ザ・グレート・展開予測ショー

旅(?)その6


投稿者名:はずっち
投稿日時:(02/ 2/ 7)

「だぁぁっ、一体なんだっていうんじゃーーっ!」
 一向に途絶えぬ笑い声に、横島が苛つきも露な声を上げた。
が、辺りを見渡してもやはりその声の出所は杳として知れない。
「ふふっ、誰を探しているの?」
 そんなものは決まっていた。
なまじ声が良く、又口調が丁寧だからこそ逆に腹が立つ。
 と、横島の手際を腕を組んで見守っていた(正に鬼教官といったところか)ワルキューレが、音もなく動いた。
「悪ふざけはそこまでだ」
声とともに、右腕を一閃させる。
その手から放たれた銀色の光、銀製のナイフが只一枚焼け残って地面に落ちていた赤い色紙に突き立った。どんな芸当を使えばそうなるのか、それは地面に垂直に突き刺さっている。
だがナイフ投げの腕前は兎も角として、それは只薄っぺらい紙を貫通して地面に突き刺さっただけのように見えた。
「あはは、流石に見つかっちゃたか」
だというのに、そんな声と共に色紙に突き刺さったナイフがずるりと浮き上がって抜けた。
ついで、折り紙がふわりと浮かび上がる。十数センチ四方のまっさらな赤い色紙。
何時の間にか、ナイフが突き刺さった穴は消えていた。
折り畳まれてなどいなかった筈のそれが、ぱらぱらと、凄まじい速度で捲れ広がっていく。それはあっという間に二メートル四方にも達すると、その中からふわりと人影が現れた。
「なっ、なっ、なんで……」
 幻惑的な風景に横島が喘ぐように息を呑んだ。ワルキューレは、只黙って見つめている。
「はじめまして」
 にっこり笑ってお辞儀までして見せたのは、目に痛いほどの赤い和装に身を包んだ子供。
そう、それは少年なのか少女なのかも解らぬような、ほんの小さな子供だった。
 透けるように白い肌が、衣装と好対照を描いている。
「これは返すね」
笑顔。
そして一瞬の空白の後に、ナイフはワルキューレが投げた時と同等かそれ以上の速度で持ち主に向かって飛んでいく。
「それはそれは……ご丁寧な事だ」
 顔色一つ変えずにナイフの柄を掴むと、ワルキューレは呟いた。
 目の前の子供もそれを驚くでもなく、ただクスクスと笑っている。
「お、お前ら……怖すぎ」
 横島の引き気味の呟きは、実に最もな意見だった。
 その声に引かれたのでもなかろうが、子供が横島のほうに目をやった。ほんの一瞬、横島が気の所為ではないかと思うほど淡い微笑みかけた後、視線をワルキューレに戻す。
「あぁあ、せっかく幻視せてあげたのになあ。それでも帰らないなんて……そこのお兄さんの方が、随分とまともな反応なんじゃない?」
これまた、横島には普段向けられない類の形容であるが。
言葉を向けられた横島の方は、それどころではなかった。
『幻視(み)せてあげた……って……まさか』
 つい先程の、狂気の入り口のようにさえ感じられた、全身が裏返るような感覚を思い出す。
「世迷言だな」
 そんな横島を知ってか知らずか、ワルキューレは詰まらなそうに述べた。
 相手の言葉を虚言と思ってか、それとも事実と認めた上で切り捨てたのか、その表情からは読み取れない。
「そう、これでも詰まらないかなあ?」
ワルキューレの態度に気を悪くしたでもなく、子供は懐から色紙を取り出した。
繊細な手つきで、何枚かのそれを織り上げていく。
その姿は隙だらけのように見えたのに、横島はおろか何故かワルキューレまで動かなかった。
半ば魅入られたように、子供の白く細い指先が織り上げる色とりどりの折り紙を見つめている。
「できた」
ほんの数分足らずで、子供の掌の上には蟲籠が出来上がった。
深い紅の天井と床、青や緑の柵。
その中には、何時の間にか飛蝗や蝉の蟲達までいる。
いや、それは本当に蟲だろうか?
幾ら精巧とはいえ、紙で出来た蟲が、蟲籠から出ようと動き回るだろうか。
「これなーんだ」
子供らしい無邪気な笑みに、しかし横島は不覚にも寒気を覚えた。
 ぞわぞわと背中に冷たいものが走る。
 やばい、やばいと頭のなかでがんがんと危険信号が鳴る。
 『これ』は、すくなくてもこの目の前にいる子供は人ではない。
 いや、それだけならこんなにも嫌なものを、感じないだろう。
 彼の職業はGSでありまがりもなにも、人外のものと対峙するのは日常茶飯事なのだから。
 それは多分目の前の存在が異様なほどに静かだからだろうか?
 不遇にも、いや不本意にもこの結果の中にいるとはいえその子供の態度は穏やかである―楽しげにすら見える。 
 その瞳に映る冷たいそれこそ凍りつきそうなほど冷たい光さえなければ。
 この手のやつは人間にしても化け物にしても嫌なことこの上ないことを横島は知っていた(いや、知りたくもなかったのだが)。
 ワルキューレは、そんな子供の様子になんの感慨もわかないようで
 「ヨリシロか」
 とそっけなく言う。
 すると 子供はふふふっと声をたてて笑った。
 その仕草はこれでもかというほど可愛らしく笑い声も聞きほれるくらいに美しい。
「あたり」
 子供は両手で籠を大事そうに包み嬉しげに言う。
「で、それをどおするんだ?また馬鹿のひとつ覚えのように私たちに襲わせるのか?」
 腕を組み唇を歪めワルキューレ。
 その声には嘲りの成分がふくまれている。
 ―要するに、何度も同じ手をするほど馬鹿じゃあるまいといっているのだ。
「……ふつう敵をそ−ゆう風に挑発するかあ」
 バカの一つ覚えならそれでいいじゃないかと思いはらはらと涙を流す横島。
「そんな事しないよぉ、これは別の使い方があるもん。」
 にこにこと上機嫌と思わせる笑顔でわらう。
 そしてふわりとその子供が和服の裾を翻した。
 瞬間
 風がおきた―。
 ゴオオオオオオオオオ
 いや風という生易しいものではない
 ある一定の場所を中心にらせん状にうずまく風
 そう竜巻である。
 「竜巻か」
 とくに慌てた様子も無くワルキューレ。
 「って竜巻かじゃなーだろーがああっ」
 一方これまた見事なまでのあわてっぷりの横島であった。
 この場合は横島の対応の方がまだまともであろう。
―つづく




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