BOY MEETS A GIRL その八〜君が居た町〜
投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 3/15)
二人は一時足を休め町の片隅に立ちすくむ小粋なカフェに立ち寄った。
少年は腰掛けると肘をテーブルにかけて窓の外を見た。
中はがらんとしていて、その狭い空間には二人しか居ない。
この狭い世界だがそこには二人しかいない。
そんなことを嬉しく思い少女は彼のほうからつい眼が離せない。
憧れの人の横顔、それには女性の全てが委ねられている。
少なくとも、人朗族の女性、犬塚シロはそう思っている。
――先生……
彼の向かいでそう呟くと彼の端整な顔立ちが笑顔で崩れる。
しかし、あくまで笑っていても窓の外を見続けている。
自分と目を合わせないようにしているのだろうか?
――先生
再び、今度は呼びかけるようにして音を出す。
少女の創った言霊は何に運ばれて彼の耳に届くのだろう?
それは分からないが彼にこちらの意思が伝わったのは確かだ。
チョッと間があって彼はこちらを向いてくれた。
彼はガラにもなくテレているのか頬が薄ピンク色に紅潮している。
目が合うと彼の顔は真っ赤になってうつむいてしまい、頭なぞ掻き出す始末。
普段なら自分がこうなっているのだろう。
そんな彼を見て胸の奥底から何かが伝わってくる。
フッ、と笑いかけると彼も笑顔を返してくれる。
そこでは、もう言葉を必要としていなかった。
いや、逆に言葉は足手まといだ。
自分のイメージと言葉にするのとでは歪が生じる。
言葉と思想との距離がそうさせるのだ。
まして、自分たちのコミュニケーションも言葉は必要ない。
自分達は幸せに包まれている。
彼女はそれを知っていた。
そこで空気がフッと揺れた気がした。
そして誰かの笑い声を聞いた気がした。
ずっと前から彼女はその声を知っている。
チョッと不思議な感じのする女性の声だ。いや、少女だろう。
不快な感じはしないが自然と眉間にしわを寄せてしまう。
少年はその表情をどうとったのか苦笑とも真顔ともとれない微妙な表情を浮かべた。
その曖昧な表情に少女は再び最高の笑顔を見せる。
少年は自分がその笑顔から目が離せなくなっていることに気づいた。
下唇を少し噛み膝の上で拳を握り締める。
そして、素早く、決心が鈍らないように懐に忍ばせていたものを取り出す。
それは太古の昔から決まって恋人達が愛を誓い合うための道具……
少年は恥ずかしそうに下を向きながら少女の方に『ホネ』を差し出した。
今までキョトンとしていた少女の頭にもそれが何を示すのか思い浮かんだ。
――――まさか!?
そのホネは赤いリボンが結ばれており、その側面には、
『Shiro・Y』と丁寧に掘ってあった。
Shiroは自分の名前、そしてYが意味するものは――
「シロ……その…俺と……で…俺とで良ければ…」
最早少年は自分が何と言っているのかわからないだろう。
それは幸福の足音。
新しい人生のスタートラインを意味していた。
「……分かるよな?……め、迷惑かな?……」
「先生……嬉し――」
その先の言葉は誰かの絶叫によって遮られた。
―――――暗転
……少女が覚えているのはそこまでだった……
クスッ……
タマモは相方の姿を見て苦笑していた。
シロはまだ横島が幻だと理解していないようだった。
自分が掛けた幻術だがここまで絶大な効果を示すとは思わなかった。
そして、いまだ状況を呑み込めていない相方を従えて大浴場に向かう。
その足取りは実に軽かった。
シロも先程の出来事を夢だと思ったらしく、歩いている時、タマモに盛んに、
自分はなにか寝言を言っていなかったか?というような質問を繰り返していた。
タマモもいいかげんうんざりしていたところ、大浴場の側は予想通りの現状だった。
「先生……また、凝りもせず……」
シロも現実の横島の姿を再認識したが、軽蔑はしていなそうだ。
そんな師弟のやりとり(?)を見てタマモは二ッと笑った。
その矢先に小竜紀が『ゆ』と書かれたのれんを捲り出て来た。
「あら二人共。お風呂空いてますからどうぞ」
完全に気絶しているとはいえよくこんな状況で風呂に入れるものだ。
―とタマモは思った。
「あぁ、そうですね……じゃあ起きるまで待っていてもらえますか?」
タマモ達が戸惑っている、と取ったのか小竜紀は言い直した。
タマモもシロも汗なんかかいていない、それは誰の目から見てもあきらかだった
大して迷うことも無くタマモは肯いた。
「じゃあ、先にご飯にしましょうか」
