ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(2)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/14)

ぞくり


 形容し難い寒気を感じ、ピートは我知らず両手で体を包んだ。
「ん?どうしたんだね、ピート君」
 唐巣が不思議そうにピートに尋ねる。ピートはいえ、と答えると、悪い予感を振り払うように軽く首を振った。
 昼下がりの礼拝堂は、世界から離れた存在のように静寂と平穏に満ちていた。ステンドグラスから零れるように入ってくる淡い陽光。それが、キリストの像に美しく色映えていた。
 一枚の絵のような情景の中で、唐巣とピートは一時のティータイムを楽しんでいた。爽やかなハーブの香りと、尊敬する神父との談笑。ピートは、緩やかで心地良いこの時間が一番好きだった。
 願わくば、こんな平穏な日々が続きますように・・・
 主の姿を仰ぎ見て、ピートは心からそう願った。
 だが・・・平穏というのは、争いがあるからこそ存在し得るのである。


バタン


「ちわーす。お、いたなピート」
 静寂を裂くように教会のドアが開かれ、聞き慣れた声が耳に入った。声の主はバンダナにジーンズとGパンの一張羅スタイルで、右手に茶封筒を持っていた。
「おや、いらっしゃい横島君」
 唐巣が親しげにその名を紡いだ。社交や挨拶代わりの無機質な声色でなく、心から相手を歓迎する温もりが込められている。聖職者の鑑、といった風情である。
「どうしたんですか?横島さん」
 ピートが水を向けると、横島は無造作に持っていた茶封筒をピートに差し出した。
「これは?」
「昨日出た学校のプリントだよ。先生がお前に渡しとけってさ。」
 そういえば昨日は唐巣の手伝いで学校を休んでいた。その度に横島に貧乏くじが回ってくるので、横島はいつも苦い表情である。
 だが、それでも律儀に届けてくれる横島がピートは好きだった。まあ本当は破り捨てた後の女子の報復が怖いだけなのだが、知らぬが仏というやつであろう。
「折角来たんだ、お茶でもどうかね?」
「いえ、これからバイトですし」
 唐巣の誘いを丁寧に固辞する横島。茶菓子でもあれば話は別だったろうが、ハーブティーだけで満たされるほど横島の腹具合が芳しいわけはなかった。
 横島はそれじゃ、と言い残しとんぼ返りに教会を出て行こうとした。だが、ドアに手を掛けたその瞬間。


バン!!


 タイミングばっちりで、外側からドアが無遠慮に開かれた。煽りをモロに食らった横島は、鼻血を出しながらその場に蹲った。
「ハイ、ピート。久しぶりね」
 そこに立っていたのは、美神の好敵手にして虎視眈々とピートを狙う呪術師・小笠原エミだった。エミはピートに妖艶な笑みを向けると、横島と唐巣を背景化してピートの隣に陣取った。
「え・・・エミさん、今日はどういった用件で?」
「あら、用がなきゃ来たら駄目なワケ?つれないわねぇ。ま、そこがいいんだけど」
 じりじりと距離を詰めてくるエミに、ピートの心臓は別の意味で高鳴った。いざとなったらバンパイアミストで逃げよう、ピートは真にそう思った。
 尚も続くピートへの求愛に、横島が鼻を押さえ不貞腐れながら立ち上がった。当然だが、ピートを助けてやるなどという選択肢はない。
(ケッ。やってられっか、アホらしい)
顔中に不機嫌を張り付かせ、横島は再びドアに手を掛けた。次の瞬間。


ドバン!!


 蝶番も外れんばかりの勢いで、外側からドアが荒々しく開け放たれた。煽りをモロに食らった横島は、鼻血を飛び散らせてピンポン玉のように吹き飛び二度三度とバウンドした。


 エミもピートも背景化していた唐巣も、目を丸くしてそちらを見遣った。逆光で霞むその姿態は、神の再来を想起させるかのようだ。
 だが、そこに立っていたのは神ではなくて小悪魔だった。
「ピートさん、お久しぶり!!」
「あ・・・アンちゃん!?」
 ピートは、鼻と口からエクトプラズムが抜け出そうだった。正に泣きっ面に蜂。最悪が二つもまとめて転がり込んでくるとは、運命の女神は余程悪戯好きなようである。
 アンは愛しいピートの姿を見ると、瞬時に顔を紅潮させピートの元に駆け寄った。そして・・・あろうことか、エミを突き飛ばして自分がピートの隣に腰掛けたのである。
 エミはしたたかに顔を打ち付け、教会の床に口づけした。正に神、もとい悪魔をも恐れぬ行為である。
 アン以外の全員がひいぃっと息を飲んだが、当人は全く気にしていない。どうやら、彼女にとっては他人も狸の置物もあまり変わらないようである。
 嬉しそうに話を始めるアン。だが、ピートはそれどころではない。アンの背後、即ちピートにとって正面で、エミが暗黒の炎を全身に宿しゆらりと立ち上がったのである。
「小娘・・・死ぬ覚悟できてんでしょうね?」 
 アンの胸に鉛を落とすかのように、エミが静かに言った。



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