ザ・グレート・展開予測ショー

夜、唄う 後編(U)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(02/ 3/10)

 エントランスホールの天井から垂れ下がったワイヤーと足元の土台に支えられ、ホールの真ん中にでんと突っ立ったツリーの向こうに目をやると、そこにあるティーンズ向けのファッションショップの中で確かに黄金色の頭がちらちら見え隠れしている。今日び茶髪や金髪頭の若者などそこら中にいるが、あの少年の髪が持つ天然の艶はそこらの染髪料で真似できるものではない。そう確信を持ってショップに近づくと、エミが予想した通り、そこにいたのはピートだった。
 ブルーのジーパンにバットマンのマークが入った黒のパーカー、紺色のジャンパーと、スーツ姿が多い彼にしては珍しく、外見相応の少年らしいカジュアルな出で立ちをしており、マフラーや手袋が並ぶ棚の前に立って時々品物を手にとっては自分に合うか試しているようである。
 よくよく見ると遠巻きにピートの方を注目しているらしい少女達がショップの周囲に群がっていたためエミはそういった他の女達をぎろりと見やって威嚇してから即座に笑顔を作り、普段は絶対に出さない甘えたような優しい声でピートに話しかけようとした。
「あらぁン♪ピートじゃな……」
「おーい、ピート。決まったかあー!?」
 ぶりぶりの甘えた声で話しかけたエミの声を突き飛ばして割って入る、どこかで聞いた声。
 ギン、と目を血走らせてその間抜けた声の主は誰かと見れば、これまた見慣れたバンダナ頭が棚の反対側から顔を覗かせてピートに話しかけていた。

「あ、はい。これにしようかと……」
「それ?ああ、良いんじゃねーか?俺もマフラーにするよ。こっちの棚に良いのがあったからさ。お前、こっちのも見たか?」
「ええ。さっき見ました。おキヌちゃんももう決まったんですか?」
「あ〜。ちょっと迷ってるみたいだな。ま、女の子はしゃーねーよな。色々目移りするだろうから」

 会話の内容からして、三人で買い物に来ているのだろうか。
 またタイミングを外してしまったらしいことにぎりぎりと歯軋りをしながらエミは、それでも買い物が終われば一人になるかも知れないと、少し離れて様子を見ることにした。
 ピートと横島がそれぞれ自分達で選んだマフラーを手にしてショップの一角で待っていると、しばらくして手袋を持ったキヌが小走りに駆け寄って来る。どうやら、それで三人それぞれの品物選びが終わったらしい。が、そのままレジに向かうのかと思って見ていると、三人はそのまま店の中で立ち止まっていて動かない。何か他に連れがいるのかと思っていると、デパート内の別の店から令子とひのめを連れた美智恵が出て来て三人と合流し、どうするのかと見ていると、美智恵が三人の選んだものをそれぞれ受け取ってレジを済ませに行った。
(隊長が?何で……)
「あ!エミさん!」
(!やば!)
 ピートが一人になるまで隠れているつもりが、つい柱の陰から身を乗り出してしまった一瞬の隙が悪かったようで、キヌに声をかけられてしまう。まずいとは思ったが、このまま走り去ってしまうのも不自然この上ないためエミは仕方なく開き直ると令子達の方に近づいていった。
「あーら、皆さんお揃いで買い物なワケ?」
「そうだけど、あんたは?……ハッ!まさか、ピートの後をつけてたんじゃあ……」
「違うわよ!このあたしがそんな情けない真似すると思って?あたしも買い物してたワケっ!」
 最初から後をつけていたわけではないが、姿を見かけた後はずっと陰から盗み見ていたので令子の言葉も図星と言えば図星なのだが視界の端でピートがサッと青ざめたのを感じて慌てて否定する。
 が、それで大人しく退く令子ではない。エミが現れたため少々腰が引けているピートのそばに行くと、その肩にポンと手を置いてわざとらしく深刻な顔と声音を作り言った。
「ピート、気をつけなさいよ。ストーカー防止法は男性からの被害申告も受け付けてくれるんだからね」
「キーッ!!レズ女のおたくに言われたかないわよ!!」
「!誰がレズですって!?」
「あんたよ、ア・ン・タ!」
「何ですってえーっ!?」
「そーんな格好してて男っけが無いなんて、絶対変なワケ!まあ、おたくみたいな強欲女にはどんな男も付き合ってらんないのもわかるワケ〜!!」
「ボディコンはお互い様でしょーが!!ああでも、色ボケ二重人格よりマシよねえ!?」
「あーら、そーゆーおたくも年上好みってことはぶりっ子入ってんじゃないワケ!?」
「うるさいわね!!大体あんた年下が好みなんてショタコン入ってんじゃないの!?」
「美形だからいーのよ!!大体ピートはショタコンって年じゃないでしょーが!!」

「あ、あの……令子さんもエミさんも落ち着いて……」
「ふ、二人とも、ここデパートですよ〜!」
「ピートもおキヌちゃんもやめとけ……。俺達じゃ止めに入るだけ無駄だ……」
 デパートの中。しかもエントランスホール近くのショップ前であることも忘れて舌戦を繰り広げる二人を前にピートとキヌがおろおろしながらも止めに入るがまるで通じていない。
 そうしている内にも何時の間にか二人の気配は一触即発という状況にまで高まっており、あわや、デパートの来客を巻き込んでの大惨事の発生かと思われたが、その張り詰めた気配は、コン、という小さな音で霧散した。

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