ザ・グレート・展開予測ショー

旅(?)7


投稿者名:シキシキ
投稿日時:(02/ 2/ 9)

「紙吹雪の次は竜巻とはな、まったく大した隠し芸だ」
 軽口とは裏腹にその目は油断なく相手の挙動を見据えていた。
確かに大した霊力だが、竜巻はワルキューレと横島の髪をばさつかせる程度で、まだ吹き飛ばされるはない。
「だがこれでは、私達を退けるほどではない」
 侮られたと感じたのか、憮然とした表情で歩み寄っていく。
「なんか、論点ずれてないか?」
 ぼやきながらも、横島が続く。黙って見ていても良いのだが、はっきり言ってその場合後でどんな事態が待っているか想像もしたくなかった。
「もちろん、お楽しみはこれだけじゃないよ」
 にっこり笑うと、今度は熟練の魔法使いが魔法をかけるような手付きで左の腕をふんわりと回転させる。
 子供の動作に呼応するように、虚空から無数の折り紙が現れた。
「じゃ、いくよ?」
 出来れば永遠に来ないで欲しいと思う横島だったが、そうも言っていられなさそうだ。
色とりどりの折り紙たちは、自ら山折り谷折りを繰り返し、瞬く間に二種類の形を作っていった。
「風船と……鶴?」
 折り紙の中でも割と見慣れた形であるその二つ。
無数のそれが子供の周りをふわふわと漂っていた。
「惜しいなあ。片方は当たってるけど、もう片方はちょっとアレンジしてあるんだよ」
 薄い笑みと共に指揮者のように左右の指先を閃かせると、無数の紙風船と折鶴の中からそれぞれひとつづつが代表のように一際高く浮かび上がり前に漂ってくる。
「いい、よくみててね?」
 子供が大切な宝物でも見せるような、うきうきした様子。
左右の人差し指がくっつくのと、折鶴の嘴が紙風船に触れたのが同時。
けれど、一瞬それがなんであるかを忘れさせるような子供の笑顔の次にやってきたのは。
「どか〜ん♪」
可愛げさえある子供の表現とは似ても似つかぬ、目も眩むような閃光と耳を劈くような爆風だった。
「のわあああああああああああああっっ!!!」
横島が悲鳴をあげて地面に伏せる。
それはそうだ。
どこの誰が、折り紙の風船が爆弾に化けるなどと想像できようか。
かなりの距離を離れていたにも関わらず、場数を踏んでいる横島が思わず地に伏せるにも十分な光景だった。
「どう、これでもまだ遊ぶ?」
いっそ憎らしい程の高笑いでもしてくれれば容赦なく当たれるのに、あくまで無邪気に子供は笑う。自らが爆発から一番近かったにも関わらずその頬は高潮するでもなく、あくまで白雪のようであり、深紅の着物は乱れもしなかった。
言葉とは真逆に『遊び』足りないのであろうことは、その表情からも明らかだ。
「勿論」
断言したのは、無論ワルキューレだった。
「あー、やっぱりですか」
諦めの滲んだ声で横島が項垂れる。
あの無数の紙風船が全て爆弾かと思うと、あまりまっとうには関わりたくないのだが。
そんな横島の脳天に特大の一撃をくれると、ワルキューレは厳しい目を竜巻越しの子供に向けた。
「当の目標を目の前にして、引くと思うか?」
「なっ!?」
 横島が絶句する。
それは、この島まるごと一つを結界にして封印されているのが、この子供だということか?
だが当の子供は、くすくす笑っているばかりだ。
「おかしいとは思っていたよ、こうも簡単に結界が崩壊し始めるとはな。自分の一部を切り離して潜ませていたとは……これは確かに我々の落ち度だろう」
 何の事はない。
結界の裂け目どころか、封じられている本人が外側から結界を侵食していたというわけだ。
 ここまでの屈辱はあるまい。
ワルキューレは歯を剥き出しにして獣の笑みを浮かべている。
 抜き身の刃の殺気が篭った言葉を投げかける。
「つまらないこというなあ」
が、その言葉を向けられたのではない横島さえ鳥肌が立ったその殺気を直に向けられた子供は、心底詰まらなそうに唇を尖らせた。
底冷えのしそうな眼で、ワルキューレを見据える。
「じゃあ、詰まらない事に拘らないですむように、もうちょっと本気で遊べるようにしてあげるよ」
そう言って指先をぱちりと鳴らすと、蟲籠の中に何かが現れた。
 二本足で立ち尽くす身長数センチのそれは、昆虫型のヨリシロに囲まれて右往左往している。
「この神族のおねーさんが蟲にたべられるまでにボクを捕まえられたら、アナタ達の勝ちだよ?」
子供が楽しそうに笑いながら深紅の袖を翻すと、折鶴と紙風船は竜巻の渦に乗って横島達に襲い掛かった。
  流石にヒャクメのその姿に一瞬二人は言葉を失った。
 普通ならここで敵に向かって卑怯だぞ、もしくは味方にむかって大丈夫かとやら言うのだろうが…
 その捕らえられた姿は、命の危機に瀕しているのにどこかユーモラスにすら見える。
 ごそごそ動き回る蟲にきゃーっと甲高い声で逃げ回るヒャクメ。
 『ワタシは目ばっかしで食べても美味しくないですよー』
 やら
 『と、いうか内蔵もないのに食べてど−消化するつもりなんですかっ』
 やら
 『ワタシはヒャクメなんですからねっ貴方たちに内臓が無い事くらいわかってるんですからっ』
 と、まあこんなことをほざきつつ逃げまわっているのだ。
 これで、助けたいと切に願うものはいるのだろうか?
 そして案の定……ぴしっとワルキューレの額に青筋がたつ
 うひゃあと横島は、襲い来るそれらよりもいっそ彼女の姿というか不機嫌さに心底嫌そうなうめき声をあげた。
「どいつも、こいつも………」
 ぶつぶつと陰気そうに呟く様がこれまたよく似合うワルキューレはひゅっと右手を一閃させた。
 そうして出来上がるのは、もう一つの竜巻。
 ただし、その折鶴と紙風船のそれが含まれたものとは逆方向の―
  そして気だるそうなというか、もうほとんどやる気を失ったような声で
 「横島」
 と言う。
 もちろん横島はその一言で今自分が何をすべきか認識する。
 ―というかこれくらいの意思の疎通を戦場でできないならばこの場所で、生きていけない。 
文珠をだし―そして込める念は『護』
 そして、それを二つの竜巻が衝突した瞬間にその中心に投げる
 次の瞬間―
 先程までとは比べ物にならない轟音そして溢れんばかりの光が視覚そして聴覚を占領した。
 
つづく

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