ザ・グレート・展開予測ショー

!光舞うシーサイドドリーム(前編)


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 3/11)

手狭な台所で――重心の移動と腰のひねりだけで隅々まで手が届くのは神業だったが――
忙しなくも軽やかに、手際よく料理する彼女の表情は明るい。
土休の週末、美神令子とアシスタント達は八丈島へ泊りがけの除霊に出かけた。
そのアシスタント勢のもっとも古株であるのが彼女の兄、横島忠夫であった。
兄がそういった大きな仕事を休むのは面子に関わると、彼女は聞かされている。
(勿論、これは旅行に行きたかった忠夫の方便である)
美神所長はどういうわけか、彼女にはすこぶる優しく、同行するなら金はもつという。
しかし、彼女の中の何かが、これに反発した。
――いえ、私もお兄ちゃんの稼ぎに頼ってばっかじゃなくて、何かバイト探さないと…
と、でまかせを言ってまで。いや、半分以上は本気だったのだが。
「結局探さなかったしなぁ…美神さんの親切をつっぱねて悪いことしちゃった」
他の人に接するときは(特に兄)烈火のような気性の荒さだが、美神は何度か
自分と手作りケーキを交換したり、買い物に連れて行ったりしてくれていた。
その親切さが、「まるで、自分になにかの負い目を持ってるかのよう」で苦手なのだ。
だが、そんな予感は多感な年頃に多いと聞く幻想の産物であろう。事実無根に違いない。
それは後で美神に謝っておかねばなるまいが、とりあえず今、彼女の最大の関心事は
一晩離れ離れになっていた兄に、「旅館じゃ味わえない程のご馳走」をふるまう事だ。
かとかと…と、鍋の上で蓋が揺れ、自分が動くたびにスカートも衣擦れの音を奏でる。
たたた、たたた、たんたんたんたんたん……
主役である包丁とまな板も調律を終えたように、見事なテンポを刻みだす。
じりりりりりん…じりりりりりん……
はて?あんな音を出す楽器はこの台所にあったかしら?などというボケを適当に口ずさみ
コンロのつまみを「消火」にあわせてから飛ぶように駆けて電話を掴み上げた。
「もしもし、横島ですが?……あ、おキ…へ?海に落ちた…ってお兄ちゃんがッ!?」
電話の相手は『落ちたって云うか…落としたって云うか……』と気まずそうに応えた。
そうとだけ聞かされて、彼女は大まかな事情を察していた。血を分けた兄妹である。
兄のしでかしそうなことには察しがつく。そしてその代償にも。
「自業自得…あーぁ、もぅ!バカよバカ!死ぬと解ってて特攻したんだもん、本望でしょ」
妹は胸の前で軽く十字を切った。別にクリスチャンというわけでもなかったが
先週学校で習った範囲だったので咄嗟に出てきたのである。
「…え?GS協会からの通達……絶対不浄霊域!?…うん、うん解った。あたしも行く」
今度は相手が驚く番だった。が、突っ込んで聞いてくる事は無く約束して通話を切った。
とりあえずやりかけの調理の後始末を、これまた神業のような無駄の無い動きで済ませ
通学用に使ってるデイバッグを引きずりよせて中身をかき出すと
学校の授業で使っている破魔札の「キープリミット」と記されたシールを剥がす。
一枚一枚、札を破らないようにソフトな手つきで、である。
札の値段――百円とか百二十円とかをまじまじ観察すると涙が出てくるが、仕方ない。
自分がとりあえず頼れるのは、今はコレだけなのだから。そしてコレを、
値段順に並べて輪ゴムで縛り、今度は買ったばかりの真新しいウエストポーチに入れる。
あくまでGS候補生に過ぎない彼女に揃えられる装備としては、これが限界であった。
そして、コレを使って今から、「実戦」が起こりうる。
心細いはずだったが、なぜだか夕べの就寝より落ち着いていた。
スカートからチノパンにはきかえて、淡いブルーのベストに袖を通す。
「バカでスケベで、カッコ悪くて情けないお兄ちゃんだけど…だから助けてあげなきゃ」
ぐっ、と拳を目前に寄せて、彼女――横島蛍は静かに、しかし力強く言った。
ウエストポーチをゆるめに装着し、家のと自転車の、2種類の鍵とケータイ、財布を
ポケットにねじ込んでタオルを肩にかけて出陣の用意がすむ。
(ケータイ料金は無論、両親もちである)
ついでに冷蔵庫から兄のゲータレードを失敬して、アパートから飛び出した。
駅の駐輪場を借りる分のお金は親から仕送られたが、生活費に回してしまっている。
五分弱歩くことになるが、自転車は近所のスーパーに停めてしまう。
限界速度を保っての自転車疾走は体にこたえ、ゲータレードは空っぽになった。
しかしその苦労は報われ、無事に快速電車で待ち合わせ場所に時間ピッタリで着いた。
「おキヌちゃん!」
五分余裕をみて先に到着していた友達に声をかけた。彼女はふりかえり、
「蛍ちゃん、道具は?」
「学校で買わされたお札だけ。セーフティは外したけど…他のヒトは?」
「美神さんは、免停されるかもしれないしシロちゃんはセスナのプロペラで目を回して
倒れちゃうしタマモちゃんは嫌いな臭いだから行きたくないって…」
おキヌは、まるで暗唱でもしているかのように天を見上げてまくしたてた。
「なんと、まぁ……」
目の前が真っ暗になる。現役のGSが関わりあいになるのを恐れるような危険地帯に
のり込むのに学生二名とは。無謀を通り越して愉快ですらある。
「人工衛星から撮った写真でね、すっごい「うじゃじゃ〜」っているの。全部鬼だって」
歩いて向かう道すがら、おキヌが、協会査察官とやらから受けた説明を聞かせる。
「鬼ぃ!?あーん、遭ったらお終いだわ…あ、うじゃうじゃいるんだから遭っちゃうか」
「でね、私が幽体離脱でうろうろ飛び回ってひきつけてるからその隙に…」
まるでいたずらの計画のように無邪気に、しかしぞっとするようなことをおキヌが言う。
「そんなの絶対ダメ!捕まった時になにも抵抗できなくなっちゃうじゃない。
それに体をほったらかしてたら死んじゃうんだし、やっぱり一緒に行くしかないよ。
お兄ちゃんのためだけに生きてるわけじゃないでしょう?」
「あ、うん」
蛍の言葉に、やはり見つかったいたずらっ子のような小さな笑みで応えるおキヌ。
「あたし達しかいないのは確かに正直不安だけど、だからって捨て鉢になっちゃダメ」
「うん、そうよ。みんな無事に帰ってくるために、頑張りましょ」
二人は都内から寄せ集められた廃棄物の山の陰に忍び込んだ。夢の島に潜り込むために。
「えーん、ゴミの中に入ったことある女の子なんて絶対お嫁にいけないよぉ」
「絶対ってこともないと思う……多分…きっと………絶対…?」
「……………………」
沈黙。
「絶………対…大……じょ、ぶ…」
かなり迷った挙句、言い切る瞬間あさってのほうへ視線をやる。
「………………」
更に沈黙。
「もしもの時は私が蛍ちゃんをお嫁にするから!」
ひた、と間があく。
「嬉しい!おキヌちゃん!!」
ぎゅっと抱きつく蛍。これが女子高のノリです。(c:ももせたまみ先生)
やがてハモッて呟く。
『こんなことやっててほんと大丈夫かしら...?』
知りません(by筆者)

終わり…たい気がしてきたなぁ…
つづきます

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