ザ・グレート・展開予測ショー

Coming her to HONG KONG(U)――覚悟――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/12)

「ありがとうございました〜♪」
 マニュアル通りの応対をする女性店員の声を背中に、雪之丞は『店』を出た。……どうも行き着けない店に長時間滞在した所為か、背中の辺りがむず痒い。
 アクセサリー・ショップ。
 元来観光地でもある香港には、観光客を見込んで、多数のこう云った店舗が存在する。大型のチェーン店から露店まで、種類も値段も様々だが、扱っているものは概ね同じだ。
(こんなものか……な)
『プレゼント』は購入した。……取り合えずこれを渡しておけば怒鳴られる事はないだろう。
(後は……)
 明飛をどう言い包めるか…… 彼女が来るなどと言う事は死んでも言いたくはないし、彼女が来るときに明飛に事務所に居てもらっても困る。何とか事務所から遠ざけて置かねばならないだろう。
(ま、それ位なら簡単な事か……)
 取り合えず沙頭角(シャータウコク)辺りまで買出しにでも行かせれば、どんなに早くとも帰ってくるのは三、四時間後だ。……除霊具が必要だとか何とか、明飛を言い包めるのは割と簡単な仕事だ。
 差し当たっては、自分の問題の方が重要視すべき事だ。……さて、どうしよう。
(アイツ……断りもなくチケットまで買っちまいやがって)
 電話で聞いた話によると、飛行機の到着時間は……
(21時30分……今19時20分だから……うおっ!? 後二時間しかねえ!?)
 香港国際空港まで、メトロ(高速鉄道)で約一時間。……今から事務所に戻り、飛行機のゲートを調べてからでは、ギリギリ間に合うかどうか……
「ああっ! クソッ! 急いで戻らにゃ……」
 雪之丞は事務所へと急いだ。


 尖沙咀市内、その、とある学校……
 そこに、明飛は居た。……いや、居てしまった。自分に悪霊退治など出来るわけもないというのに……
(……短い人生だったなあ……)
 何か、えもいわれぬ覚悟までもが、胸中に去来する。
 結局、師は見つからなかった。携帯電話も置いていってしまったようなので、今の所、雪之丞と連絡をとる手段は全くない。……いっそのこと、事務所で帰ってくるのを待ってから出るということも考えたのだが、……やはり切羽詰まっていたようなので……
(……って、それでボクが大ピンチに陥ってどうするんだよぉ……)
 一応、自分には霊力があるらしい。……しかも、相当な霊力が。……これは、師の御墨付きである。
 だが。
(使い方も分からないのに……そんな事全く意味ないよ……うぅ)
 肝心の使用法は、雪之丞は全く教えてくれなかった。……そのくせ、自分を色々と危ない所に連れまわすので、生き残る技術だけを無駄に叩き込まれている気がする。……実際、基礎体力と逃走術、隠密術などは、半年前とは比べ物にならないほどスキルアップしたと、自分でも思う。……無論、それが悪霊退治にどういった働きをするのかなど全く分からないのだが。
「悪霊は……何処にでも現れます」
 この学校の校長だという凄まじい髭面の男が、その厳つい顔に似合わない怯えた表情で説明する。……メモを取っておくが、それが本当に役に立つのかどうかすら、最早分からない。
「では……幸運を祈ります」
「ハ……ハイ」
 やっぱり、自分一人で進まなければならないらしい。この校長は頼りにならないが、それでも、いざ一人で夜の校舎内に悪霊退治の為に入っていかなければならないとなると、一人きりは心細い。
「え、ええと……悠さん? その悪霊って、どんな感じの奴なんですか?」
 肝心な事を聞き忘れていた。……霊の種類が分からなければ、対策の取りようがない。
「…………教師の霊ですよ…… 黒板がある教室に入り込んでは、訳のわからない事を黒板に書き連ね、辺りの雑霊をおびき寄せているらしいです…… 前のGSの見立てによれば」
「え? 前のGS?」
 聞いていない。師の前にも、GSがこの事件の為に雇われていたというのだろうか。
「はい…… 5日前に違うGSが除霊に挑みましたが……残念ながら、除霊は失敗しました。彼は今も意識不明の重体だとか……」
 ……………………………………………………………………………………
 本気で……自分は大ピンチなのかもしれない。
 校舎へ向け歩きながら、明飛は、後悔とはまた違った意味での恐怖が湧き上がってくるのを感じていた。


 雪之丞が事務所に戻ったのは、そろそろ20時半を回ろうかという頃だった。
「オイッ! 明飛っ、急用だ! ちょっと沙頭角まで破魔札買いに行ってくれねえか……って、あれ?」
 居ない。……電気は点いているにもかかわらず、事務所内には誰も居なかった。……完璧に整頓された室内には、塵一つ落ちていない。……いや?
 絨毯の上に、紙片が一枚落ちている。
(これは……)
 恐らく明飛がプリントアウトして行ったのだろう。……香港国際空港に離着する飛行機の時間帯と場所。
「……よしっ!!」
 ゲート確認。現金も、プレゼントも持ったし、服装もまぁこんなものだろう。……あとは……自分が、間に合うか?
(いや…… 間に合わせなくちゃならねえ……)
 半年前、資格取得試験で戦った後も、彼女は暫く口を聞いてもくれなかった。……出迎えに行かなかったなどといったら、どれだけのことになるか、想像もつかない。
 ここから最も近い駅は、油麻地(ヤウマティ)の駅だ。……尖沙咀は確かに大都市だが、交通の便は意外と悪い。
(急がなければ……)
 愛車(事務所を開いたときに買ったトヨタ。当然中古車)に乗り込み、エンジンをかける。こんなときに限ってかかりが悪かったりもする。……ともあれ、制限速度を大幅に逸脱する速度で、雪之丞は尖沙咀の街を突っ走った。
(クソッ……間に合えよっ! っ!?……?)
 突如、悪寒を感じる。……微弱ながら、霊気も……
(何かあんのかよ!?)
 だが、構っている暇はない。……雪之丞は猛スピードで、闇の中、何故か煌々と明るく光る学校の脇を通過していった……


 現在時刻、20時45分

                            ――To be continued――

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