ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(4)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/16)

 
ジャッ!!バッ!!

ドンッ!!ドシュッ!!

 エミとアン、二人の鬼女が織り成す狂おしいまでの破壊のダンス。机が吹き飛び、ステンドグラスは飛び散り、唐巣が涙を流して祈るキリスト像は、右肩から半分が完全に消滅していた。
 エミの霊波攻撃やアンの流れ弾の影響で、ピート達は空襲にはぐれる親子のように三人バラバラに逃げ惑っている。伏せているピートの頭を、銀の銃弾がちゅいんと掠めていった。
「ふ・・・二人とも、落ち着いてください!!僕のために争わないで!!」
 だが、ピートの悲痛な叫びも当の二人は右から左である。ここで相手を倒したとてピートが振り向く筈もないのだが、愛の押し売りとは恐ろしいものである。
 ピートががっくりと項垂れた時、後頭部に掌大のマリア像がぶつけられた。軽く脳を揺らしつつ後ろを振り向くと、そこには嫉妬の炎に身を焦がした横島がいた。
「「僕のために」だぁ?それは自慢か?オイ。いいよなー美形ちゃんはよー」
 蛇のように陰険な目でピートを睨む横島。だが、まことに不運な事にピートにマリア像をぶつける瞬間を、エミとアンに目撃されてしまった。
「あたしのピートになにするワケ!?」
「私のピートさんを傷付けないで!!」
 こういう時だけ息がピッタリの二人によって、横島は瞬時に血達磨にされた。ちなみに、枕詞にちゃかり所有代名詞を用るところが、らしいといえばらしかった。


 戦闘開始から、約一時間が経過していた。お互い決定打は喰らっていないが、満身創痍であることに変わりはない。そうなると、迂闊には動けなくなる。一分のミスが命取りとなるからだ。
(どうする?霊力も尽きてきたし、下手な動きはできないワケ)
(もう弾丸も空に近い・・・無駄遣いはできないわ)
 張り詰めた空気が漂い始める。二人は、油断無く相手を見据えつづけた。なんだか荒野の決闘の様である。
 だが、その時やかましい程のパトカーのサイレンがこちらに近づいてきた。それも両手に足りる程度の規模でないことが、サイレンの合唱音の大きさからもすぐわかる程だった。
 音は教会の前で止まり、中からいかつい武装をした機動隊が次々に現れた。最後に、説得・交渉用のスピーカーを持った刑事がパトカーから颯爽と降り立った。
 ちょっと考えれば分かることだが。真昼間、住宅地、激しい銃声と破壊音。イコール、というごく自然な因果関係である。即ち、
「ちっ・・・警察か。ちょっと厄介なワケ」
 軽く舌打ちしつつも、エミはアンから視線を外さなかった。外野のバンダナ男がなにやら取り乱しているようだが、当然の如くエミは黙殺した。
 渋い表情をしているのはアンも同じだった。というより、寧ろ外国人である自分が割を食う公算はかなり高い。下手をすれば強制送還もあり得る。
「どうやら、決着はお預けのようね。今回は引き分けってことにしとくわ」
 アンは捨て台詞ぎみにそう言うと、懐から何かを取り出しておもむろに床に投げ出した。
 卵のような楕円形をした、黒い物体がころころと床を転がっていく。それは、紛うかたなき本物の手榴弾だった。既に信管は抜いてある。全員の顔が一気に引きつった。


ドゴオオォン!!


 凄まじい爆発音と爆風に、外にいた機動隊は一斉に警戒を強めた。さすがにここまでやるとは予想出来なかったのだろう、エミは思わず爆発から身を守った。
 そして、見てしまったのである。黒煙と粉塵が飛び交う中、アンが人影を連れ出し、ステンドグラスの割れた後から脱出していくところを。
「! ピートっ!!」
 エミはしまったと思ったが、今から追いかけるのは不可能だ。エミは、アンが出て行くときに向けた顔が自分を嘲っていたように見えた。
「あンの・・・小娘・・・!!」
 やがて煙が晴れ、すっかり綺麗になった元教会が姿を現した。んで、その後ろでは唐巣神父が灰になっていた。爆風の影響かどうかはわからないが。
 エミは、腹わたが煮え繰り返る思いだった。結果論として、ピートをさらわれてしまった。あんなガキに、自分が出し抜かれてしまったのである。
 だけど、まだ終わったわけじゃない。エミはぐっと拳を握り締めた。
「ピート・・・待ってて、この私が必ず助けてあげるワケ!!」
「僕がどうかしたんですか?」
 あまりにも場違いなその声に、一瞬エミの目が点になった。慌てて声の方向を向くと、そこには顔をススだらけにしたピートが立っていた。
「ぴ・・・ピート??じゃあ、あいつが連れてったのは?・・・」
 消去法で行けば一人しかいなさそうなモンだが、生憎エミの脳から彼のことは綺麗さっぱり抹消されていた。



「ふう・・・ここまで来れば安全かしらね」
 今アンがいるのは、現場から遠く離れた原っぱだった。結局あのブツを使う事はなかったが、まあ目標は拿捕できたのでよしとしよう。
「ねえ、ピートさ・・・」
 愛情を込めて、自分が引き摺って来た人物に呼びかける。だが、その甘い声は喉元で凍りついた。
「う・・・いててて・・・」
「な・・・な・・・」
 目を凝らしてよく見ると、自分がしっかりと首根っこを掴んでいる人間は、ピートとは似ても似つかなかった。彼はバンダナはしてないし、黒髪でもないし、なによりこんなマヌケ面ではなかった。
「う・・・ここ・・・はぁ!?」


グシャ!!


 横島の意識が覚醒する寸前、アンのヒールが横島の後頭部にめり込んだ。
「何であんたがここにいるのよ!!」
(お・・・前が引っ張ってきたんだろーが・・・)
 薄れゆく意識の片隅で、横島は力無くツッコんだ。


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