ザ・グレート・展開予測ショー

ふれんち きす(0)後編


投稿者名:みみかき
投稿日時:(02/ 2/11)



 事務所の浴槽はバスタブなのだが、女性が多いせいかおおむね
 好評だ。
 本来はった湯にボディソープなどをぶちこみ、ブラシで身体を
 洗いつつ、時折水面から爪先などを覗かせて「ルララ〜♪」と
 謎の鼻歌なんかを奏でるのが王道(偏見?)なんだろうが、
 この事務所の居住者達は骨の髄まで和風だった。
 お好みの温度のお湯をはって、おもいっきり手足を伸ばす。
 これが事務所でのスタンダードの入浴だ。
 だったら最初から普通の湯船にしときゃいいんだが、そこは
 それ、インテリアも含めているので。
 誰も文句なんか言わないし、言った所で出資者兼管理権者の
 美神が聞くわけがない。

 タマモもいつもの通り、ゆったりと四肢の力を抜いて
 浮力に身を任せている。
 じんわり熱気が骨まで染み込んでゆくようだ。
 波打ち際の海草の様に、彼女の豊かな金毛がちゃぷちゃぷと
 水面を漂っている。
 「すっかりアタシの巣になっちゃった………」
 彼女の、彼女達の巣。彼女達の縄張り。
 日々の糧を得、生活を共にし、時に命の賭けて闘い、
 意味のない冗談や戯れに笑って、怒って、いなして、仕返して
 ………。
 この生活は楽しい。こんな毎日は嬉しい、でも……。

 瞳を閉じて、じんわりと湿度の高い空気を吸い込んでいく。
 すると彼女のなだらかな身体がゆっくり浮かび上がり、漂う。
 (アタシは弱くなっているんじゃないか?)
 皆と闘える。皆が支えてくれる。
 皆が守ってくれる。
 一人の能力のみに価値を見出すほど馬鹿じゃ無い。
 一人が嬉しいわけでも無い。
 今更、キツネ面して「群れ」を否定するわけじゃ無い。
 だって、心地良いのだから。みんなといると。
 だけどアタシは?
 アタシはみんなを守ってるの?
 アタシはみんなを支えてるの?
 アタシはみんなに必要なの?
 そして恐怖。
 自分が変わる事よりも、もっと大きな恐怖。

 いつまでみんなといられるの?
 いつまでこんな幸せな生活が続けられるの?

 (いけない。のぼせたかな?)
 バスタブから身体を起こすと、タマモは縁に腰掛ける。
 しばらく体内に溜まり過ぎた熱を、深い息と共に逃がしてやる
 。
 小さく肩で息をしながら、ふと思い出した。
 あの子。遊園地で会ったあの子。
 どうにもならない環境で、むりやり大人になるしかなかった
 あの子。
 なにも彼が悪い訳でもないのに。
 どうしているのかな、真友君……。
 幸せなのだろうか?彼が良い方向に周りが変わってくれたの
 だろうか。
 大人達に声が届くには、真友君はまだ幼い。
 恵まれている自分に、少し罪悪感を感じる。
 傲慢な事だとわかっていても。

 もう少し浸かってみようと思った時、タマモは「何か」を
 感じた。
 身体も拭かず、一糸まとわぬ姿のまま、すたすたとサッシの
 前に来ると、ガラリと開けた。

 やっぱり、こいつか。
 「なんだ、美神さんじゃ無かったか…」
 そこには昆虫の様に床に伏せていた横島がいた。
 ご丁寧に豆絞りの布巾を頭から被り、鼻の下で結わえてる。
 どういう意味があるのかは知らない。
 一目瞭然だが、一応尋ねてみることにした。
 「なにをしてるの?」
 「いや、別にタマモだったからハズレだとか、失敗だったとか
 いってるワケじゃないんだ。ただほら、タマモの標準形態って
 成長途上ってゆうか、少々俺としちゃあ罪悪感が生まれると
 ゆうか、いや別にお前だけってワケじゃなく、シロとかもそう
 だし、おキヌちゃんもそれはそれは順調に成長してはいるけど
 、キャラ的にアレだし泣かれたりしちゃうと………」

 むぎゅっ。
 すっぽんぽんのまま、腕を組んだタマモは横島の前頭部を
 踏み付けて、にっこり微笑んだ。
 「な・に・を・し・て・い・た・の・?」
 「……………………………………………」
 「……………………………………………」

 「ぽっ」












 「シロ〜、お風呂空いたわよ〜〜」
 「おう、かたじけない。って、なんか美味しそうなニオイが
 するでござるなぁ」
 「そう?バスルームの前にあるから、喰うなり焼くなり
 好きにして」

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