ザ・グレート・展開予測ショー

time-less sleep


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 3/ 9)

「相手は2体。結構息の合ったコンビだから、揃わせないで除霊するほうが楽らしいわ」
事も無げに言った美神は「私が一匹潰すから、片割れの方お願い」と続けた。
そんなこんなで、横島とおキヌは廃ビルに踏み込んだ。
捜索の方は驚くほど順調だった。素晴らしい快挙だったといっていい。
なにしろ標的の補足に、ものの三分も要さなかったのだ。その後、即交戦した。
「おキヌちゃん、笛を!早く早く早くぅぅッ!!」
横島は得意の見切りで悪霊の突進をマタドールさながらに(多少不恰好だが)避け、叫ぶ。
「は、ハイッ!」
応えつつごそごそとやって笛を取り出すおキヌ。
「ゴオォォウゥゥゥッ!」
獣のような咆哮を轟かせ、悪霊はなおも横島に向かい、拳を叩きつけにかかった。
美神と比べるのも(双方に対して)気の毒な話だが、悪霊の動きは遅い。
もっとも比較できるほど両者の速さが近いだけでも悪霊がきわめて強力である証だった。
ただ、横島がもう少しベテランだったならばこの悪霊の動きの単調さにつけこめた筈だ。
パターン化された動きだろうと相手のウラをかく動きだろうと横島にとっては等しい脅威。
ほとんど直撃寸前の拳を飛び退いてかわし、横島は目にかかる汗を拭う。
ピルルルルルルルルルルッ
ようやく、死出の正しい道程へと導く笛の音が響きはじめた。
――フーッ、これでなんとか片づいたか…………
横島はげっそりした心地で再度額を拭い、さっき既に拭っていたのを思い出してやめた。
「死ネッ!苦痛ニ悶エロ、血デ泳ゲ!!」
ゴヒュッ
突如悪霊の思念が爆発し、優しい眠りに導く領域は打ち消される。
この悪霊、生前快楽殺人者で、GSを返り討ちにして悦に入る目的で自殺して今に至ってる。
「きゃっ!?」
「お、おキヌちゃんッ?」
詰めが甘かった。成仏を確認しないで気を抜いたのだ。
そのミスに気づいてか否か、横島は緊張した。彼とおキヌの間に悪霊。挟み撃ち、ではない。
悪霊のあの動きをおキヌに捉えられるわけもなく、戦力を分断されたことにしかならない。
「くそったれめぇぇぇぇッ!!」
横島は渾身の気合で『栄光の手』を構成し、そのままその爪を伸ばす。
悪霊の興味は自分が惹かなければならない。相手に考える隙を与えたくはなかった。
ひょいっと、いとも無造作に頭を反らし、爪を避ける悪霊。
賢くはなかったので、本能が見切ったらしい。場数だけは横島以上に踏んでる様子だった。
伸ばしきった爪が戻るまでは、横島は攻撃も防御も、回避すらも出来ない。
そのことに横島が気づいたのは、悪霊の重厚なぶちかましを受けた瞬間だった。
「ぐ…うぉああ……ッ!?」
筋肉といわず骨といわず、身体中のあちこちが悲鳴とも警鐘ともつかぬ異音を奏でる。
視界はでたらめに様変わりし、手も足も首も無茶苦茶な方向に力を加えられて軋む。
それがおさまった時、横島はその悪霊のパワーに呆れるしかなかった。
――よく生きてるもんだなしかし……
自分が吹っ飛ばされて転がり回った距離をざっと見て、感想は胸中にしまいこむ。
経験から言って、骨折した時ほどの痛みはなかったが、動けるかとの問いに頷く気を奪う
そのぐらいのダメージだ。頷ける人間に言わせれば「根性の問題」というヤツである。
因みに「頷けない畑」の人間の言い分は「動くと痛いもんはしょうがない」だ。
なんにせよ、横島は動かなかった。ただちょっぴり、念じただけだ。
そしてそれはすぐさま、絶大な効果を発揮させた。なぜならその念が文珠にこもったからだ。
「グゥゥゥゥゥオオオォォォッ!?」
廃ビルは、基幹から敷地から一切合財「崩」壊して塵と消えた。多分、地縛霊である彼も。
「やろうと思うと…ここまでできんのか……我ながらぞっとしねぇな」
寝転がったまま、横島は痛み以上に恐怖で汗ぐっしょりになって呟いた。
効果対象が「ビル」である以上、文珠はどこまでも「ビルのみ」を徹底的に処理する。
しかしそれは結果でしかない。逆に「対象に選ばれたモノ」はどこまでも確実に滅ぶ。
ビル内にいた自分達まで巻き込んだかも解らなかった文珠でのこの結果は
本意といえば本意であったが、心地良いものでは決してなかった。
おキヌの方はというと、あまりにあんまりな状況にへたり込んでしまっていた。

