ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 電脳編 前


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/17)

 「……なんだ? おぬしらは?」
 「この妙神山修行場になんぞ用か?」
門に張り付いた顔が話しかけてきました。
 「ここにアシュタロスの部下だった魔族――名はなんと言ったかのう…」
 「パピリオ・です。ドクター・カオス」
 「そうじゃ。パピリオがいるじゃろう。そやつに会いに来た」
Dr.カオスは最近、物忘れが激しいです。パピリオの名もつい2時間36分52秒前に聞いたばかりなのですが…。

 「……………」
マリアがDr.カオスの方を向いて待機していると、Dr.カオスは振り向いて引きつった笑みを浮かべました。
 「何せ大発見に興奮していて話のつながりしか聞いておらんかったからな」
???。今のつぶやきはマリアに向けられたものなのでしょうか。話の流れに沿わない発言です。……理解不能!


Dr.カオスが妙神山を訪れた理由は2時間前の出来事にあります。
事の次第はマリアのメモリに保存されています。


2時間前。Dr.カオスはミスタ・厄珍の店に発明品を売り込みに来ていました。
 「今回のはスゴイぞ。魔法科学を駆使して造った、意志を持って逃げ回る『絶対停められない目覚まし時計』じゃ」
Dr.カオスが懐から取り出したのは、アナログフェイスに二つの鐘が乗っかっており、ハンマーで叩くタイプの目覚し時計です。
ただし足の部分には文字通りの『脚』がついていました。
 「ふ〜ん。フツーの目覚ましと、どー違うアルか?」
ミスタ・厄珍の対応はいぶかしげです。あまり期待していないようです。

 ジリリリリ!
 「クッ! このっ! 待つアル! 逃げるかッ!?」
試しに鳴らされた目覚し時計は停めようとするミスタ・厄珍の手を余裕で避けて逃げ回ります。見事なフットワークです。さすがドクター・カオス!

 ジリリリリリリ!!
 「ふはははは、どうだ。停められまい。これでどんな寝坊でも一発早起きじゃ!」

 ジリリリリリリリリ!!!
 「わ〜かったアル。今回はまともそうアルな。認めるから早いトコそいつを停めるアル!!」
目覚ましは音量をどんどん上げています。既に始めの2.4倍に達しました。

 ジリリリリリリリリリリ!!!!
 「停まらんぞ」
 「ハァッ!?」
目覚ましの音はもはや店中に響き渡っています。ミスタ・厄珍はDr.カオスの声が聞こえなかったのでしょうか。

 「停まらん。と言っておるのだ。『絶対停められない』と言うたじゃろが」
Dr.カオスは胸を張って自信満々です。ドクター・カオスの言葉に嘘はありません。
 「…………」
ミスタ・厄珍は黙って下を向いて震えています。顔色も興奮により上気しています。
 「そのうえ、だんだん音量を上げていく親切機能付き! まさに完全無欠じゃ」
 「なに言ってるか!? 起きてからも停まらないこと自体、既に欠陥アル!!」
その一言にDr.カオスは頭を抱えてしまいました。
 「ああッ!? しまった! そんな盲点がッ!?」
 「何が盲点か!? 停まらないだけなら、停止ボタン無しの目覚まし時計作ればいいアル! 早くそのウルサイの何とかするね!!」
 「……仕方ない。マリア! 破壊してもかまわん。そいつを停めろ!」
 「イエス・ドクター・カオス!」

Dr.カオスの命令が下りました。マリアは目覚し時計を停めます。
目標を捕捉して最速のチョップ!
 ドガッ! ひょいっ ドドガァ!! ひょいっ
目覚ましはマリアのチョップも紙一重でかわします。さすがドクター・カオスの作品です。でも命令は遂行します。そのための手段は選びません。
 ジャキィ! ダダダダダダ! ガシャーン パリーン ボンッ ダダダダ! ビシッ チュンッ ドッ
 「あ〜〜〜〜! やめるね! 売り物が! 店がぁ!」
ミスタ・厄珍が抗議していますがDr.カオスの命令が優先です。命令の実行のためには多少の犠牲もやむをえません。
目覚ましは弾幕を器用にかわしながら入口付近に回り込みました。この間合いならアレが使えます。
マリアは軸足を入口に向けて一歩踏み込みました。
そのとき。

 「おわっ!? なんだっ? やめろ!マリア!おちつけッ!?」
横島さんが入口に現れました。マリアの足は今にも横島さんに『クレイモアキック』を繰り出しそうな位置に構えられています。思わず全ての動作を中止します。
 「横島…さん…?」
動きを止めたマリアのほうを見て一瞬安堵の表情を見せた横島さんの顔がすぐにしかめられました。怒らせてしまったのでしょうか。
マリアは最速で待機の姿勢をとり、横島さんの顔を注目します。

横島さんの顔がしかめられたまま下を向きます。マリアも視線の先を追います。……目覚し時計!!
横島さんの足元には大音量を放つ目覚ましがありました。人間の鼓膜には不快な音量でしょう。
とりあえず横島さんの表情の原因がマリアでないことは分かりました。
でも、まだ、なんだか落ち着きません。しなければならないことが残っているような感じです。

横島さんの表情を元に戻したい。不快そうな顔をしていて欲しくない。そのためにも…あの音を止めたい。
でも横島さんを危険にさらしたくも無い。目の前に横島さんが居る以上、マリアは行動をとれない。

横島さんは耳を指でふさぎながら目覚ましを踏みつけようと奮闘していますが、マリアは何もできません。
目の前の横島さんの表情。ひそめられた眉。しかめられた目。ゆがめられた口角。
マリアはこのような大音量も平気なのですが、なぜか不快感を覚えます。身体が共鳴でも起こしているのでしょうか。
それよりも、何とかしなければいけません。でも、どうしたら…?

…………???
顔を上げた横島さんと目が合いました。マリアをジッと見つめてきます。マリアを責めているのでしょうか。
でも、そのまなざしには何もこめられていません。先ほどまでの表情も跡形なく消えています。
3.24秒見つめ合ったあと、横島さんが足元に目を戻しました。マリアも視線の先を追います。
そこには依然として目覚し時計があり、未だにアームを激しく動かしていましたが、それはもはや何の音も発していませんでした。


 「まさか鐘を強く叩きすぎるあまりハンマーが吹っ飛ぶとはな。しかしどうじゃ。絶対に停められんかったじゃろ」
目覚ましはまだ動き続けており、掴み上げようとしたDr.カオスの手も避けました。
 「また、しょーもね―モン作ってんなぁ。オッサン」
横島さんはいつもの微笑みの表情に戻っています。それはいいのですが……。
 「しょーもないとはなんじゃ! ワシが魔法科学の粋を結集して……」
 「しょーもないどころか最悪ね! 店と商品を破壊して、どうしてくれるアルか? これはざっと見ても10億は被害が…」

横島さんは2人の言い合いが聞こえないかのように、目覚ましに見入っていました。
 「魔法科学……か。そういやぁ、アイツがよくいじくってたメカもこれに似てたかな……」
横島さんはそう言って手を伸ばしましたが、これも目覚ましを掴む事はできませんでした。
 「なんじゃ? 小僧。ワシ以外にもこんなに高度な魔法科学の使い手がおるのか?」
 「…………もう……いねぇよ」
横島さんの瞳の焦点が変わったのが分かります。どこか遠くに合わせてあるようです。そのまま暫く沈黙が続きます。

次の発言を待っていると横島さんが顔を上げてマリアと目が合いました。
 「ああ、その、だから…つまり…」
横島さんが慌てたように言葉をつなぎます。表情は微笑みのままですが何かいつもとは違う印象を受けます。
全体的に不統一というか……不自然さが漂う表情。
 「アイツのは魔法科学って言わんと思うぞ? 車も、逆天号も生き物っぽかったけど、むしろアレは魔物そのものだったような……言うなれば魔物科学ってトコじゃないかな。ハハハ…」
横島さんは引き攣った表情のまま、自分の発言に笑っています。でも話が通じません。
 「待て、小僧。逆転号というのは先のアシュタロス事件の時に世界中の霊的拠点を壊滅させた戦艦の名前ではないか!?」

Dr.カオスの言葉に横島さんの笑いが止まりました。耳の下を人差し指で掻く仕草をし、目を閉じて軽く息を吐きます。
次に開かれた目は、もう笑っていませんでした。顔全体が目に合せて、表情が統一されます。
 「そうさ。アイツは…ルシオラはメカニックが専門だった。逆転号はアイツが作ったんじゃないかも知れないけど、修理をしてたのはアイツだった。俺も一緒に修理した事があったっけな……」
横島さんの目の焦点がまた外れていきます。

予期せぬ事態が発生しました。
ルシオラさんの話については横島さんの前ではしないようにとDr.カオスにも言いつけられています。
しかし、この場合は……?
Dr.カオスを仰ぎ見ると「しまった」というような顔をしています。
マリアもDr.カオスも何も言えずに横島さんの次の言葉を待つだけでした。
 「よく見ると…全然ちげぇや…アイツの作るメカは…どれもこれももっと悪趣味で…グロくて…でもなんだか親しみがあって…」
マリアとDr.カオスは顔を見合わせました。その顔からは狼狽がうかがえます。マリアもどうしたらよいか分かりません。
 「ネーミングもセンスは無いけど親しみはあったよな。転生追跡計算鬼『みつけた君』とか言ってさ…」
 「なに!? 転生追跡!? そいつは動くのか!? 役に立つのか!? 結果は正確なのか!?」

Dr.カオスが突然、横島さんに掴みかかりました。
 「あ……ああ。美神さんの時は一発で見つかったな」
 「―!! それはどこにある!? 誰が持ってる!?」
Dr.カオスは依然としてすごい剣幕です。
 「…逆転号の中じゃねーか? あれ? そういや逆転号ってどうなったんだ? わかんねーや」
横島さんの襟首を掴んだままDr.カオスの表情が失望に沈みます。
横島さんの表情は今では、いつも通り…いえ、少しDr.カオスへの憐憫がうかがえます。
 「べスパかパピリオなら知ってるかもな。べスパは今、魔界の軍に入ってるから会えないけど、パピリオなら妙神山に行けば…」
途端にDr.カオスの顔に輝きが戻ります。掴んでいた手を離して、マリアのほうを振り向きました。
 「マリア! 妙神山じゃ!」
 「………イエス! ドクター・カオス!」
マリアはDr.カオスを背負い上げます。飛び立つ前に横島さんを振り向いて見ました。
横島さんの表情には、もう呆れしか浮かんでいません。マリアの知らない横島さんは微塵も感じられませんでした。
マリアは足裏のロケットを点火し、飛び立ちました。

マリアの方を見上げている横島さんの隣でミスタ・厄珍が何事か喚いているようでした。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa