ザ・グレート・展開予測ショー

君がいるだけで(23)


投稿者名:JIANG
投稿日時:(02/ 2/ 6)

(23)
「ふむ…これが、意識を共有させることか……。なるほど、相手の考えていることが全て
丸わかり状態になる訳だね」
ベスパはこの状態を比較的冷静に分析している。
「自分を全てさらけ出してしまうというのも他人のことが全て解ってしまうことも、あま
り気持ちのいいものではないでしょう。」
 公彦はやや恥ずかしげな様子でいる。年を取っても、この経験はやはり恥ずかしいもの
らしい。
「まあね。それじゃあ、早いとこ終わらせようか」
ベスパは意識をルシオラの心に向けた。
『…………』
「…………」
「…………」
「ちょっと、教授。ルシオラの考えていることが聞こえないじゃないか! どうなってい
るんだい」
「うーん……実はあなたに霊体を接続する前からこういう状態なんですよ」
「何だって、じゃあこれは本当にただの霊波片でルシオラが復活するには全然足りないと
言うのかい!?」
「お、落ち着いて下さい。そう言うことではなく、この蛍は休眠状態にあるんですよ」
「休眠状態!? つまり寝ているってことかい」
「そうです」
 公彦の肯くのを見て、ベスパは脱力感を覚えた。
「人が復活させるのに必至になっているっているのに、こいつは寝ているって言うのか
い! ……こら、ルシオラ! 起きろー!!」
 ベスパが蛍に向かって怒鳴りつけると、それまでぼんやりと光っていたのが徐々に光を
増していき、まるで心臓の鼓動に合わせるかのように力強く明滅し始めた。
そして、眠りから覚めたのを知らせるかのように一度だけ黒いつやのある羽を広げた。
『うーん……。なーに……? ベスパじゃない、どうかしたの?』
「ルシオラ………」
 ルシオラの声が頭の中に聞こえた瞬間、ベスパはルシオラの名前をつぶやいたきり言葉
を失ってしまった。
 妙神山の話し合いで、この残された霊波片からルシオラを復活させようと言いだした彼
女であった。だがその彼女でさえ可能性は五分五分…あるいはもっと低い確率であろうと
思っていたのだった。それがこうしてちゃんとルシオラの意識があるのが判明し、安堵の
あまり気が抜けたような状態になってしまった。
 しかし、すぐに気を取り直し、ルシオラに聞き返した。
「ルシオラ……、あんた、本当にルシオラなんだね……!?」
『そうよ。ルシオラよ。……久しぶりね、べスパ』
「まったく、本当にしばらくぶりだよ……。それにしても、意識を持っていたんなら、何
で私たちに呼びかけてくれないんだい。私やパピリオならあんたのテレパシーを読みとる
ことが出来たのに……」
『無茶を言わないでよ、ベスパ。あなた達に呼びかけるほどのテレパシーを使える霊力が
あったなら、とっくに元の姿に戻っていたわよ。今の私は自我を保っているだけの霊力ぐ
らいしか残っていないんだから。今だって、その人の強力なテレパシー能力を介している
からあなたと意思の疎通が出来るのよ。……ところでその人は誰なの?』
「ああ、この人は美神公彦教授。あんたが今言った(思った)とおり、非常に強力なテレ
パシストさ。」
「よろしく……」
 公彦は簡単な挨拶すると、ベスパとルシオラの会話を邪魔しないように自分の意識を少
し退かせた。ルシオラは公彦に感謝の意を送るとベスパに意識を向け直す。
『でも、私の意識があるかどうかなんて、たしかヒャクメとか言う神族に見てもらえば分
かったんじゃないの?』
「ルシオラ……あんたがそれを言うのかい!?」
 はあ…とべスパはため息を吐く。
「あんた、そのヒャクメの霊視に対してジャミングを出しているんだよ。まあこれは、ア
シュ様が私たち姉妹全員に施したのだけれども……
『あ……そういえば、無意識のうちに防御本能が働いて出してたみたい』
 ルシオラのあっけらかんとした答えが返ってくる。
「まったく……。でも良かったよ、ルシオラとしての人格や意識が残っていて――パピリ
オだってすごく心配してたんだよ――これなら、あんたを復活させられる確率が飛躍的に
上がるよ。」
『そう……ありがとう、ベスパ』
「べ、別に礼を言われることじゃないさ。とにかく、今すぐにとは行かないけど、あんた
を必ず元の姿に戻してやるからね」
『ええ待っているわ………』
 ルシオラがそう答えると、急にルシオラの意識がベスパの頭の中から遠のいていくよう
な感じになる。
「おい……ルシオラ! どうしたんだい!!」
『ごめんなさい、そろそろ起きているのが辛いの。やっぱり霊力が充分にないから……』
「わかった…もう休んでもいいよ。もう少し話を聞きたかったけど、それで霊力がなくな
っちまったら復活も何もないからね。後は私たちに任せな」
 ベスパがそう言うと徐々にルシオラの意識が頭の中から遠ざかっていく。
『ええ……それじゃあ、お願い……。それにしても、私はどうしてこんなに、霊力を失っ
たんだっけ……? 逆天号から………されたとき、直撃……けたからかしら……。記憶が
………あいまいに……………みたい。アシュさ…、土偶羅…、ベスパ、……リオ、あと…
………いたの? ………の狭間、……………美しい……。もう………………』
「ちょっと、ルシオラ!? なんだって? あんた記憶をどうしたって!? おい、ルシ
オラ……ルシオラ……!?」
 最後のルシオラのささやくような声を聞いたとき、ベスパは違和感を感じ再び声を上げ
てルシオラに呼びかけたが、もうルシオラの思念は完全に消えたあとであった。
「ベスパさん……。ルシオラさんはまた休眠状態に戻りました」
 公彦が声をかけると、ベスパは厳しい顔をしたまま肯いた。
「教授……もういいよ。離しておくれ」
 ベスパが言うと、公彦は接続させた霊体を引き戻し、またもとどおりに仮面をかぶり直
した。
「……短い時間でしたが、ルシオラさんの意識があることが解って良かったですね」
 公彦はルシオラの最後のつぶやきに何か問題があることをベスパと同じように感じてい
たが、それについては何も言わなかった。
「ああ、たぶんこれならルシオラは元通りに復活する事が出きると思うよ。でも…………」
ベスパは不安を押し隠すように答えを返したが、やはり気になるのか難しい顔をしてしば
らくの間考え込む。
(たしかに、ルシオラの人格、意識はちゃんと残っていた。私の言葉にもちゃんと反応し
ていたし、答えもしっかりしていた。でも、再び休眠状態に入る前のあの思考は何だった
のだろう? 記憶がどうとか……。最後の方は思考自体が弱すぎてあまり聞き取れなかっ
た。まあ、あれだけしっかりした人格、意識が残っているのならたぶん大丈夫だろう)
ベスパは多少不安はあるもののそう結論づけると、公彦の方に向き直った。
「教授、おかげでルシオラがどんな状態なのか知ることが出来たよ。しかも思った以上に
いい結果が得られた。本当にありがとう」
「お役に立てて良かったですよ、ベスパさん」
 公彦は握手をするために右手を差し出した。しかし、ベスパは躊躇するかのようにその
右手を見つめる。
「ああ、大丈夫ですよ。一度霊体を直結させてしまうと耐性が出来てしまうようで、その
人の頭の中をのぞき見ることは、もう出来なくなってしまうんですよ。今はもうあなたの
考えていることは私には読めないんですよ」
 公彦が微笑みながら説明するのを聞いて、ベスパはやれやれと言った様子で公彦に近づ
き彼の右手を握った。
「そう言うことなら先に言ってくれよ。……でも、よく考えたらさっきまで意識を共有し
てたんだから、今更という気もしないでもないけどね」
 ベスパは握手をしながら皮肉もひとつも言いたいような気持ちになるのだった。

 そして目的を遂げたベスパとジークフリードは公彦に別れを告げたのだった
「さあ、ルシオラの状態も解ったことだし、ナルニアの首都にいるワルキューレに合流す
るとしようか」
「ああ、今頃姉上も調査を開始しているだろうしな」
「まあ、バカな人間が手を出しさえしなければワルキューレの仕事は簡単に済むだろうね。
それに、遅くてもあさってにはパピリオや小竜姫たちが横島たちを連れてナルニアにくる
からね。全てはそれからだよ」
 夕日で真っ赤に染まった河をベスパたちが乗ったボートはナルニアの首都に向かって進
んでいくのだった。 
 だがベスパたちは知らなかった。パピリオたちが迎えに行くより早く、横島は母親と一
緒にナルニアに向かっていたことを……。そして、すでにこの日の朝、ナルニアに着いて
いたのだった。

*** つづく ***

 今回はちょっと長いかなあ。
 ようやくルシオラも出てきたし、一区切りって事でこうなりました。
 次はいよいよ横島親父が登場します。(一部の方、お待たせしました(笑))
 パピリオはもうちっと待っててね。

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