二つになった肉塊を尻目に女たちは歩き出した。
快い春の風が三人を優しくなでた。
妙神山の一日はまだ始まったばかりだった。
続く
今までの
コメント:
- 言い訳はた〜くさん用意してあります。
苦情等はお気軽にどうぞ。 (魚高)
- あ!?今回は小竜太が目覚める前のお話だから、
ボーイ・ミーツ・ガールの7.8話くらいですかね。
それと、師弟のやりとり(?)ってところは横島とシロのことです。 (魚高)
- 嗚呼、素晴らしきは妄想の世界。
それが喩え妄想によって創られた世界の中の、さらなる妄想であったとしても。
現実でないことなんて問題じゃないです。意識に刻み込まれたものがその人にとっての「実在」なんです。
前半の世界は私やシロに十分な「実在」を残して行ってくれました。だから、いいんです。
今はタマモに無限の感謝を。
本当に前半の妄想世界の描写は上手いです。
表情の描写等はこれを見てしまうと『魂の機械』の過去ログなんかは全部削除したくなります。
横島の醜態に対するシロの複雑そうな気持ち。平然と風呂に入る小竜姫。それにあきれるタマモ。どれをとっても百点満点ですね。
もう、もう、パーフェクとです! マーベラスです!! グレイトです!!! (斑駒@抱頭身悶)
- ↑いえいえ、削除されては我々が困ります(汗)
小竜姫さまも神経太いですね……あれから再び入りなおしたのか? にしても劉ちゃん。すっかり『小竜太』の方が定着しちゃって……(泣) 『闘劉神』って立派な名前があるのに…… (ロックンロール)
- 斑駒様
お褒めの言葉ありがとうございます。――――と言いたいんですが
妄想の描写は2冊(もしくはそれ以上)の小説から拝借したものですので…(汗)
ロックンロールさんの言う通り魂の機械を削除されてしまっては私の命が危うくなります。
魚高の住所ほとんど教えちゃったもんなぁ〜(汗)
ロックンロール様
闘劉神は真面目モードのときにでも使うつもりです。
お蔵入りしそうですけど……(泣) (魚高)
- 前半の情景は、タマモちゃんがシロちゃんに見せてるんですから、タマモちゃんが考えてるって事ですよね?
タマモちゃん、実は、意外と乙女ちっくなのかも♪
シロちゃん。この幻を現実にするために、ふぁいと!(でも、そうなっても、ちょっとだけパピにも分けてあげてね♪) (猫姫)
- 猫姫様
私の中ではタマモの趣味はこんなモンかな?
とか考えてたんでこうゆー形になりました。
他にも3つくらい案は出たんスけどね……
そうすると悪役として美神か小竜太をださなくちゃならなかったんスよ。
でもって、そうすると2話くらいに使っちゃうから、
一番短く、シロと横島二人きりのこの展開にしてあげました。 (魚高)
- ↑ あ、趣味だったんですか、このタマモの悪戯は。いや、もっと何か深遠な意図が隠されているに違いない(これこそ妄想)。今回は少し番外編っぽいノリでしたが、本編との関連はこれから出て来るのかな?
さてさて、内容に対する具体的かつ抽象的な(?)感想はやはり黒犬さん辺りにお任せする事とします(笑)。 (Iholi)
- Iholi様
えぇ、私の中のタマモ(つまり自分の)趣味です。うぅ……頭悪くてスンマセン。
チョッとばかしは本編とも関連付けようかなぁとも思っているんですけどね。(←超無計画) (魚高)
- タマモ……夢を…夢をありがとう……。
ふと我に返って部屋を見回す。
赤。紅。赫。――ひたすらに鮮赤。
「このまま火サスのセットに使えそうだな」
読んでる最中に噴出した、大量の――推定20g――鼻血耳血吐血で真っ赤っかに染まった部屋に溜息をついて、よっこらせぇと身を起こす。
さぁ、掃除だ。いや、いっそ壁紙を代えた方が早いかな? (黒犬)
- 黒犬様
夢ですか……この場合の夢とは理想のことか幻のことか。(苦笑)
赤ですか……横島のバンダナも赤ですし、竜太の色も赤ですから黒犬さん(の部屋)も一緒ですね♪
これで貴方様は完全に主人公の資格を手に入れましたね。
さあ御立ちください。この星を救えるのは貴方だけです!
しかし、20gとは横島と同格、もしくはそれ以上の体力が無いと死にますね。
流石にお犬様(←なんか嫌な呼び方ですね、スンマセン)はお強い。
皆様、ご感想ありがとうございました。
それと無言投票をしてくださったかた、名前も存じませぬがありがとうございました。
できれば――反対票でもいいから――感想を貰えると嬉しいです。 (魚高)
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