ザ・グレート・展開予測ショー

ふれんち きす(0)前編(爆)


投稿者名:みみかき
投稿日時:(02/ 2/11)



 シャワーからの心地よい感触がみみたぶの後ろに当たると
 こわわわ〜と若干熱めのお湯がそこをくすぐる。
 質感たっぷりの髪を掻き揚げて、しばらくその感触を
 楽しんでいる。
 みみたぶを震わせた湯が、彼女の顎を伝い、肩を伝い、
 または起伏の少ない腹部を覆って、優しく身体を暖める。
 時折、放射を肩に向けたり、手のひらで弄びながら、身体に
 溜まった熱を逃さ無い様にする。

 きもちいいけど、いつまでもこんなことしてらんないし。
 タマモは次の行程に進む事にした。
 まずは髪に水分を含ませなければならない。
 彼女のトレードマークである豊かな金毛に、まるで樹木に雨を
 与える様に満遍なく熱を行き亘らせて、その水分を確かめつつ
 ぺしゃぺしゃと、ややボリュームを減らした髪を愛撫する。
 シャワーのコックを戻し、一旦流れを止める。
 腕を首の後ろへと回し、束ねる様に金毛を左の肩口から身体の
 前へもってくると、2、3回生え際から大きく撫ぜて、
 余計な水分を落としてやる。
 彼女の右膝の先にあるボトルの口に手を添えて、滑稽な鳥の頭
 みたいな形をしたポンプを押し込む。
 淡いピンクのドロッとした液体を掬うと、優しく髪に伸ばして
 ゆく。
 4回それを繰り返すと、ふんわり甘いかほりが充満していく。
 タマモの愛用のシャンプーは「もものかほり」。
 彼女は本物の桃がそんなかほりでは無い事も知っている。
 熟れた実をつけた桃の木ぐらい見た事はある。
 だけど真偽にこだわる必要も無いし、なにより安らぎの底へと
 沈めてくれる様なこのかほりを、タマモは気に入っていた。
 (また、随分人間らしくなったもんだ……)
 先ほどまとめた髪を、指の腹に薬剤を乗せる感じで梳る。
 何度か繰り返して埃と脂を浮かせてゆく。
 (シャンプーの銘柄にこだわるキツネって、世界中探しても
 あたしぐらいなモンなんだろなぁ)
 もっとも、最早キツネともいえないんだけど。
 わしわし頭皮をかき回しながら、そんなことを呟く。
 歳を経て地脈や古き杜(ここでいうもりは、”神降りぬ所”の
 意)の力により変化した狐は、大きく肉体に捕らわれたそれ
 よりも、妖怪や精霊の類に限りなく近い。
 人間も例外では無いのだが、霊力が物理的な影響すら及ぼし
 始める段階になると、生物は己の肉体すら変化させてゆく。
 知識や感情の発達、そして他の物質に対する霊力による干渉。
 あるいは眷族、子孫等に対する進化の源となり、知識と経験を
 次の世代へ伝えてゆく。
 そして、ある者は生命活動の中心を肉体から霊体そのものへと
 はからずも移し、時間との限界を持つ肉より解き放たれ、いつ
 終わるともしれない永き月日の中に、己を置き始める事になる
 。
 人が作った物であろうとなかろうと、彼女にとって入浴の習慣
 は、今や欠かせない快楽だ。
 汚れが浮いた頃合でタマモは薄目で立ち上がると、再びシャワ
 ーのコックを穏やかに捻った。
 壁に掛けたじょうろから流れる優しい湯が、泡を押し出し始め
 る。
 再び触れる暖かさを塗り広げる様に、しばらく細身の肢体を
 撫で続けると、泡は流れ尽くし銀色の縁の暗い穴へと消えて
 ゆく。
 身体を伝う湯に混じりけが無くなっても、恍惚そうにタマモは
 指先に熱を感じながら、しばらくは流れに任せたり、逆らった
 りして湯の感触を遊んでいた。
 

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