ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その七〜聖者の行進〜


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 3/ 9)

逝ったか…
小竜太は気絶などしていなかった。
横島の霊力の残量が極わずかだったからだろう。
そして、小竜太は、横島の死を音だけで確認した。
それは、至極容易なことだった。
自分で殺るのや、殺られるのとは、また違った緊張感が彼の中で生まれていた。
………
不快な音が消え去り、静寂が訪れる。
長かったのか、短かったのかはよく解らなかったが、
煩悩少年にはしばしの安息が訪れる。
小竜紀は、完全に横島が沈黙したのを確認すると小竜太に背を向けたまま話し掛けた。
「…竜太さん。聞いているのですか?」
小竜紀は下を向きながら―――小竜太の眼を見ずに話し掛けていた。
「なぜ?横島さんがこんな所に居るんですか?
 案内だってしていないのに―――二人でお風呂を覗こうとしてたんですか!?」
怒りに肩を震わせているのだろうか?
私に失望しているのだろうか?
いや、理由などどうでも良い!
小竜太は最大のタブーを侵した!
『姫様を傷つける』
―――いや、本人としては本当に覗く気は無いと思っていたのだが
過去のことはどうでも良い!問題は今、何をすべきか――だ。
「――文殊をドレだけ作れるか…が知りたかったんです。」
小竜紀に嘘はつきたくない。
だが、今、ここで質問に答えないという行為は
自分に質問をしている小竜紀への嘘をつくよりも酷い無礼にあたる。
「信じてもらえないかもしれませんですが…」
「なぜ、文殊を!?」
小竜紀は勢いよく後ろを振り返り小竜太に問い掛ける。
「以前、横島のヤツここに来たって言ってましたね?そのときはどんな修行を?」
質問を質問で返され、ほんの一瞬、眉間にしわを寄せて考える小竜紀。
「短期間での…命を賭けたヤツとかですか?」
小竜紀が口を開くよりも先に、小竜太が訊く。
そして、それがいけなかったの?とでも言いたそうな顔で頷く小竜紀。
「アイツは…横島は、自由な剣を振ります。俺たちが忘れてしまった…
 ―――いや、私たちが知らない何かの為に…
 だが、文殊の能力は鍛えれば鍛えるほど強くなる。
 だが、その自由!それすらも殺してしまう…
 剣は確かに凶器だっ!だが兵器じゃあない!除霊程度の作業には文殊は必要ない!
 いや、むしろ危険すぎる!…です。」
とっさに考えた結果にしては上出来だ。
【―これは嘘だって?ノン、世間ではこういう事を口からデマカセとゆーのだよ、諸君】
「…じゃあ、私のことを覗いてどうしようとか、そんな事ではないんですね?」
フッ、と小竜紀は安心したような――少し曖昧な笑顔をつくった。
(笑顔!?…かわいい…―――いや、違う!!―――いや、違わないっ!!
心の底からかわいいと思ってます姫様!!――って、そうじゃない、
笑ってるんですよっ!?小竜太さん。愛しの姫様が!しかも、どこか寂しげに…
覗く気が無い=私って魅力が無い、と思ってるのですか!?――そんなことはっ!!…)
二秒!!小竜紀に問われてからここまでの時間、約二秒である!!
感想を述べたり、謝罪したり、自分にツッコンだり、問い掛けたり…
小竜太は頭の良い方だが、ここまで出来るのは愛の成せる奇跡であろう。
「姫様、それも違います!横島に覗かせる気は毛頭ありませんでした!
 姫様のツヤのある肌!その長い足!極稀に出くわす太股!
 イロっぽそうな肩!隠しきれない乳!それを影で惹きたてる腰と尻!
 なぁによぉり、未だ見ぬ逆鱗をぉぉぉーーっ!!!」
言い終えた瞬間、彼には後悔の念は微塵も無かった。
(これで…よかったんだ)
清々しい!実に爽やかな気分であった!
小竜太が覚えているのはここまでだった。
そして、師弟は同じ運命(さだめ)をたどるハメに…
ついで、その絶叫を聞いてシロがタマモの幻術から抜け出たのだが、
その話はまた別の機会に…

どのくらい時が流れたのだろう?
―――体中が痛ぇ…
とりあえず、意識を取り戻してから最初の―その状況において極自然な―感想である。
全身の痛みに堪えながらゆっくりと起き上がる。
不運の師弟の間で、先に目を覚ましたのは師匠の方だった。
(ケッ…この野郎、いびきまでかきやがって)
ヤローと共倒れ、目覚し時計はそのヤローのいびき。
寝覚めには最悪の音と最悪の状況だったが、気分はそれ程悪くない。
久しぶりにバカやって、久しぶりに暴れて、久しぶりにド突かれる。
実に、久しぶりだ。
とっくの昔に忘れてしまった筈の、とっくの昔に捨ててきてしまった筈の、
とっくの昔に置いてきてしまった筈のものを、合間見えた気がした。
それは、昇進と引き換えにした大きな感情だった。
だが何故!?
それとは別に疑問も浮かび上がる。
(最初にコイツがここへ来た時、同じように叩きのめしたが、
その時は確かこいつの方が先に目が覚めてたよな…じゃあ、今度はなぜ?)
その疑問はすぐに掻き消された。
横島は気絶しているのではない。…寝ているのだ。
おそらく、小竜太の使った文殊の所為であろう。
闘劉神は、実は文殊等のかなり特殊な分野の霊具にも精通していた。
先ほど小竜紀に言っていた言葉も全くの嘘ではない。
事実、彼は横島の文殊を強化しようとは考えていなかったし、したくも無かった。
横島の能力の内でも文殊は神族、魔族にとってもかなりのイレギュラーだ。
そんな、文殊にも横島は屈しなかった。
文殊は自分自身には通じないのだろうか?
いや、そんなことは無いだろう。
もしそうだったら、身体の治療や霊力のパワーアップにも使えない筈だ。
では、火事場のバカ力だろうか?
人間という生物は生きようとする信念や、憤怒によってとんでもない力を発揮する。
確かに、あのときの横島の怒りはMAX寸前だった。
――が、それでも文殊の作用を数分も遅れさせることは可能だろうか?
それも、一時は文殊の効果を発動させながらも…
(ゆで○まごのマンガじゃあるまいし…)
それじゃあ…………

―――酔拳だな。
(寝ぼけてたんだろ、要するに。…うん。)
世の中には科学のチカラでは解明できないものがある。
そんなものは、適当に理由をつけて自己完結するのが一番だろう。

考えがまとまったところで小竜太はおもい体を必死に動かす。
そして横島に『闘劉神自慢のなが〜い足』が届く所まで移動し…
「横島!いつまで寝てんだよ。さっさと起きやがれ!」
そんな、かけ声が妙神山に響き渡り彼らの一日は始まる。
実際に響き渡ったのはかけ声だけではなかったのだが、まぁ別にたいした問題ではない。
   続く

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