ザ・グレート・展開予測ショー

危険な追いかけっこ(1)


投稿者名:アストラ
投稿日時:(02/ 2/11)

 その日、シロはスーパーへ横島の夕飯を買いに出掛けた。
 食品売り場の肉コーナーで肉を何パックもかごに入れたが、あまり作りすぎると怒られるので大半を戻して2パックまで減らした。賞味期限も十分保つ。
 『昨日の調理』に写っていた肉料理にはレタスやキュウリやトマトも並んでいたのでそれも一緒に買う。
(「何で野菜も一緒に買うんでござろう・・・? でもおキヌどのは野菜も食べなきゃ駄目と言っていたし・・・」)
 次にミネラルウォーターを2本買う。さすがに東京の水道水を飲む事には抵抗がある。そして最後に生タイプ・ドックフードを入れて、会計に向かった。
「398円が2点・・・278円が1点・・・218円が1点・・・148円が1点・・・178円が2点・・・328円が1点・・・2230円になります・・・3000円からお預かりします・・・770円のお釣りですお確かめ下さい・・・」
 妙にぎこちなく遠まわしな言い方に多少の苛立ちを覚えたが無表情に札を渡し、お釣りを受け取ってかごから袋へ商品を詰めなおす。
(「ん・・・? 何だか嫌な瘴気が向こうから流れてくるでござるな・・・」)
 ふとさっきまで自分のいたレジを見たシロの全身が凍りついた。
 袋に詰めようとしたミネラルウォーターが靴の上に落ちる。
 シロは足の衝撃によって呪縛から解かれたように動き出し、買った物を乱雑に詰めて逃げるように店を後にした。
 シロが会計を済ませたレジの店員と客の会話。
「あらー、山村センセじゃなーい。久しぶりねー」
「いやぁ、最近忙しかったものですから。実は今度論文を発表しようと思いましてね・・・」
 その時、偶然にも山村医師の周辺視野にシロの長い髪の毛が映った。
「むむ・・・!! あの毛並みの"犬"はもしや・・・」
「山村センセ! どうしたんです!?」
「おばさん、お釣りはいりませんからこの荷物を預かっていてください」
 言い終わる前に山村医師は新渡戸稲造を買ったものの上に乗せると仏舎利(釈迦の骨)を盗んだ犯人を追う韋駄天の如く走り出した。不気味なおたけび(?)をあげて。
「ふはははぁっ! 逃―が―さ―ん!!」

「・・・ふう、ここまでくればもう安心でござるな・・・なんでよりによってあの医者と鉢合わせに・・・?」
 と、考え事をしていたらシロは何かにぶつかった。何事かと思って顔を上げると―――
「痛ぇな、おう!?」
「お前、東洋人だな!?」
「中国人か、ベトナム人か?」
「よそ者は端を歩け、端を!」
 ちなみにこう言っているのはスキンヘッドのゲルマン系ドイツ人(いわゆるスキン・ヘッズ)である。
 当然ながらドイツ語で怒鳴っているために全くと言っていいほど意思疎通が成り立っていない。
だいたいにして日本でドイツ人が"よそ者は端を歩け"と言うあたりが笑えない。それにいくら東京とはいえ、東洋の国で東洋人だなと言うのはランドセルを背負った子供に"小学生か?"と訊ねるような物である。
(「ああ、もう・・・早く帰って仕度せねば横島先生が帰ってきてしまうでござる・・・」)
 シロは悩んだ。彼女の力だったら連中相手に素手で20秒あればKOしてしまうだろう。しかし、美神に面倒事は起こすなと言われているので下手に手出しは出来ない。
 彼らはシロの悩んだ表情を見て恐怖を感じたと取り違えたようだ。更にお門違いな言葉を並べて四人で前後左右を取り囲み、ブラック・ジャックと呼ばれる鉛を革で包んだ武器を各自手にとって弄ぶ。
「さて、どうすれば良いでござろう・・・」
 その刹那、
「"ハゲ"ども、私の"研究材料"に手を出すな!」
 どこからかそんな声がしたかと思うとものすごい速さで注射器とメスが飛んできてスキン・ヘッズの手と首筋に直撃した。
「げ・・・」
 シロは絶句した。T塚治氏が書いた漫画の主人公の名が武器の名前と同じで、その主人公の得意技(メス投げ)を実行した人間がいたから、というのもあったが・・・
「せ・・・拙者が研究材料ー?」
「そうだ、私に協力してくれ!」
 その時だった。
「キャー! 人殺しー!」
近くの住民がメスを刺されているスキン・ヘッズを見て悲鳴をあげたのだ。山村医師の意識がそっちを向いたその一瞬のうちにシロは踵を返した。
「ま、待ちたまえ、君!」
「い、嫌でござるっ!」
脱兎の如く逃げるシロと追う山村医師・・・この二人の危険な追いかけっこが大騒動を引き起こす事になるのだった・・・・・・。

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