ザ・グレート・展開予測ショー

スコールのような。前編


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(02/ 2/ 6)

「静かねぇ・・」
寄せてはうち返す波ですら、騒がしくないと美神令子は感じる。
日本は南の島、外周1kmも無い小さな砂浜だけの島。
建物はコテージが海に隣接してたっているだけ。
地下に自家発電機があるので、電気機械は使えるのは幸いだ。
携帯は完全に圏外。特別な電話機が必要である。
テレビは故障中。CDラジカセも無い。
レコードが地下にあるらしいが、使えない状態だそうだ。
−コンドミニアム−
事の起こりは昨日である。熱い日にかかってきた電話である。
「御電話有難う御座います。美神事務所です」
『令子、ママよ』
珍しい事も有る。何時もなら直接くるのが常なのだが。
「あら?どーしたの。ママ」
『突然なんだけどー、海に来ない?』
「へっ?」
丁度オキヌちゃんとシロが田舎に帰っていた事。タマモも出かけていた事、なにより、
『今東京は猛暑でしょ?仕事がなければどう?』
「うーん・・なんか裏があるでしょ?ママ」
少し返答につまってはいたが、
『バレバレね。そ。旦那も来てるのよ、でも良い所よ。それと・・』
横島の文珠が欲しい事。良かったら本人が来てもらいたいとか。
『旦那がマスクを外せる場所なんだけどね。最近はひのめも自我を持ったみたいで。
  だから、横島君の文珠でなら、1日ぐらい旦那の能力、封印出来ると思うのよ。だからね』
令子としても考え所だ。
何時までも父親と確執を持つ積もりも無いし、親孝行をと、少し思う。
それに、場所が魅力的だ。なら。
「解ったは。丁度仕事も無いし。横島クンの予定も聞いてみる」
当然横島も快諾した。
そして今から三時間前にもなるか。二人は指定された島に到着した。
出迎えたのは美智恵さんと珍しい父親の素顔である。
「いやー。呼んでもらって恐縮っす。えっと俺は・・」
公彦氏に自己紹介は無用だ。
「ふむ。君が横島クンか。娘が・・世話に・・いや。済まないね」
やや汗を流している。父親としては複雑な思いがあるのであろう。
そして、文珠により、テレパスの封印が見事完成した。
後に耳鳴りが解消されたようだと、感想を述べている。
そして、今に至る。
両親は少し遠い浜辺にひのめを連れて遊んでいる。
「静かねぇ・・・」
寄せてはうち返す波ですら、騒がしくないと美神令子は感じる。
強い光線故、サングラス。
本島で購入した赤いビキニで、コテージにあったビニールチェアを外に出し、
小さなテーブルに、赤いトロピカルドリンクを置いている。
三歩歩けば、もう海である。
東京よりも熱い場所だが、海風が火照った体を心地よくする。
時たま強い風が砂を持ち上げるのも、場所柄気持ちの悪い物ではない。
むしろ心地よい。
うとうとしかけた。
「美神さ−ン」
遠くからやってきたのは横島。
到着してすぐボートを使い買出しに出ていたのだ。
食料やら燃料やらを抱え込んだ袋、そして・・。
「あら?ひのめも連れてきたの?」
サングラスを外して、横島の持っている物を見る。
寝ているようだ。
「えぇ、さっき隊長夫妻と出くわしたんですがね。ひのめちゃんねむちゃったって」
「この熱い中に・・。赤ん坊は強いわね」
横島の腕で眠っている。
南の島で、ハーフパンツに、Tシャツ、その上に半そでの濃いジージャン姿。
当然バンダナ。
横島は買出しの品をコテージにいれると言って、
「ひのめちゃん、見ててくださいね」
と、ビニールチェアの傍にひのめを寝かせてから、食料をコテージにいれる。
「直ぐくるかな?」
予想に反して、なかなか出てこない。
「なにやってるの?」
しびれを切らして、と言う訳でもないが、気になったので。
「ひのめ。一緒においで」
と、軽く抱き上げると、目を覚ましたようだ。
「う・・泣かないでね」
幸い、泣かなかったようだ。
コテージの中に入る。
「横島クン、何処にいるのよ?」
地下室があいている。
「美神さんっすか?ちょっと試したい事が」
と、言って出したのは故障していると思われるレコード機である。
「見てくださいよ。レコード版は結構ありますよ。ナツメロつーんすかね」
成る程。飴玉少女三人隊やら、桃色女性やら、子猫団体やらと、
どうやら香港製の海賊版レコードが幾つかある。
「あらま。ママが新婚先で買ったのかしら?でもレコード壊れてるんでしょ?」
「まぁ、見てからですよ」
コンセントを指しこむが、動かない。
「叩けば直る?」
覗き込む様にレコードを見るが。
完全に起きたひのめがおねえちゃんの真似のつもりか、覗きこむ。
「そんな事は駄目っすよ。多分配線が切れてるじゃないかな?」
と、何時も持参するナイフをドライバー代わりに螺子を外す。
配線が入り組んでいるが、元々レコードはCDのような精密機械では無い。
配線が切れている所を繋ぎ、埃を払い、稼動部、消耗部に食料油を塗る。
幸い針は曲がっていない。円盤もしっかりしている。
「これでどーかな?」
螺子を仮止めしてから、スイッチを入れる。
「直った?」
答えはレコード自身。古い日本歌謡曲を流す。
と、言ってもCDのように、クリアな音ではまったくない。
雑音が途切れ途切れ。
「すごい!」
思わず抱きつく美神。更にひのめも真似をして横島に抱きつく。
美神は多少知ってる曲もあるが、横島にはすべてが初めてながら、何処か懐かしい。
「ちょっと、美神さん。螺子の本止めするから、離れて・・」
無意識の行為だったか。慌てて横島から離れる。
ひのめは何故か離れない。
「こらっ。横島クンから離れなさい、ひのめ」
令子が抱きかかえようとするが、いやいやと。
苦笑を漏らす令子。だが、横島、子供には危険物を所持している。
ナイフだ。
「ほら、危ないからおねーちゃんのとお外にいってな。直ぐにいくから」
しぶしぶと、手を離した。
美神令子としてはいささか面白くないが、相手は赤ん坊である。
「ほら、いくよひのめ」
と、手を差し伸べるが、自分でもあるけると、ばかりに先に外へいってしまう。
「あの子も歩けるようになったのねー」
赤ん坊の成長は早い。
暫くして、横島がレコードを持って外にやってくる。
ついでに飲物、ひのめちゃんにはジュース、自分には炭酸飲料そして、
「はい、ビールっす」
「ん。ありがと」
ようやくアルコールが飲めると、嬉しそうな令子である。
そんな笑顔に横島も妙に嬉しくなる。
大ぶりな椰子の樹が風にそよいでいる。
寄せては返す波以外の音がこの島に蘇った。
「あんたも、凄いわねぇ。なおしちゃうんだから」
「そうっすか?昔の機械の方が造りが簡単っすからね。ICなんかあったらアウトっすけど」
「ママが喜ぶわよ」
横島はひのめが、砂を掘って遊んでいる所に近寄って、
「何してるの?」
まだ、あー、とかうーとかしか、言えない。
「俺も手伝う?」
ぷっ?とそっぽを向くが、ゆっくりと、横島を見なおす。
「はいはい。そうだ。御城を作ってあげよう」
存外に器用な横島にしては、簡単な事である。
ビールを飲み干した美神も、
「しゃーない、手伝うか」
と、ひのめの横に寝そべって。
大人・・。赤ん坊から見ればであるが、二人が加わる。
「あー。あー」
嬉しそうである。
三十分で完成。
「わきゃっ」
「喜んで、くれてるっすね、どぉ?ひのめちゃん」
「きゃつ、きゃつ!」
手を叩いて喜んでいる。
美神はそのまま砂浜に寝そべって、ひのめの視線に合わせている。
横島が手の砂を払いながら、
「ホント、赤ん坊は可愛いっすね〜」
ひのめをまじまじと。
「あら?それは赤ん坊全員に言える?」
少し首を捻って。
「う〜ん。正直は隊長の娘だから、可愛いのかなぁ?」
すると、令子。
「なら。私の子供も可愛いかな?」
妙な発言である。
「はっ?」
妙な発言に、妙な笑顔だけ絶やさずにいる。
心が読める者なら、幾許か横島の発言を残念に思う事が読み取れるか。
赤ん坊なら読み取れたか。
だが、ひのめは違った。
寝そべった令子の背中にある結び目に興味が移っている。
「あー」
興味ある物に手を出すのは赤ん坊の習性だ。
ビキニがとれる。令子が大声を出すのも、当然である。
「な、何するのよ!ひのめ」
左手で胸を隠し、右手で水着をひったくろうとするが、
「う、うわーーん」
大声がひのめの鳴き声を誘発。更に海のほうへ逃げていく。
「こら待ちなさい!」
横島が、着ていたジージャンを手渡して、
「ま、先ずはコレ着ててください。俺が追いますから」
「そ、そう宜しく」
よちよち歩きの赤ん坊の事、すぐに捕まった。
「めっ。でしょ?ひのめちゃん。おねーちゃんにあやまんなさい」
美神はひのめから、ひったくって、
「まったく。この子は」
後をふりかえって、着替えていると。
両親がやってきた。
「・・・・令子?」
「ママ!、親父」
特に親父は驚いているが。母親の方が強かった。
「別に横島クンなら反対しないけど。ひのめの前で、そんな事しないでよ」
「何言ってるのよ!ひのめの悪戯よ」
抗議する声が甲高い。
「あら、そうなの。でもまだ良かったわね。腰の紐だったら、ね。横島クン」
そう言われにやける横島の顔を殴りたくなる衝動の美神令子。
だが、手は出さなかった。
寄せてはうち返す波ですら、騒がしくないと美神令子は感じる。
入道雲が見えてきた。

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