ザ・グレート・展開予測ショー

!縁者の贈り物 後


投稿者名:フチコマ
投稿日時:(02/ 2/22)

…とにかく何か手立てを考えなければいけない。
とりあえずこの依頼書をつき返すことはできなくなったということだ。

キャンセルしたら…ダメだ。信用を失うという点では失敗と大して変わらない。
他人に頼めば…? エミさんあたりは確かバイクの免許を持っていたはず…。って、余計ダメだ。そんなことが美神さんに知れたら殺されてしまう。
そうだ。そういや雪之条の奴、最近バイクの免許取ったとか言ってたな。あいつなら…
俺は一縷の望みをかけて奴の携帯番号を回した。

回線がつながり、呼び出し音が鳴った
 『もしもし』
…と思ったらすぐに応答が来た
 「!!……雪之条か?」
あまりの早さに驚いて間があいてしまった。
 『おう。横島か。どうした?』
 「おまえ、バイクの免許取ったって言ってたよな」
 『ああ。バイクもローン組んで買っちまったぜ。サイドカーもつけられるヤツだ』
なぜ固定収入も無いコイツにローンが組めるんだ?…やめよう。考えるだけムダだ。
 「じゃ、おまえ6月20日空いてるか?」
 『空いてない』
コレもやたら即答だった。だからと言ってコイツはウソを吐くような性格でも無い。本当に空いてないのだろう。
 「まいったな。実はその日の除霊にバイクに乗れる霊能力者が必要なんだけど…」
 『なんだ。んじゃ、おまえも取りゃいいじゃねーか。免許』
こともなげに言い放ちやがった。他人事だと思って。
 「ふざけんなよ」
 『ふざけてねーよ。バイク免許なんて簡単な筆記試験と実技試験だけで取れるんだ。20日は付き合えねーけど、練習ぐらい付き合ってやるぜ。俺とおまえの仲だからな』
…どーゆー仲だ? しかしコイツの話を聞いているとホントに簡単に取れそうな気がしてくる。
 「……本当に20日までに取れるのか?」
 『ああ、おまえなら大丈夫だろ』
コイツの安請け合いにはけっこう煮え湯を飲まされてきているが、選択肢はあまりない。ここは信じるしかない…か。
 「じゃ、頼む」




雪之条の言に偽りは無かったが、それから俺の地獄の日々が始まった。
実技試験対策のため、昼間は雪之条にバイクを借りて技術をみっちり教え込まれた。ほとんど奴の憂さ晴らしのような気もしたが。
筆記試験も簡単などと言いつつ覚える事は多く、アンチョコを買って仕事場への行き帰りの電車でひたすら頭に叩き込む。
仕事は専ら夜を徹して行い、何とか日々のノルマはこなしていった。
家に帰るのはだいたい朝方になったが、あれ以来、蛍のイヤガラセ攻撃も食事の用意も無かった。
それがホッとする反面、少し寂しいような気もした。そういえば最近、あいつとは話どころか顔も合せていない。
しかし俺には時間的余裕が、いや余裕と呼べる一切のものが存在しなかった。
アパートに戻れる短い時間は体力・霊力の回復を最優先にしなければならなかった。




6月20日の夜。俺は最後の依頼場所。例のバイク野郎が出る峠に来ていた。
免許の取得には成功していた。
実技・筆記両試験の日程にも恵まれたし、雪之条の特訓の成果か試験の内容も何とかなった。
『大型2輪免許』。雪之条は何食わぬ顔で『普通2輪』より難しい試験を受けさせやがった。
結果的に、より速いバイクに乗れるのでこちらでよかったのだが、説明ぐらいしやがれ。

今日乗ってきたバイクは雪之条のものではない。
あの野郎の今日の予定ってのはデートのことだったらしい。ご自慢のバイクにサイドカーをつけて出かけて行きやがった。
もしかしてあのバイクってこのため…? そう言えば電話にでるのもやたら早かったな。…奴も苦労してんのかな?
そう考えると邪魔してやろうという気もおきない。尤も今日の俺にそんな時間的余裕もないが。

仕方が無いので事務所のガレージにあったバイクを人口幽霊1号に乗り移ってもらって引っ張り出してきた。
あいつも最初は渋っていたが、仕事に失敗すると美神さんが激怒する旨を仄めかしたら急に協力的になった。
美神さんの霊波動で自らを維持するあいつにとって、美神さんの怒りの波動はかなりの苦痛なのだそうだ。

ともかく今日までのノルマは全てクリアしてきている。これが最後の1件だ。
コイツさえ片付けちまえば、美神さんの怒りもこうむらなくて済むし、1週間分のギャラ…の3割は手に入るので蛍の学費もたぶんバッチリだ。
蛍……
 「そういや、まだ、あいつに謝ってなかったな――」
でも、何で謝るんだったっけ? 俺、何かやったっけか……?


 『目標、接近中。距離、500m……300…200…』
人口幽霊1号の無機的な声が響く。
考え込む俺の脇をすさまじいスピードで何かがすり抜けていった。
間違いない。バイク野郎だ。

俺は急いで発車し、ヤツに追いつく。
俺の技術は完全にシロートだが、その辺は俺の霊波を受けた人口幽霊1号がサポートしてくれる。
 「おい! バイク野郎! 峠の頂上まで勝負だ! 俺が勝ったらおとなしく成仏しろ! いいな!」
バイク野郎は何も言わずにこっちを向いて俺が叫ぶのを聞いていた。フルフェイスのヘルメットをしていて表情は分からない。
まあ、幽霊に表情もクソもないが…。
俺が隣に並ぶとバイク野郎は片手の親指を立てて見せ、いきなりスピードを上げた。どうやら主旨を理解したらしい。


俺とバイク野郎はすさまじいデッドヒートを繰り広げた。カーブに差し掛かるたびにマシンが接触しそうになる。
相手のマシンは霊体でできているのだが触れてもスリ抜けるのかどうかは、ちょっと試してみたくない。
それにしても俺のドライビングテクニックの無さのせいもあるのだろうが、俺の霊力に憑いて来れるというのは相当の未練の持ち主だったようだ。
頂上に至る最後の直線。俺とヤツは、ほぼ横一線に並んだ。
直線ではテクニックの影響が少ないため、霊力に勝る俺のほうが有利だ。
微妙な差だったが、確かに俺のほうが先に頂上に辿り着いた。

その瞬間、隣を走っていたヤツが淡い光に包まれる。そいつはヘルメットを外し、こちらを見て微笑んだ。
 「…女!?」
微笑を浮かべたまま女の亡霊は光の粒子となりながら虚空に飛び出し、消えていった。
……え!? 飛び出し…!?
女に見とれていて気付かなかったが、目の前は峠の頂上の崖だ。
しかし気付いたときには時既に遅く、俺も女と同じ様に虚空に飛び出していた。
かといって俺は光の粒子になって消えるわけにもいかない。
 「あああぁあぁぁぁ――――ッ!!」
今度こそ死んだかも……。意識が遠のいていく……。

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