ザ・グレート・展開予測ショー

暁の海


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/ 7)

夏の夜明け前

長い夜が終わり、早い朝を迎える前の、狭間の時間

ひとが、街が、世界が眠りについたかのような静かな時間

混じりっけのない静寂の中に響くのは、寄せてはかえす波の音だけ



今はもう人気の絶えた浜辺に、たたずむシルエットがひとつ

身に纏う漆黒のローブは闇よりなお濃く人型を浮かび上がらせる

海からの湿った風に、両頬の髪が揺れる

衣服とは好対照に明るい光沢を放つ頭髪が、顔の輪郭を浮かび上がらせる

表情はみてとれないが、それは確かに少女のものであるようだった



夏とは言え、明け方の風は涼しさをとおり越して冷たいと感じるほどだ

風の運んできた潮の香りが通り過ぎた後に感じる、夜の薫りと朝の息吹

互いに交じり合いながら、それでも互いの存在を強く感じさせる、二律背反の調和

それを感じてか感じずにか、少女は首も動かさずにじっとたたずんでいた



空の色を映した海面は、より深い闇をもって空との境界を主張する

足元の砂丘もやはり闇だが、白く砕ける波頭がかろうじて海との境界をかたち作る

少女が歩き出す

一足ごとに砂に足を取られながら、ゆっくりと、まっすぐに、波打ち際へと…

白い境界線が退くのを待って、かがみこみ、なにかを拾う



波静かな砂浜にはいろいろなものが流れ着く

貝殻 海藻 …海の香り

木の実 流木 …遠い異国の匂い

綱の切れ端 陶器のかけら …人の温り

少女は何をもとめるのだろうか

立ち上がり、数歩あゆんで、またかがむ



海の果て遥かかなたに引かれた一筋の白い線が空と海をはっきりと分かつ

線はみるみる太さを増して、空の闇を侵食してゆく

少女は立ち上がり、水平線を見つめる

遥か遠くで闇とせめぎ合う光は、今はまだ少女の表情を照らし出すにはいたらないが、それもほんのひと刹那だ

放心したように海を眺める少女の背後から、縦に長いシルエットが近づく

身に纏っているのは少女と同じく漆黒色の、マント



定期的な波の音のみ響く自然の静寂の中に、砂を踏みしめる不規則な音が響き、止まる

少女はやや見上げるような角度で、それを振り向く

暗い中でも瞳の輝きがみてとれる

長身が腕を伸ばし、少女の肩を抱く

2つのシルエットは肩のところで、ひとつにつながり、そのまま海に背を向けて、歩み去る



水平線に赤い輝きはまだ見えないが、空にも、海にも、もう闇は残っていない

陸に一点だけ残った闇が、身を寄せ合うようにして視野から消える

夜明けは近い







ドクター・カオスはマリアの肩に手をまわし、耳元に口を近づけて、問うた。
「首尾はどうじゃ? マリア」
「未使用・528g。中途・643g集まりました。推定収量・498g」
「ふむ。そんなところか。まずまずの量じゃな」
「明日は・どこを・回りますか? 公園?河原?広場?」
「いや。明日は別荘地を回ろう。後始末が行き届いておらんことが多いし、金持ちのやつらは未使用のまま捨て置く確率も高い。夏は掻き入れ時じゃからな」
「イエス・ドクター・カオス!」
「花火の火薬でも無いよりはマシじゃからなぁ……」
「ドクター・カオス・急がないと・工事に・間に合いません」
溜息をつくドクター・カオスを乗せたマリアは、すっかり明るい空で一つの点となり、見る間に小さくなって消えていった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa