ザ・グレート・展開予測ショー

!〜よく晴れた空の下で〜 前編


投稿者名:猫姫
投稿日時:(02/ 2/14)




 一学期の終りの日。終業式の日。
 明日から夏休みが始まる、素敵な日。

「ねえ、蛍ちゃん」
 帰りの仕度を急いでる所で、おキヌちゃんに声をかけられた。
「これから、横島さんとお出かけ?」
「え、なんでわかったの?」
 確かに今日は、お兄ちゃんと約束してるけど。
「だって……ほら、あそこ」
 おキヌちゃんが指差したのは窓の外。その先にあるのは校門。
 そして、額にバンダナをした……
「お兄ちゃん!」










〜よく晴れた空の下で〜 前編










 とにかく急いでカバンに色々を詰め込んで。「いいなー」と指をくわえるおキヌちゃんを振り切って。声をかけてくる友達に別れの挨拶を返しながら、廊下と階段を全速力で走破して。
 やっとの思いで校門にたどり着いた私の息は、すっかりと切れてしまっていた。
「よう、蛍。何だかお疲れみたいだが、体調不良か?」
 ニコニコ……というよりは、ニヤニヤしながら声をかけてくるお兄ちゃん。
 むー、なんてヤツ。わかってるクセに。
 これは、反撃の必要アリね。
「えいっ♪」
「うわっ!」
 隙を突いて、お兄ちゃんの背中に抱きつく。
 お兄ちゃんて、えっちなくせにこういうのはダメなんだよね。
 顔を真っ赤にして、わたわたするのがちょっと可愛い。
「ほ、蛍!?」
「ふっふっふ〜♪あそこの窓から、おキヌちゃんも見てるよ〜♪」
「わかった!俺が悪かった!」
「うむ、よろしい。……で、なんでココに居るの?」
 ちょっぴり「はぅーん」と気持ち良くなってしまって、危うく更にハイレベルなスキンシップに移行してしまいそうになったのを押し隠しつつ、当初の疑問を問いただす。
「お兄ちゃんの学校だって、今日が終業式でしょ?」
 そう。学校帰りにしては早過ぎる。着ているのも私服だし。
 と、ゆーことは……
「ああ、サボったから」
「やっぱり……」
 コトも無げに言うお兄ちゃん。ガックリな私。
「ま、通知表やらプリントやらについては、我が親愛なる友どもに託してあるから一切問題ナシ」
 ああ、ごめんなさい。ピートさん、タイガーさん。
「そーいう問題じゃないでしょ!」
「ま、そう怒るな。ちゃんと用事があったんだって」
 子供みたいに無邪気な笑顔で、校門の影を指差す。
「雪之丞ン所に、アレを借りに行ってたんだ」
 そこにあったのは、銀色に耀くピカピカのサイドカーだった。






 あれから私達は、着替えと荷物を取りに一回アパートに戻ってきた。

「お兄ちゃーん、用意できたよー」
 今日の私の服は、ゆったりしたデザインの白のワンピース。
 裾に淡い水色のグラデーションが入ってるのがお気に入り。
 本当はこれにぴったりと合う帽子があるんだけど、今日はバイクで出かけるから、残念だけどお留守番。だって、ヘルメット被っちゃうから。
 履物は編みこみのサンダル。

「おー。こっちの準備もOKだ」
 お兄ちゃんの服装はTシャツにジーンズ。肩に、薄手の白い上着を引っ掛けてる。靴は、金属のハーネスで留めるタイプの黒いショートブーツ。
 男の人の服って、あんまりバリエーションがないと思う。
 おキヌちゃんやかおりちゃんの話では、お洒落をする事は女の子の特権なんだって。
 私もその意見に賛成。魔理ちゃんは首を捻っていたけど。

「よっしゃ、んじゃ行くか」
 颯爽とバイクに跨るお兄ちゃん。
 いつもより、ちょっとだけカッコ良く見える。

 お兄ちゃんがバイクの免許を持っているのは、以外な事だけど、美神さんのおかげ。あの人がお金を出して、お兄ちゃんを教習所に通わせてくれた。
『どうせ丁稚を雇うなら、より使える丁稚の方がいいからね』
 そんな風に言ってたけど、本心は別な所にあるのが私にもわかる。
 だって、言葉にも態度にも出ないけど、お兄ちゃんを見つめるあの人の眼差しは、とてもとても優しいから。

「ほれ、メットとゴーグル」
「あいあい」
 お兄ちゃんからジェットヘルとクラシックなゴーグルを受け取って、私はサイドカーの横付け座席(『船』って言うんだって)に乗り込む。
「スカートの裾、気をつけろよ」
「うん」
「じゃ、行くぞ」
「うん♪」
 どるるん!とエンジンを轟かせて、サイドカーが発進。
 加速と風圧を受けて、背中がぎゅっとシートに押し付けられる。
 ダイレクトに感じられる、空気を切り裂いて疾走する感覚は、何回味わって見ても凄く気持ちがいい。
「で、どこいくのー?」
「おう!決めてないぞ!」
 ……アタマ痛いよ。
 走り出してるのに目的地を決めてないのもそうだけど、どーしてそんなに自信満々に言うかな?
「どーする気なのー」
「んじゃ、今すぐ決めよう。…………よし!海行くぞ、海!」
「えー。だって、水着ないよー」
「気にするな!気にしたら負けだ!」
「何よそれー」
 冗談みたいなやりとり。
 お兄ちゃんが笑う。
 私も笑う。
「よっしゃ、このままノンストップで海まで行くぞー!」
「休憩はしようよー」
 私とお兄ちゃんは、笑いながら走っていく。
 笑いながら、コンクリートの密林を脱出する。

 水面に光が跳ねるように、空が輝いていた。



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