ザ・グレート・展開予測ショー

Coming her to HONG KONG(W)――強襲――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/16)

 何も出て来ないのならばそれに越した事はないのだが、こう静かだと、それもますます不気味に感じる。
(うううう……出来ればホントなあ〜んにも出て来ないでこのまま帰って寝たいけど……)
 明飛は、体育館の中心に簡易結界を張って、そこに居座っていた。……これならば、相手が何処から現れてもある程度は反応する時間があるし、たとえ姿を消していたとしても、この結界に捕まって暫くは身動き取れなくなるはずだ。
「でも、使えるのがお札だけじゃ……はっきり言って心元ないよ……うう」
 声に出して言う。……師に聞かれたら張り倒されそうだが、生憎ここに雪之丞は居ない。本当に、残念ながら居ない。
 来る途中に買ってきた粽(ちまき)で腹ごしらえはしたが、なにやら不安な予感が余計な体力を使わせている気がする。……冷汗が止まらない。闇の中で視界も狭い為、悪霊の気配を捉えるには、一瞬たりと油断するわけにはいかない。……懐中電灯の灯火を、周囲に投げ掛け続ける。
(伊達サンが当てに出来ないんなら自分で何とかするしかない……)
 考える。生き残る為、注意しておく事の他に今の自分に出来る事はそれ位しかない。……出来れば破魔札は使いたくはない……だが、使わざるを得ないだろう。減給されても、死ぬよりは幾らかマシだ。
 さらに、掌の中には一粒の珠がある。リュックに入っていたからには除霊道具なのだろうが、使い方が分からなければ意味もない。……一応、破魔札と共に後ろポケットに突っ込んでおいたが、どれほど役に立つかは怪しいものだ。
(使えるのは……破魔札と……吸引札……か)
 考えるまでもないが、いちいち破魔札で霊団を除霊していくのは、ほぼ不可能だろう。……技量にも拠るのだろうが、……少なくとも自分の技術では不可能だ。
 ならばどうするか。
(逃げ回って……防御して……霊団を操っている教師の霊を見つけ出して……即刻除霊する……)
 …………生き延びる事が出来る可能性は、限りなく零に近い……
 だが、零ではない。……昔のアクション映画に出て来そうなセンテンスだが……今回ばかりは、自分もその言葉にすがるしかなさそうだ。
「毎回毎回……いい加減命削りすぎだよボクも……」
 声に出して言うと余計に寂しさがつのる。……明飛は息を吐き、そして……眼を閉じた。
(休んでおかなきゃ……後で力一杯運動することになるんだから……ね)
 視界を完璧に閉じ、聴覚を除いた全ての感覚を、全身からシャットアウトする。……色々と命を削りながら身に付けた特技(師も出来るらしい)だが、意外と役に立つものだ。……特に、こういう場合においては。
 明飛は待った。……このまま夜が明けてくれる事を心底願いつつ。


 油麻地まではメトロで行けた。
 そして、今もここに居る。……彼女は嘆息した。……基本的に、メトロやマップには、英字が付記してある為ここまでは問題なかった。……だが、街中はそうはいかない。広東語を解せない彼女にとっては、何処に行ったらよいのかさっぱり分からない街だ。
(全く……か弱い女の子一人を迎えにも来ないでこんな所に放り出して……)
 考えれば考えるほど腹が立ってくる。……腹立ち紛れに駅前に停めてあった中古のトヨタに蹴りを入れつつ、何処に行けばよいのか考えてみる。
(ここは……ヤウマティ……という街。……雪之丞の事務所があるのは……ええと、ちむ……さーちょい……? バスか何か出てないのかしら……?)
 だが、バス停を探すのも困難だろう。……バスを諦めるとしたらタクシーか? ……いや、雪之丞の事務所の正確な位置が分からない限り、タクシーは拾えない。
(さて、どうしましょうか…………ん?)
「アナタ……ジャパニーズ……か?」
 香港人らしい男が声を掛けてきた。……自分に。
「エエト……ドコのツアー? ツアー、もう、決まる……した?」
 どうやらバイトの現地ツアー客寄せらしい。……片言の日本語で何か、こちらを必至に引きとめようとしているのが分かる。
 …………ひらめいた。
「あなた……車、ありますか?」
 取り合えず問う。これがなければ意味がない。
「是! ……ハイ! ツアー、決まってない?」
 広東語で答えてしまったらしい。意味は分からなかったが、後から言い直したところを見るとおおむね、後の意味で間違いないだろう。
 彼女は微笑んだ。……思いっきり。
「ええ」
 男は喜んで、彼女の腕を引いて行く。……彼女は引かれるままに付いて行きながら、黙って胸中で舌を出していた。


(――! 来た!)
 見鬼くんの反応。明飛は眼を開けた。……懐中電灯の小さな灯明が、刹那凄まじいまでの光となって眼を灼くが、すぐにそれは元の大きさに戻る。……眼は大分闇に慣れていた。……闇の中に……結界の壁に阻まれ蠢く悪霊たちもはっきりと見える。
(……霊団か)
 簡易結界は今の所霊団の進入を阻止しているが、それも何時まで持つか分かったものではない。……早急に親玉を探し出さなければならない。
(親玉は……どれだ? 教師の霊……)
 ふと、気付く。
「しまったああああああああっ!? 親玉を探す方法を考えるの忘れてたああああああああっ!!」
 失策。……それも、命に関わる失策。……親玉を短時間で見つけ出せなければ、自分の考えた方法は使えない。……それにも関わらず……すっかり忘れていた!
「ああああああああああっ!?」
 結界の端限界まで退がるが、元より小さな簡易結界である為、それほどの大きさはない。もちろん、強度も……
「くそっ! 悪霊退散っ!!」
 破魔札を投げる。……轟音と共に炸裂した破魔札は、結界の壁に張り付いていた悪霊の大部分を吹き飛ばしたものの……
「ああっ! やっぱり駄目かっ!」
 悪霊はすぐにまた集まってきた。……霊団というものの性質上、このような単発の攻撃は殆ど意味がない。……分かっては居たのだが……
(くそっ! 駄目だ……っ!)
 ピシ
「え?」
 音。……聞き覚えのある音。
 結界に向き直る。……簡易結界は、最早殆ど破られかけていた。
「ああああああっ!? 結界結界結界結界結界ぃぃぃっ!?」
 急いでリュックの中をかき回す。……が、
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「うわあああああああああっ!?」
 結界が、破られた。悪霊がこちらへ向かってくる。……その光景が、やけにゆっくりと見えた……
 そして……淡い光が、明飛の眼を灼いた……


「鳴唖唖唖ァァァァァァァッ!?」
「ごめんね」
 尖沙咀、セントラル。
 車から降り、彼女は再び歩き出した……


 現在時刻、23時05分

                            ――To be continued――

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa