ザ・グレート・展開予測ショー

!〜悪夢を見た夜は〜


投稿者名:桜華
投稿日時:(02/ 2/25)


「――――!」
 声にならない悲鳴を上げ、アタシは飛び起きた。
 肩で息をしながら、周りを見る。いつもの、アタシの部屋だった。
「……ゆめ?」
 いまだ興奮状態にある頭で、アタシは考える。
 夢。
 いやな夢。
 お兄ちゃんの死ぬ夢。
 なんて悪夢。
 
 ガバッ!

 寝汗で張りつくパジャマにかまわず、アタシはベッドから飛び下りた。
 そのまま、駆け足で部屋を出る。
 さっきのは夢だろう。夢のはずだ。多分。
 頭ではそう思う。でも、体は、心は違う。
 もしかして、と、思ってしまう。不安にかられてしまう。
 だから、私は駆ける。安心したいから。夢であることを、確かめたいから。
「お兄ちゃん!」
 お兄ちゃんの部屋の扉を、勢いよく開ける。
 部屋の中は――深夜だから当然だけど――明かりがなく、何も見えなかった。
 目が闇に慣れるまでの時間が、途方もなく長く感じられた。
 やがて、部屋の様子がうっすらと浮かび上がってきて―――
「ん……ほたる……?」
 ――――――お兄ちゃんの声だ。
 アタシは無我夢中で、お兄ちゃんに抱きついていた。
「わぷ。ほ、ほたる……?」
 驚くお兄ちゃんに、アタシは力一杯抱きつく。しばらくして、お兄ちゃんが力強く抱き返してくれた。
 これだ。このぬくもり。この安堵。この心地よさこのあたたかさ!
 お兄ちゃんだ。お兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだお兄ちゃんだ!!
「おにい……ちゃん……」
 涙が流れた。
 とても恐かった。とても恐ろしかった。お兄ちゃんがいなくなると、お兄ちゃんが死ぬと思っただけで。
 だけど、杞憂だった。お兄ちゃんはちゃんといた。ちゃんと、ここにいてくれた。
 安心して、涙が流れた。
「どうしたんだ、ほたる?」
 しばらくして、お兄ちゃんが聞いてきた。
 アタシは、涙声で答える。
「夢を見たの。とても、とってもいやな夢」
「どんな夢?」
「アタシね、東京タワーにいたの。よく分からないけど、誰かと戦ってるの。でも、相手はとても強くて。アタシ、全然かなわなかった」
「……それで?」
「殺されるって思った時、お兄ちゃんが助けてくれたの。お兄ちゃんが、アタシをかばってくれたの。相手を倒してくれたの。でも……」
「でも?」
「でも、そのかわり、お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……
 その…………死……………………」
 ギュッと。
 力強く、抱きしめられた。あたたかい腕に、抱きしめられた。心地よい胸に、抱きしめられた。
「……怖かったか?」
 お兄ちゃんの胸の中で、アタシは頷く。
「恐ろしかった?」
 頷く。
「大丈夫。夢だから。オレはここにいる。そうだろう?」
 頷く。
「大丈夫さ。オレはちゃんと、お前の側にいるからさ。ほたる」
 頷く。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「……しばらく、こうしててくれる?」
「お前が寝るまで、こうしててやるよ」
「やだ。寝てからもこうしてて」
 アタシの言葉に、お兄ちゃんはくすくすと笑った。
「わかったよ。今夜は一緒に寝よう」
「……このままがいい」
「はいはい」
 お兄ちゃんは、また、困ったようにくすくすと笑う。
 その笑顔に、アタシは途方もない安らぎを覚える。さっき見た夢のことなんか、キレイさっぱり忘れていた。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、ほたる」
 その声は、優しさを抱き。
 その声は、あたたかさを持ち。
 その声は、ぬくもりに満ち。
 アタシの心に、染みとおる。
 アタシの心の隅々まで。アタシの身体の隅々まで。
 その声は、安らぎをもたらす。
 アタシは心地よさに目を閉じ、眠りの縁へと落ちていく。
 大好きな、お兄ちゃんの腕の中で。

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