ザ・グレート・展開予測ショー

血塗られた2月14日(三)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 3/10)



「な、なぜ?・・・僕が何か悪い事をしたのか?」

 鉛よりも重く感じる脚をひきずるようにして、ピートは憔悴の眼のままに呟いた。

 ーーーひどい有様だった。

 残飯に顔から突っ込み、更に猫達に引っ掻かれては衣服もズタボロにされ、逃げようとした時には無我夢中のままに、散乱する汚物、汚水の溜まりの中を駆け抜けた為に、その汚れっぷりといったら浮浪者すら目を背ける程だ。
 無論、当たり前の事だが・・・『美形キャラ』としての気品を伴う存在感など、もはやどこにも見当たらない。
 どん底とはこういう姿を指すのだ!というくらいのどん底の『気』を発散しつつ、ピートはそれでも歩き続けた。

 ーーー救いを!

 そう・・・それだけを求めて、彼は知人の除霊事務所へとおぼつかない足取りのまま進む。
 彼の名誉(この姿にそんなモノが残されてるかは別として)の為に言おう。
 現在の彼は理性的な判断力など、これっぽっちも持ってはいないのだ。無理もない。ここまで自分の美形キャラクターという世界が崩されては、誰であろうと正気は保てまい。
 歩き続ける彼を目にして、道行く女性達は相変わらず嫌悪と侮蔑の眼差しを投げかけてくる。
 実際は女性だけでなく、老若男女問わず、今のピートには嫌悪というか不快感を抱いていた。
 ピートは気がつかない。
 今自分が『そういう目』で見られているのは、汚物まみれだからという事に。
 そして今は最初に自分が女性に忌み嫌われて、警官達に追われる事となった理由・・・そう、あのチョコだ!朝贈られてきたチョコに混入された魔法薬の効果・・・『異性に毛虫のように嫌われる匂いを放つ』というものが、汚物によって遮られているという事にも・・・ピートは気がつく事が出来ない。
 無理もない。理由は違えど変わらずに、自分に向けられる視線は友好とは真逆のままなのだから。

 ーーーそして。

「つ、着いた・・・やっと、着いた・・・!」

 ーーー遂に辿りついてしまったのだ。
 ーーー真の恐怖に、戦慄に・・・地獄に!

 ピートはノックする余裕すら持てずに、事務所の扉を開くと誰彼の姿を求めて目線をさ迷わせる。
 そしてーーーさほど時間もかからずに、犬科の少女達が二人して2階から飛び出すように姿を現した。
「な、何でござるかーーー!?この匂いはっっ!!?」
「・・・う、わ・・・シ、シロ!あれ・・・!」
 妖狐のタマモが指差す方を見、人狼族の少女シロは目を剥いたまま固まった。
 生ゴミが立ってる?いやーーー人?というかあれは!?
「ピ、ピート殿ではござらんかっ!?い、一体どうしてそんな姿にっっ!?!」
 そう叫ぶやシロは匂いに耐えきれず、しゃがみこんでいたタマモを起こすとシャワーの湯の準備を言いつけた。渋々と、それでもこの悪臭は何とかしたいと思ったのか、タマモはその言葉に素直に従った。
「何か・・・辛い目に遭ったんでござるな?」
 こちらを気遣ってくるシロのその言葉に、ピートはただ頷くだけ。しかしそれでもシロは気にした様子もなく、こう言った。

「大丈夫!武士の情けでござる!何も聞かぬから、今はゆっくり体を休めるでござるよっ」

 ・・・あぁ・・・!

 その瞬間、ピートの心は至上の幸福感に包まれた。

 何と嬉しい事なのだろう・・・こうして女の子に生ゴミ扱いされず、優しくしてもらえるというのは!

 しかもシロは人狼。この匂いの間近では想像を絶する程耐え難い筈なのに!

 ピートがそんなシロの思いやりに感動している内、奥の方からタマモの声が聞こえてきた。シャワーの準備が整ったようだ。

「さ!早く身体を温めるでござるよっ!」

 シロに背中を押されつつ、ピートはシャワールームへ足を運んだーー・・・



 ・・・生き返った。

 誇張抜きでピートはそう感じた。

 体の汚れと疲れが温かい湯に流されるのと共に、心の傷も寒さも癒されるのをピートはハッキリと感じた。
 そうなると次第に、余裕も生まれてくる。
(一体・・・何が原因なんだ?)
 正常に物事を考えられるようになると、ピートはすぐさまこの事態の解明を始めた。
 脱衣所には男物の服が用意されている。おそらくは横島の服だろう・・・そう思い、僅かな遠慮を押し退けて、ピートは手早く着替えを終えるとシロとタマモが紅茶を用意してくれると言っていた応接間へと向かう。
(何かある筈だ!いつもは無くて今日にだけ有った特異な何かが・・・!)
 その瞬間。
 ピートの脳裏を二つの雷光が疾け抜けた。
 一つはこの事態の謎を解く、重大な手がかり。
 そしてもう一つは・・・
「殺気!?」
 自分が向かう先の方向から、実直ながらも凄惨な殺気が漂ってくる。
『貴公に恨みはござらんが・・・』
 気配を隠そうともせず、通路の奥から殺気の主が・・・
「ーーーて!?シ、シロちゃん!?!」
 そう。
 そこに居たのはシロだ。先程の温かさなど微塵も見受けられない冷たい眼をしているとはいえ、間違いなく人狼の少女だ。

『拙者の本能が叫ぶでござるよ!ピート殿を斬り捨てよと!』
「え、ぇと・・・えーーーーー!!?」
『斬る!』

 ピートの狼狽になどまるで気にした風もなく、シロはピートに殺意の霊波刀を向けたーー・・・




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