ザ・グレート・展開予測ショー

!縁者の贈り物 中


投稿者名:フチコマ
投稿日時:(02/ 2/22)

美神さんは今日、書類整理と帳簿付けをするということだったので、俺は休みだった。
だからたぶん。美神さんは事務室に居る。
俺はまっすぐに事務室へと向かった。

事務室に入ると意外な事に美神さんしかいなかった。デスクに着いて書類に向かい頭を抱えている。
他の連中は…夕飯かな?
ドアをしめると、美神さんはその音に反応したように顔をあげながら話し掛けてきた
 「なぁ〜に!? おキヌちゃん。入っちゃダメって……」
どうやら他の連中は締め出して作業していたらしい。この人はまたなんかヤバイことをしているのだろうか。
 「横島クン? 今日はあんたは休みじゃないの。何しに来たの?」
 「あ〜、ええっと、そのぅ」
さっきの様子を見る限り、今日の美神さんは機嫌が悪そうだ。ヘタな切り出し方をすれば、俺の願い出が一蹴されるどころか、どつかれかねない。
 「仕事を…いくつかまわしてもらえませんか…?」
とりあえず単刀直入に要件を伝える事にした。
 「……………」
沈黙が走る。ヤバイ。失敗か? 俺は次に起こる何らかのリアクションに対して身構える。
 「…どうして?」
どうして? しまった。質問が来るとは思わなかった。ここで正直に話してしまって良いものか…。
否。この人に弱みを見せてもロクなことにはならない。かくなる上は……
 「今月、苦しいんスよ〜! もー食費も底をつきそうで! ここらで少しまとまった収入が無いと……」
土下座。頭をガンガン床に叩きつける。ここで蛍の名前を出すのも賢明では無さそうだ。
 「…………」
沈黙。ごまかし切れなかったのだろうか。顔をあげるのが怖い。
 「いいわ。何件かまわしてあげる」
 「ホントですか!?」
顔をあげると美神さんは既にファイルを一掴みほど取り出している。あの内から選ぶのかな?
 「じゃ、あんたはコレお願いね。期限はまちまちだからそれぞれ遅れないように処理して行ってね」
と言って手にもったファイルの束をドサッと……どさっ?
手渡されたものに目を向けてみると、ざっと見て10件はありそうなファイルの山。まさかコレ全部…?
 「一番早いので今日中ね。もし一つでも落としたらギャラは無しね」
落とすってあんた、マンガ家じゃあるまいし…って、ギャラなし!? 今日!?
 「こ、こ、コ、コレ、全部!?」
仕事は欲しいと言ったけど、さすがにコレは。
 「だいじょーぶ。1週間あんたは私たちと別行動とっていいから。あ、今日はあと6時間しかないわね〜」
 「!!」
なんかムチャクチャだがノーギャラは困る。
俺は反論する暇もなく走り出した。階段を駆け下りながら、今日中という依頼に目を通す。
仕事場は東都大学。コレなら何とか今日中に……
俺は弾丸のような勢いで事務所を飛び出していった。




 「つ、疲れた……」
俺は駅からアパートまでの道をふらふらと歩いていた。
 「なんなんだ。東都大、吉田講堂のゲバルト学生の怨念って……」
いままで相手していたのは学生運動が半ばで潰えた無念が作り出した学生の怨念たちだった。。
 「霊力は少ねークセにやたらとあざとく立ち回りやがって。おかげで走りまわされてヘトヘトだ」
結局、除霊は明け方近くまでかかってしまった。
仕事に着手したのが昨日であるし、授業開始には間に合ったということで、依頼主は期限オーバーを許してくれた。
ギャラは前払いされていたらしい。しかしこれで200万ってのは胡散臭いな。俺の手取りはその3割、60万か。
………けっこう多いじゃねーか。
とりあえず当面の危機は脱したわけだが…疲れた…眠たい…。

アパートの自分の部屋の前に辿り着くと、ドアに紙が張られているのに気付く。何か書いてあるようだ

 『お兄ちゃんの バカ!』

怒る気にもなれずドアをあけると、部屋との仕切り戸にも

 『お兄ちゃんの バカ!』

何気なく見渡すと、キッチンのガス台の上においてある鍋の蓋にも

 『お兄ちゃんの バカ!』

その隣にはご飯が盛られた皿が置いてあり、それに張られたラップの上に

 『お兄ちゃんの バカ!』

そこまで来てやっと気がついた。
蛍は自分の作った料理を食べてもらいたかったのだ。
 「そういえば昨日、夕飯食ってなかったな」
俺はおもむろに鍋の蓋を開けると―中身はやっぱりカレーだった―皿のラップを剥がしてご飯を放り込み、鍋ごと抱えて中身をかっ込んだ。
冷たい…けど、うまい。
最後のひと掬いまでキレイに平らげると、今度は眠くなってくる。
布団くらい敷いといてくれているだろうか…。

キッチンと部屋との仕切り戸を開ける。
 「……おい」
妹を起こすといけないので大声は出さなかったが、声を出さずにもいられなかった。
 「俺は…どこに寝ろと?」
妹は4畳程度の空きスペースのド真ん中にこれ見よがしに自分の分だけの布団を敷き、手足を伸ばして気持ち良さそうに眠っている。
ご丁寧にも掛け布団には特大の『お兄ちゃんの バカ!』が貼られている。
 「………」
俺は苦笑いをして、妹の布団の横に回りこんだ。
壁を背にして座り込み、妹の寝顔を眺める。
幸せそうな顔して眠ってやがる。
俺はなんだか安心して、いつのまにか意識を失っていた。



 「お兄ちゃん。お兄ちゃん! 起きて! 学校に遅れちゃうよ!」
誰だ? 俺を起こそうとするのは……この声は……
俺は薄目を開けて確認する。ああ、やっぱり……
 「ん……ル…シ…?」
一瞬、目の前の人物が酷く悲しそうな顔をしたように見えた。なんでそんな顔するんだよ。
 「先に行くからね!」
ああ、待って。行っちゃダメだ…く…体が動かない…意識が……。



 「…………」
目を覚ました俺はしばらく天井を眺めていた。なんだかすごく悲しい夢を見たような気がする。
 「って、え? 天井!?」
いつのまにか俺は布団の上に寝ていた。この布団は……なんだ。俺のか。
妹が移してくれたのだろうか。そう言えば昨日はずいぶん怒ってたみたいだったなぁ。あとで謝ろう。

……きのう?

 「やべぇ!」
俺は飛び起きて時計を見る。12時。
部屋の隅に落ちていたファイルをかき集めて、目を通す。今日中の仕事は…良かった。1件だけだ。
今日は何とかなりそうだ。でも〆切ギリギリで仕事をこなして行くってのもアレだな。面倒な仕事が重なってたりするとヤバイし。
とりあえず落ち着いて全てのファイルに目を通してみる。

 「…あの女ぁ…!」
ファイルにあるのはどれも面倒でしんどそうな仕事ばかりだった。まあ美神さんのやりそうな事ではある。
コレを一人でしかも1日平均1件以上をこなせと言うのはオニ以外のなにものでもない。
かといってやらなければ間違いなくノーギャラ。あのひとはそーゆー人だ。
観念してファイルを読み進める。一番下のファイルが一番期限が遅いらしい。6月20日。6日後だ。
 「なになに。峠を攻めている途中に事故って転落死した峠族の怨霊。バイクで高速移動し、霊力も高いので通常除霊処置は難しいと思われる。以前のヴィスコンティ除霊時のように霊的レースで成仏させるのが望ましい…」
バイク乗り…峠…で、レース……?

 「バイクなんか乗れるかあぁぁぁ!」
俺は電話に飛びつき、事務所の番号を回した。さすがにコレだけは俺にはムリだ。
数回の呼び出し音の後、受話器の上がる音。
 『はい! 美神除霊事務所です!』
 「あ、おキヌちゃん!? 美神さんは……」
 『ただいま職員は全員出張中です! 帰りは6月20日になりますので御用の方は発信音のあとに…』
 ガチャン
留守番電話。6月20日って…。

  俺は目の前が真っ暗になった。

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