたから良かったようなものの…」
どうやら学校を探してさ迷い歩くうちに、タマモが入れ違ったことに気付き、霊波を辿って引き返して来たらしい。
 「……。全員揃ったし、ぼちぼち仕事に行くわよっ! MDの中身が分かるまで例の魔物は保留ね。今日はコレにしましょうっ!」
美神はファイルを一つ取り出すと荒々しく音をたててデスクの引き出しを閉じた。
 「あんたらいつまでやってんのよッ! さっさと準備しなさいッ!!」
美神の怒号と共に、いつもの事務所がいつもの仕事のために動き始めた。



 「あ〜〜、疲れた〜!」
横島は部屋に辿り着くと、そのまま万年床に倒れ込んだ。
 「いくら倒しても数が減らないと思ったら、建物自体に『集霊』の呪いがかかってるんだもんなぁ」
ひとりボヤいて、ふと放課後の愛子の話を思い出す。
……『呪い』のMD。
Gパンのうしろポケットを探って例のものを取り出し、矯めつ眇めつ眺める。
何の変哲もないMDカセットだ。しかしラベルの部分は汚れていて読み取れない。
 「考えてみればあのおっさんが送って来たってことは、ヤバいモンである可能性が高いんじゃねーか?」
爆発するくらいならまだ良い。いや、死に至ることすらまだ生ぬるい。
ヘタをすれば存在自体消されてしまったり、生きたままゾンビになったり、他にもピーがピーしてピーになるような事もありうる。
 ゴクリッ
恐ろしい想像をして、横島は一人、固唾を呑む。
 「美神さん。だから俺に押し付けたんだな。でもおキヌちゃんまで……?」
そう言えばあの時シロに押し倒される前、何か言おうとしていたみたいだったが、この事だろうか。
しかし注意してもらったところで自分の運命が変わるわけではない。
美神さんが決めてしまった以上、自分がやらなければ待っているのは確実な死であろう。
一方で、このMDが本当にただの資料や、メッセージである可能性もある。
 「……よしっ!」
横島は目前にリアルに迫る確実な死よりも、リスキーな無傷の可能性の方に賭けた。
祈るような気持ちでデッキにMDをセットし、再生ボタンを押す。
 カチッ!!



 『タスケテ! 助けてください!!』
 プチッ!!
横島は神速で停止ボタンを押したが、手遅れだ。
 「あかんっ!! 聞いてもうたっ!! まさかマジであるなんてっ!? 一週間後っ!? イヤ〜〜! 死にたくない〜〜〜!!」
間違いない。例の『呪いのMD』だ。

横島は頭を抱えてどこへともなく逃げ出そうとしたが、ふとあることを思い出して立ち止まった。
 「そう言えばダビングして誰か二人に聞かせれば助かるとか言ってたか?」
それなら特に焦る必要はない。野郎友達に聞かせてしまえば良いのだ。
もしそいつらに自分のせいで死なれたら後味が悪いが、そいつらだって他のヤツに聞かせて助かればいい。
そうやって次々に聞かせていけば、別に誰が死ぬという事でもないではないか。

冷静に考えると、余裕も出てくる。
聞いてしまったものは仕方が無いし、折角だから最後まで聞いてみようという気にもなる。
今度は軽い気持ちで、再び再生ボタンを押す。



 『……誰か! ……助けて! ……体が!』
 グビビ。
こんな状況であるにも拘わらず、横島はカワイイ女性の声とその発言内容に生唾を飲み込む。
しかしその声はどこかで聞いた事があるような気がする。



 『……体が! ……無い!』
打ち首とかで死んだねーちゃんだろうか。 
しかしその声は恨めしそうという感じではない。どちらかと言うと悲痛な感じがする。



 『……助けて! …ああ…でも…』
これは本当に録音だろうか。
声は切実に自分に訴えかけて来ているように思える。



 『……五感…断絶! …受信…不能! …どうすれば…!?』
どこかで聞いたようなセリフまわし。
少なくとも怨霊がしゃべりそうなセリフではない。



 『……マリア……体に……戻りたい……』
『まりあ』という名の女性らしい……。



 「………って、え!? マリア!?」
たっぷりワンテンポ遅れて、横島は驚きの声を上げた。

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