ザ・グレート・展開予測ショー

Coming her to HONG KONG(V)――来訪――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/13)

 校舎の中に踏み入れても、出迎えはなかった。
(以外に……静かだな)
 除霊現場には何度も雪之丞と共に踏み込んだ事があるが、このような事例(ケース)は初めてだ。……油断は出来ないが。
 明飛は、懐中電灯の灯りを頼りに、階段を上っていった。……先程校長に聞いた話から、自分なりに理解した事もある。……即ち、悪霊は何処から出るか分からない。
 大体の出現位置が決まっているのなら対処法もあるのだが、その出現位置が不特定だとすると、後はもう持久戦しかない。……一所に陣取って、悪霊がそこに姿を現した所で何とかして叩く。……今の所最良の方法であるはずだ。
(でも……)
 問題は、『どうやって叩くか』なのだ。
 自分に霊能力は使えない。……使えたとしても、それなりの腕を持つであろうGSまでもを敗退させた相手に、自分の力が通じるのかどうかも分からない。
(……ここか)
 古びた文字盤には、『体育教室』の文字がある。いわゆる体育館だ。ここなら広いし、多少傷ついても問題ない。
(あの校長サンは怒るだろうけどね……)
 ふと思いついた考えに自分で相槌を打って、嘆息する。……考えたくもない。今は自分の事だけで手一杯だというのに。
(破魔札は……使うと伊達サンが怒るし…… 神通棍……駄目だ、ボクには使えない…… 精霊石なんか論外だし……)
 実際、三ヶ月程前の『九万ドル破魔札・雑魚霊に使用事件』の煽りを喰らって、未だに給料は生活ラインギリギリしか貰っていない。……この状況に拍車を掛けるような事は起こしたくない。
(敵は霊団と、その統率者(コマンダー)……)
 基本的に、霊団を叩くには、その霊団を操るモノを見つけ、叩くのが一般的だ。自分も、師にそう習った。
 だが、統率者はある程度頭の良い霊が多く、霊団の弱点となる自分を、相手の見える位置に置く事などは殆どない。……師の友人も、昔それで非道い目に遭ったらしい。
(ええと……神通棍は使い減りしないけどボクには使えないし…… 神通ヌンチャク? ヌンチャク振り回せるようになるには何年も修行積まないと駄目なんじゃなかったっけ……)
 リュックに入れておいた除霊道具を、取り出してはまたしまう。……早く自分が使える武器を探し出さなくては……
(ええと……簡易結界……見鬼くん……)
 ちなみに、見鬼くんは先程から最大限の反応を示している。
(霊体ボウガン……駄目だ、霊団じゃあんまり効果ない…… ん? 何だコリャ?)
 巨大なリュックの左ポケットの一番底、何か、球形の物が入っている。
「これは……?」
 声に出して疑問符をあげながら、明飛はたった一つの『珠』をつまみあげた。


 高速鉄道(メトロ)は、その名の示す通り、高速で走る鉄道だ。香港国際空港から、香港島まで。観光客の足となり、その名を国内外に轟かせている。
 ただ、今日の客はいつもとは少し違っていた。
「お、お客さん! 運転席に入ってきては困りますっ!」
「うるせェッ! こちとら非常事態なんだ! あ、コラ何減速しようとしてんだお前っ! これか!? これがアクセルなんだな!?」
「ヒッ!? だ、誰かっ、テロリストだ! 列車テロだぁっ!!」
「誰がテロだっ!? いいか、命が惜しければこの電車を終点まで停めるなよ……俺は目的の為なら鬼になれる男だぞ……」
「ああっ!? やっぱりテロだぁっ!」
「違うっ! あ、そのブレーキから手を離せっ! 俺は急いでるんだよっ!」
「コラアンタ! 楊(ヤン)に何をやってるんだ!」
「ああっ! 黄んんっ(ウォン)! 助けてくれぇっ!?」
「ああもうっ! 急いでるんだって言ってんだろうが!? 車掌さん、アンタも大人しく仕事に戻れっ! 俺にだって事情があるんだよっ!」
「な、何だとこの若僧がっ! その年齢で人生の酸いも甘いも知りきっているような態度をしおってっ!」
「いいからっ!」
「ああ……黄んんん…… 犯人を刺激しないでくれぇぇぇ…… 俺が首を絞められてるんだぁぁ……」
「だいたい貴様……貴様は事情があるというが、俺に事情がないとでも思ってんのか!?」
「あ?」
「毎日毎日、朝早くから夜遅くまで…… 何かイベントがある度にオールナイトで運転するからこないだも息子を行きたがってた遊園地に連れて行けなかった……」
「……おい」
「家に帰っても妻に冷たい眼で見られ……挙句の果てに先に寝られている始末! 一家の為に身を粉にして働いている俺に冷たい麻婆を喰わせてっ……!」
「くっ! 黄っ……お前なんかまだマシだ…… いいか聞け小僧、俺なんかなぁ……俺なんかなぁ……金を稼ぐ為に福建省(フーチェン省)から出てきてなぁ……」
「お〜い……」
「政府の援助が受けられて金になるってんでこんな仕事に就いて……やってみれば休みもロクに取れない仕事だったってんだ! しかも稼ぎの3割は仕送りで消える! アパートの家賃すらロクに払えないってんだよおぉっ!!」
「いわれてみれば少し訛りあるな……」
「うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! その俺たちに向けお前は何だ!?」
「お前に何があるってんだ!? この俺たち以上の何がっ!?」
「だああああああああああああっ!! オッサン達、何でもいいからブレーキから手を離せってんだよっ!!」
「うぅるせぇえっ! ここでクビになってたまるかああぁ! 乗客の皆さぁん! ここにテロリストが居まぁす! 皆さんで取り押さえてくださいっ!」
「あ、テメェッ! 助っ人呼ぶとは卑怯だぞっ!」
「ハッハッハ! 小僧、これが大人の力だっ! どうだ、凄かろう! 公安でたっぷりと絞られてくるが良いわ!」
「チクショー!!」
 電車は、次の駅で停車した……


「何よ全く……雪之丞の奴迎えにも来ないで……!」
 彼女が空港内に降り立ち、諸手続きを済ませ、ゲートから出て行った言葉がそれだった。
「ふぅ……ええと、事務所の場所は……と」
 九竜半島、尖沙咀。
 彼女は高速鉄道に乗り込んだ……


 現在時刻、21時50分

                            ――To be continued――

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