敷地ごとごっそり抉り取った後始末で、除霊料は羽を生やして飛んでいった。
横島は美神に「新世紀になっても世紀末愚者」という、なんだかわけ解らないフレーズを
血文字で記されて吊るし首に処されていた。その上、美神への借金推定額百万である。
そして二日目。なんとか縛めであるところの荷造り用ビニールテープが切れ、解放された。
ここで、美神が仏心を出してテープに切れ目を入れておいただろうと思うのは軽はずみだ。
経費削減の目的で、使用済みのテープの寄せ集めだったので、むしろ
二日も耐久する程の頑丈な紐に仕立て上げるのは生活の知恵総動員だったに違いない。
「うぐ…ッ!うぐ…ッ!酷いや酷いや……俺だって必死だったんだ…なのに…」
涙ながらにお冷をあおり(事務所のジュースに手をつけると美神が冷ややかに睨むのだ)、
テーブルの向かいに座るおキヌに愚痴をこぼした。
「……そうですね…あの時しっかりしてなかった…役に立てなかった私に比べれば…」
「……ッ!…ひゅっく!」
驚きのあまりシャックリまで吐き出す横島。
彼女の力をほとんど活かせてなかった事を、その時初めて気づいた。
「どんな霊でも解り合えると思ってたのに…それに私には…あんな戦いができません」
どこまでも暗く濁った心に触れたこと、悪霊の猛攻を軽くいなす横島のこと、
いつかの時はくすんで沈んでくれた思いが、再び彼女の中で身を起してきていた。
「…ひゅっ……できなくていいと思う…『あんなマネ』はできなくて正解だよ…くっ…」
横島には戦慄するような考えがあった。文珠は、「あの自分の能力は自分の手におえない」。
自分の能力なのに!自分はその全貌を把握できもせず、全くの手探りで扱ってる現状だ。
今までもそうだったのだろう。「一歩間違えば人が死ぬ」レベルの、不定形の力――。
「……弱かった頃の横島さんは、喜んでました……」
「そりゃあ――」
「私は今、弱いんですッ!」
辛辣だった。なにしろ横島には、彼女の辛さの源さえも解ってやれない。
横島が悪霊になす術もなかったあの頃、彼はそんなことを疑問にすら思ってなかった。
何故彼女は焦るのか?何故彼女は憤るのか?何故彼女は、こんなにも哀しそうなのか?
「ゅくっ…解らないよ…昔の俺も、こんな不発弾みてぇな力なんて欲しがっちゃいない」
「『解らない』んじゃなくて『思い出せない』んですよ」
これはおキヌに分があった。横島は確かに、一度だけ力を欲し、雪之丞を頼っていた。
「だからっておキヌちゃんが力欲しがるこたァないだろ?あんなサイコヤローは反則だよ」
横島は今回の除霊の話に引き戻して声を荒げる。
「私のせいで誰かが死んでも、そんなこと言うつもりですか!?」
「そんなことにはならないよ。美神さんがきっとなんとかしてくれる」
「……『きっと』じゃダメですよぉ…」
ふさぎこみつつ、彼女は涙声でか細く抗弁した。
横島は泣きだすより早く会話を弾ませるべく、まるっきり脊椎反射に近い反応で言った。
「じゃあ俺が『絶対』なんとかするよ」
おキヌの身体がしばらく小刻みに震えていた。
泣くのを堪えようとしてくれてるのかと思い、横島は心の中でそっと胸を撫で下ろす。
「う……ううう、うぅぅぅうううぅ………」
「…おいおい……」
とうとう泣き出してしまったおキヌを見、横島は所在無さげに呟いた。
彼女が涙する理由が、既に悲しみでも憤りでもないことすら気づかずに………


゙無力さに身体預けていても人は生きてゆける゙


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