ザ・グレート・展開予測ショー

!光舞うシーサイドドリーム(後編)


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 3/15)

兄は、戦いは怖い。そう言った。負ければ怪我をしたり、場合によっては死ぬ。それは嫌だ、と。
妹はそうは思わなかった。掃除屋<スイーパー>は戦士ではない。負ける戦いはしない、と。
妹が今、考えることは『兄は正しかった』。あらゆる事象にイレギュラーは起こりえた。
人は完全を求めても叶わぬものだった。最善と思われた作戦が、崩壊している。
今、彼女が恐れるものは「死」などという所詮刹那的な運命ではなかった。
彼女が本当に恐れているものは、「後悔」という名の永遠の縛鎖。
自分が判断を誤ることで、友に負担をかけること。
自分にできることをできずに終わってしまうこと。
自分の判断に友の運命を委ねるぐらいなら、いっそ自分を殺せ。その方が苦痛は無い。
死力を尽くし、失敗したならまだ解らなくも無い。尽くして進むべき方角が見えないのだ。
思考の迷路のその出口は、恐怖と呼ばれるフィルターがかかっていて姿を見せない。
後悔を恐れ、迷う「意思の光」は拙いダンスのように夢幻の迷宮を彷徨うのみ。
――おキヌちゃんを裏切らない選択をしよう。塔へ向かいましょう。そっちなら怖くない。
――違う!「後悔」へのプレッシャーに打ち勝たなきゃダメ!!転進よ。
裏切り者を、他者は看過するだろうか?あるいは、仕方なかったと慰めるかもしれない。
そうなることのほうが、非難されるより余程耐え難い。
逆に、正確な判断が出来ぬものに未来はあるか?論外である。下手をすると今死んでしまう。
三人が無事に脱出する。そのために乗り込むのだと宣言したのは、確か自分だったか。
どちらも選べない。しかしあらゆる意味で余裕は無い。
結果、彼女は「有り得ない方の選択」をする。
(たとえほとんどゼロ同然の可能性でも、ゼロでないなら見捨てるわけにいかないわ)
それだけが唯一絶対の、理屈を超えた彼女自身の想いだった。
塔の正面側にまわりこむべく進路修正。心なしか気持ちが引き締まる。

蛍は思わず眉をひそめた。目に映るそれは、決断が誤りであることを端的に表した。
――そういうものかも知れない――蛍は思う。
同じアマチュアでも、彼女の友人は既に何度もプロの仕事に立ち会っていたのだ。
箱庭のような学園で安全を保障された修練しか知らない自分が彼女を守るとは滑稽な話だ。
――こんなものか――とも思った。自分が道化になっただけで済んだ。
彼女に危険が無かったことが、むしろ微笑ましく思えた。
それだけで、選んでみればたいした事は無かった。いつだって選ぶまでが辛いのだ。
「蛍ちゃん、そっちはダメ!」
更に声が聞こえる。決定的だ。
二人が見たもの――それは、少し考えれば見落とさずにすんだことだろう。
法的に立ち入りを禁じられている廃棄物処理システムは、当然ながら無人制御。
だからこそ、自分達はそこを拝借しようとした。餓鬼が蠢くこの島で、無防備だと夢想して。
『符術式神』――紙を自在に変幻させて単純な行動をさせる、あの術で警備していたのだ。
それも標的を餓鬼のみに設定されていれば救いもあろうが
本来他の存在が出入りするわけがないこの場所で、そんな複雑な命令式が埋め込まれるか?
定期点検には術士が同行すれば済む。というか、どうせGS抜きではここへは来れない。
十中八九、近づく者は無差別に攻撃されるだろう。
数は二体。霊波迷彩を全身に施し、手には鋭角的なデザインのマシンガン。
妖魔との交戦を想定した武装であることから推理すれば、装填されているのは銀の銃弾。
もっともこの場合、それでどうなるわけでもない。
周囲は自分を追跡してきた餓鬼だらけ。方向転換したり止まったりは無理である。
かてて加えて、ここまで来るのに体力を大分消耗しているのでこれ以上の加速も危うい。
イヤ、いかな自分の状態が万全だろうと銃の射程距離を全力疾走でもつわけがない。
神経がちりちり疼いた。これは多分、銃の照準が自分に合ったのだろう。
ズガンッ、ガガガガガガガッ
銃弾を浴びるより一瞬早く、蛍の足元のゴミは爆圧を受けたように四散する。
蛍は、地を蹴った。その素晴らしい快走を助走にし、走り幅跳びを敢行したのだ。
それこそ光弾の如く、鋭い軌跡で塔の側面に張り付く。
「勢いつきすぎよッ!」
誰にとも無く毒づきつつ、駆け下りて急降下キックでまず一体の式神を沈黙させる。
降り立った蛍はそのまま煌めく渓流のような、柔らかな鋭さの動きでもう一体に組み付く。
式神の右腕を自分の左脇でロックし、天性の柔軟さを用いて相手の顎を蹴り上げる。
蹴りではなく、右の掌打を用いるのが「マサカリ」という技で、一文字によくかけられる。
(余談になるが彼女の場合、男子校のほうが違和感なく溶け込めてそうだ。なんとなく。)
この技の急所は顎――即ち上体を大きく仰け反らせた作用で右腕を極めるところにある。
それを、腕より長い足で放ったわけである。式神の右腕はあっけなくちぎれとぶ。
更に、彼女にはとっておきの切り札があった。
単純な破壊力は皆無な技ゆえ、ネットワークを持つ餓鬼への使用は躊躇われた奥の手が。
蛍の右手に光が灯る。イヤ、それは迸るという方が正確かも知れない。
とにかくソレは、雷光と見紛わんばかりの迅さで二体の式神を薙ぎ払った。
あとに残るは模範的な無駄の無い動線を描いた光の軌跡と、硬直しきった式神達のみ。
蛍はそれを眺めて、もう終わったとばかりに満足そうに笑うと、周囲を見やった。
彼女がジャンプしてから実に、ほんの五秒弱で片がついてしまっていたのだ。

つづく

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