ザ・グレート・展開予測ショー

危険な追いかけっこ(2)


投稿者名:アストラ
投稿日時:(02/ 2/11)

 シロが買い物をしていたスーパーから10キロほど離れたところを警らしていたパトカーへ無線が入った。
 ゛スーパー、オトク付近において外国人4名の傷害事件発生、なお現在対象(犯人の事)においては徒歩一名コンビニ"エイト・トゥエレブ"方面に南下中。周囲非常線を張るとともに警戒態勢を敷くように。対象は鋭利な刃物を所持していると思われますため、十分に警戒を怠らないよう・・・繰り返します・・・″


「君、待ってくれ! 日本の動物医学の発展のためには君のような稀有な種類の"犬"が重要不可欠なんだ!」
「拙者狼でござる! 犬ではござらん!」
「それでもいいから協力してくれ! 報酬も与える!」
「よくないでござる!」
 シロは走って逃げているのだが山村医師の執念は凄まじい。
 周知の事実、シロには毎日朝晩50キロの散歩をこなす体力と、時速20キロで走る横島の呪い自転車と並列走行しながら会話するほどの瞬発力がある。一説によると100mを9,10秒で走る人間の速度は時速に換算すると36キロだという。ひょっとしたらシロは陸上界で大がつくほどの活躍が出来るかもしれない。
話が大きく逸れてしまったが、とにかく山村医師は引き離されずについてくる。いや、憑いてくると言ってもいい。道行く人々もこの小型竜巻のように走り抜ける物の正体を掴みかねていた。
「くーっ、警察は何をやっているんでござるか!? 拙者このままでは獲って食われてしまうでござる!」
「貴重な犬種を獲って食おうなどと微塵も思っては無い! 私は純粋に動物学に殉じたいのだ! 分かってくれ!」
「気持ちは分かるでござるが、拙者の狼権と人権はどうなるのでござるか? 保障の限りで無いのでござろう!」
「そんな―――」
 言いかけて不意に山村医師は口をつぐんだ。何事かと思いシロは前を見ると―――
「げ・・・『検問中』・・・? でもここ、歩行者専用道路でござるよ!?」
『そこの少女、すぐにこちらへ避難しなさい』
 スピーカーを通して無粋な声が命令する。
(拙者、戸籍登録なんかしてないはずでござる・・・。よく考えたらここで保護されたら何かと面倒でござろう・・・)
 婦警がシロを保護(捕まえるほうの意味ではない)しようと歩み寄ったが、シロは加速して宙を飛び、包囲網の最後尾から十数メートル離れた地点に着地すると逃亡を再開した。
「検挙ぉ! 検挙検挙検挙検挙検挙ぉ!」
 シロの後方数百メートルでは山村医師対警察の壮絶なバトルが開始された。
 山村医師がメスを縦横無尽に振り回し、包囲網を突破しようと試みるが相手はプロ、やがて機動隊が使うようなジュラルミンの盾で押さえ込まれた。
「ふう、てこずらせやがって・・・ほら、起きんか・・・!?」
 警官が山村医師だと思っていたのは自分の同僚だった。
 騒動に紛れる形で彼らの背後を黒い影がメスを片手にすり抜けていった。


 日が傾き始めて西日が差し込む横島宅。
「ただいまー・・・って誰もいないのに何言ってんだ俺・・・」
「お帰りなさいでござるっ!! 横島先生、逢いたかったでござるよーっ!」
 上野駅でのセリフと同じ事を言ってシロは飛びついた。
「お風呂でござるか、それとも食事でござるか?」
「んーと、じゃあメシ・・・ってシロ! お前何のマネだ!」
「何のマネって・・・メロドラマとかいう類の物からでござるよ」
「いや・・・そういう意味じゃない・・・形式ばかりマネてどうすると言いたいんだ・・・」
「ちゃんと料理はできてるでござるよ」
「う゛ぞっ!?」
 室内をよく見るといつの間にやら部屋が奇麗に片付いていてテーブルまで置かれている。そしてその上には肉料理やらインスタントの味噌汁やら解凍直後の冷凍ご飯やらが並んでいるのだった。
「・・・なぁ、シロ・・・」
「何でござるか?」
「食事はともかくこのテーブルは何だ・・・? お前まさか家具屋から盗んできたんじゃないだろうな・・・?」
「そんなことしないもんっ!! だいたいどうしたら店でテーブルを盗ってくるなんてできるのでござるかっ! 全部拙者の自費でござるよ!」
「だからその金はどこから捻出されたんだ?」
「密猟者の捕獲で得た金一封とこの間のレアックとかいう妖怪退治の報酬でござる」
「何っ!? この前の報酬なんて俺は貰ってないぞ!」
「美神どのが特別にくれたのでござる。先生が美神どののお尻を触ろうとしてぶっ飛ばされた後の話でござるが」
 そのような事は何度となくしていていつのことやらさっぱり分からない。横島は記憶をまさぐったがいくら考えてもいつの事だか思い出せなかった。
「シロ・・・それは何回目の未遂の時だ?」
「そんなの、見当もつかんでござる。それにこのお金は美神どのが横島先生のために使えと渡してくれたのでござるから、あまり怒んないで欲しいでござるよ」
「美神さんが・・・俺の・・・ため・・・に・・・?」
 しばし放心状態に陥る横島。シロはそのような横島を見て半ば怒りつつ言った。
「先生、はやく食べて欲しいでござる。拙者の力作でござるから」
「ん・・・」
 返事はするが動かない。まるでグータラな中年親父だ。
「先生――」
 呼ばれてやっと横島がシロのほうを見るとシロは箸で肉をつまみ、下に手を添えながら横島の口に持ってきて入れようとしている。
「うわっ!?」
 横島は驚いて後ずさりし、バランスを崩して仰向けに転倒した。その際、シロへ足払いをかけてしまい、二人は折り重なって倒れた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 上下になって見詰め合う二人。横島は状況が把握できていないのか、それとも弟子に手は出すまいと考えているのか珍しく顔を赤らめて沈黙している。ところが、シロはここぞとばかりに自らの唇を横島のそれと重ねあわそうとする。
 だんだんと距離が短くなる。シロの左手が横島の後頭部を持ち上げる。右手が横島の顎を掴んで傾ける。
 ―――あと、少し。あと少しで先生の唇に触れられる―――
 吐息が顔に当たる。髪の毛が触れ合う。横島とシロの唇が―――
「におう・・・! におうぞこの部屋かぁ!!!」
「!!!???」
 二人は我に帰ってがばっと跳ね起きる。
「い・・・今の声は何だ?」
「あのまっど・どくたぁでござるな・・・」
「マッド・ドクター? 誰の事だ?」
「予防注射の時の変な医者でござるよ!」
 がたん。扉が悲鳴をあげて倒れた。
「この部屋か・・・! 間違いないぞぉー!」
 奇声を上げて山村医師がメスを片手に入ってきた。
はたして二人の運命や如何に・・・?

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