ザ・グレート・展開予測ショー

!光舞うシーサイドドリーム(終編)


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 3/16)

「速いよぉぉぉ…」
おキヌが、安定した足場を選んでぴょこぴょこ跳ねるように走ってきた。
そしてその後ろには、笑い出したくなるほどバカげた数の餓鬼。
蛍は一人先に、式神の銃と予備弾倉を拾ってから塔の入口の電子ロックに取り付いた。
電子ロックを開閉するパネルには錠付きのケースが被せてあり、先ずはこれに
カートリッジから取り出した銃弾を挟み込み、弾の尻から踏んづけてやる。
ガパンッ
よく響く音を残し、ケースの錠は粉々に吹き飛んだ。
続けて銃を鈍器代わりに、パネルの底板を叩き割って中の配線をほじくり出す。
数えるのも目が痛くなりそうなほどのコードの数だった。
多分、作った技術者でもマニュアル無しにその全ての役割を言い当てることは出来まい。
「でも、なーんとなく解っちゃうのよね♪」
軽口一つ呟いて、スムースで淀みない手つきでパパッとコードを繋ぎあわす。
≪開閉システムの凍結を解除 退去の際は速やかにシステムを再凍結してください≫
≪開門コマンドを確認 開門します 通行後は速やかに閉門してくだ≫
蛍は接続を物理的に切断して門を半開きの状態にし、内側のパネルをいじりはじめる。
餓鬼が来る前に門を閉じれるように、である。
「おっキヌちゃーん♪早く早く!」
「はひぃぃぃ……」
機械のレスポンスによる誤差まで見極めて、おキヌが滑り込むタイミングに閉門する。
ガシャキッ、ズギャッ
突如、先程の門番同様の格好の式神が踊り出てくる。
しかしその刹那、蛍はドラッグレースのような爆音を残して容易くその背後にまわりこむ。
にやっ、と不敵な笑みとともに、外での時と同じように輝く右手で相手を叩く。
ヂ…ジ…ヂ…
スタンガンのような鋭さと、ゲーステのデュアルショックのような鈍さの音の二重奏。
「サイキック・ヴェノム!」
式神は霊気を失って平面に戻るまで、命令を愚直なまでに繰り返す。
その式神が、蛍のP・ヴェノムなる技を受け三体とも立体のまま硬直している。
「名前つけたの、それ?貴女は初めてでも私は二度目だからツッコみづらいんだけど…」
おキヌは友人の、兄譲りの致命的なネーミングセンスに絶望して呟く。
「……なんのこと?」
技の集中を解き、軽く手をはたく仕種をしていた蛍がきょとんとして言った。
「ん、それはさておいて上に行かなきゃね」
「あたしは、この扉が破られたときに備えて残るわ。大勢と戦うなら狭い間口で、ね」
言いつつ蛍は座り込み、全部で三挺になった銃と予備カートリッジに詰まった銃弾を
根こそぎ取り出し、なにやら作業をはじめていた。弾を分解して火薬を抜いて、床に撒く。
「解ったわ。頑張ってね」
おキヌが軽く声をかけて、鉄製の粗末な梯子をのたのたと昇っている間にも
蛍は今度は銃弾の先端を銃の尻に力一杯叩きつける作業を繰り返す。
銃が普通に使えるものならこんな手間は要らないのだが、生憎腕力には自信がない。
ドガァッ
扉が吹き飛んだ。餓鬼がなだれ込んでくる。蛍は既に銀塊と化したものをあるだけ引っ掴み
「よしこぉいッ時節はずれの節分アタック!」
べしべしべし
勢いつけて全部ばら撒くと、餓鬼達の前衛が怯み、後衛に追突されてゴチャゴチャになる。
(うぁ…ケッコー効果あるし……)
蛍はあんぐりとその光景を眺めた。貧乏性ゆえのリサイクル攻撃。全然期待してなかった。
「ンじゃこっちが本命!えー…と、なんでもいいわ。いっけぇ!!」
さっきつつきまくった銃を、腰だめに構えて、バスケのバウンズパスを意識して圧し出す。
つついてでこぼこのギザギザにした部分を、地面に圧しつけて。
ジャギャギャガガギャッ、ボオゥン
火花によって火薬に火が点き、紅蓮の世界が生まれる。まともに浮き足立つ餓鬼達。
その瞬間には一条の光線が、餓鬼達を端から撃墜していた。
燃え盛る焔よりも苛烈で、水面よりも滑らかな輝きが舞う。
やがて東の空は群青色、西の空は茜色の衣をゆったりと纏ってゆく。
そこへ、餓鬼達の中で頭一つ大きいのが、なにやら大事そうなものを抱えて前面に出た。
「このアマッ!封印鏡に映し込んで始末してくれる!!」
蛍はしばらく、その鏡を眺めて動きを止めていた。が――
「くッ!まだかッ!?封印鏡が映したものを取り込むのに、こんなに時間かかるとは…」
「あのぉ…それ、あたし映ってないよ?」
蛍が気まずそうに告げる。
「なぬぅ!?」
「あー、ショック受けることないですって。あたしも解っててやってるわけじゃないし。
それに人間でこういうことできる人って、普通いないらしいから」
ぱたぱたと顔の前で手を振って、自分でも納得いってなさげにフォローする蛍。
確かこの技をはじめて発現させた時に、おキヌちゃんに併せて「フォトンマンサー」と
名乗ろうかと兄に相談して、心底感情が死んだ瞳で見つめられた記憶がある。
黄昏時は逢魔が時。はたして、魔に巡ったのはどちらの影だったか。
夕闇に、煌めく右手のみが浮かび上がって流れるように舞う。
ピルルルルルルルルッ
繊細な、どこまでも繊細な音が場を満たして舞踏場を設えた。


