ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/12)

 賑わいというのはその地域の特色、季節、テロの有無などによって大きく左右されるが、コンスタントに人が集まる場所というのは確実に存在する。
 やはりその筆頭は、電車やバス等の交通機関。そして、その中の最たるものである空の便を司る場所である成田空港は、今日も今日とて息が詰まるほどの賑々しさだった。
 ロビーには実に雑多な人種がはびこり、まるで第二のサラダボウルの様である。電光掲示板には飛行機の搭乗時間が無機質に刻まれ、スーツケースを持った旅行客やビジネススーツに身を包んだ企業戦士が忙しげに歩いている。あちらでは家族と再会を喜び合う者もいれば、こちらでは大量の土産物を小脇にへたり込んでいる者もいた。
 見ていて飽きない空港のロビーに、一人の少女が降り立った。少女は黒のセーターの上からパーカーを着込み、腰の部分にスリットの入ったタイトスカートを穿いている。サングラスをしているので目元は見えないが、短く切りそろえた金色の髪が異国の徒であることを明確に物語っていた。
 突然、少女の背後からもののぶつかり合う音が聞こえた。それに引きずられるように届く、男性のしわがれた叫び声。
「誰か捕まえてくれ!!そいつはひったくりだ!!」
 後ろを振り向くと、成る程帽子・マスク・サングラスと三拍子揃った男が、大き目のショルダーバッグを抱えてこちらに走って来るのが見てとれた。
その後ろでは、白髪が混じった初老の男性が必死で男を追いかけている。だが、見た目そのままの年齢故、追いつくのはおそらく無理だろう。
「そこをどけ!このクソガキ!!」
 男の逃走線上には、丁度障害物の様に少女が立っていた。男が走るスピードを緩めず、脅しさながらに少女に叫ぶ。だが、少女がその場を引く様子は全くない。
 男の巨体が少女を弾き飛ばすかのように迫っていった。

ドゴオォッ!!

 激しい衝突音と共に訪れる、一瞬の静寂。周りにいた野次馬は、総じてタックルを受けた少女の身を案じた。が、現実は全く逆だった。
 少女の体の一歩手前で、男の体に少女の拳が突き刺さっていた。少女がめり込んだ拳を引き抜くと、男は白目をむいてロビーの冷たい床に倒れ臥した。
 走って来た警備員と呆然とする野次馬連中を尻目に、少女はさっさと出口へと歩き去った。あーバカバカしい、とでもいわんばかりに。
 外に出ると、冬にしては少し強めの日差しが肌に降り注いだ。心なし顔をしかめるが、目が慣れるとそれほども感じない。
 こうしていざやって来ると、少女は改めて彼の事を思い出す。そう、自分が想いを馳せている、バンパイア・ハーフの彼のことを。
「太陽が明るいなぁ。ピートさん、大丈夫かな」
 少女はサングラスに手をかけると、すっと顔から外した。力強い美貌を湛える、凛とした眉と碧色の瞳。少女は空を見上げると、決意の意志を込めて握り拳を固めた。
「待っててね、ピートさん。このアン=ヘルシングが、必ず貴方の心を奪ってみせる!」
 そう、必ずね。ウフフフフ・・・
 アンはスカートのポケットに手をやると、確認するように入っていたブツを取り出した。それを手に不気味に笑うアンの表情は、さながら悪霊となったヘルシング教授も裸足で逃げ出すほどだ。
 アンはそのブツを大事そうにポケットに仕舞うと、ヒールの踵を高らかに踏み鳴らした。愛する人の元へと赴くために。

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