二人の少女はへとへとの身体をひきずって駆けずり回っていた。
広大な夢の島全域を包むようにその枝葉を広げる絶対不浄霊域。
彼女らは片隅のほんの一角を、一時的に機能不全に追いやったに過ぎない。
ひとまわり大きかった餓鬼も、中堅ポストでしかない。
(相手を麻痺させることに長けた二人だからこその、本来プロでも有り得ない快挙だ)
ガシャッ
小高い丘の上に、数える気さえ起させない数の餓鬼が現れる。
「あう…私達二人そろって、死後の世界は間に合ってるんですが………」
「いたいけな少女二人が、蕾のままに摘まれてしまうわ……」
思い思いにうめく二人。
「野郎どもッ!さがんなッ!!」
朗々と、攻撃的な女性の声がこだました。おキヌはそちらを見やり、口をぱくつかせる。
「あ、あなたは……」
「ったくぅ、お前らも空から降ってきたクチかい?」
「グーラーさんッ!?」
『………誰?』
グーラーと蛍はおキヌを見つめて(蛍はグーラーを指差し)異口同音に言った。
「(むぅ!)横島さんしか憶えてないんですか?」
「んー?うん。なんだ、あいつの連れか。惜しかったなぁ?本土に送って帰って来たとこだよ」
悪びれもせずにさらっと肯定し、言うべきであろう事を簡単に説明するグーラー。
『えぇぇぇええぇぇええぇぇーーーッ!?』
二人はへなへなとその場にへたり込む。
「ここって無尽蔵に霊気を取り込めるから、食わなくても腹が減らないんで居座ってんだ」
そんな切り出しで、グーラーは横島と一通り世間話に花咲かせ適当なとこで帰したという。
「あーん、無駄骨……なんなのよぅもー!お兄ちゃんの人騒がせ!!」
ヤケクソ気味に叫ぶ蛍の背中に、よっかかっているおキヌの震えが伝わってくる。
「フフ、フフフフフフ…」
「お、おキヌちゃんッ!?」
「面白かったね、蛍ちゃん!」
向き直って言うおキヌ。
「……そうね、面白かった。きつくて辛くて怖くて疲れたけど、二人だったから楽しかった」
「人間てなこれだよ……早くお家に帰んねぇと、とって喰っちまうよ?おちびちゃん達」
呆れきった口調で、グーラーが言う。最後の言葉だけ、こちらの顔より下に視線を向けて。
『ほっといてくださいッ!!』
息もピッタリに、二人がハモッた。

美神は母にお小言もらうだけで後始末してもらえたこと、二人は無事「秘密裏」に
離脱できたこと(あるいはこれも、後始末の一環か?)を付記し、締めくくることにする。

終わり

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