ザ・グレート・展開予測ショー

旅(?)その5


投稿者名:はずっち
投稿日時:(02/ 2/ 4)

空気越しに伝わってくる、そこかしこにある影に潜んだ違和感、とでも言えばいいのか。
それは明確な形を持っている訳ではない。
ただ、一瞬を挟んだ過去とは、あきらかに何かが違う。
 強いて言えば、四方から誰かの視線を感じているような、居心地の悪さ。
「なあ、なんか、感じないか?」
 きょろきょろと辺りを見回しながら、ワルキューレの方へ小走りに近づく。
なにか、このまま放置されていると、致命的なことになりそうな気がした。
「仮にも結界の中だ。今までの世界と見た目は同じでも、まるで同質なものではない。当然だろう?」
 歩みも止めず、彼女は一瞥をくれた。
まだ苛立ちの残滓が滲んでいる声。
「そういや、神族からも誰か来るんだろ?そいつは?」
 一方の横島も、とにかく落ち着かない様子だった。
「さて、どうしたことやら。……ヒャクメあたりが適任とか言っていたが、お前と会う一時間前が待ち合わせの時刻だからな。酷い遅刻だ」
 多少の憤慨と呆れの篭った、けれど造作もなげな言葉。
最終的には一人でも構わないと言う自負だろう。
「遅刻って、おい、待ってなくてもいいのかよ」
けれど、横島にはその言葉で更に違和感を募らせた。
かつては一般に臆病の部類に分類されていただろう彼ならではのセンサが、何かを告げている。
「……しつこいヤツだな。別に問題はあるまい。だいたい性格的には兎も角、戦力的にはお前の方が強力だ」
 多少忌々しげに呟く。
 彼女の性格からして、本来なら横島さえ不要と言い切りたいところだろうが、戦士としての彼女の理性は、それを拒絶していた。
「イヤ、そりゃ買って貰ってるのは正直悪い気はしないが……」
飼い主もとい雇い主からさえ滅多に貰えぬ発言に、思わず口篭もる。
けれど、感じる違和感は今や不快感にさえ近く、彼の胃をキリキリと締め上げていた。
 なにやら顔色さえ悪くなりかけている横島にワルキューレは始めて足を止めると、微かに笑い、次の瞬間その頬を張った。
唖然としている横島の頬に、すっと指を這わせる。
まるで氷のように冷たい指とその視線に、寒気が走る。
「いいか、横島。すきやきとやらが何ぼのものかは知らんがな、幾ら此処が異界でも浦島太郎にもならんし、結界が破れかけているといっても、まだ完全に破綻しているのでもない…………用心は美徳だが、この場合は拙速であっても優先すべき事がある……失望させてくれるなよ」
 真剣そのものの視線に、横島は軽く息を飲んだ。
 あまりといえばあんまりな派遣のされ方だったので今まで考えずにいたが、どうやら、敵は割と大物らしい。
「ああ、わかった。腹を据えるさ」
頷くと、自分の頬に手を当てる。
そこはまだ、燃えるような熱を持っていた。
「・・・・・・」
 ワルキューレは無言のまま頷くと、視線を島の中心部に向けた。
横島も無言のまま後に続く。
けれど、沈黙が続いたのは島の大半を占める深い森の端までだった。

「クスクス……」
どこからともなく笑い声が響く。
それはすぐ目の前のようでもあり、背後からのようでもある。
地の底のようにも、遥か天上からのようでもあった。
笑いに全身を押し包まれるような感覚。
見渡した先には何もない筈なのに、それは確かに耳に届いていた。
お互い顔を見合わせるが、自分だけの幻聴でもないらしい。
「誰だっ!!」
油断なく周囲に気をやりながらワルキューレが誰何の声を上げた次の瞬間だった。
視界を、いや二人の周囲をありとあらゆる正方の色彩が覆う。
赤、青、黄、緑、朱、藍、白……この世のあらゆる花を散らしたような、その吹雪。
 呆然とする二人がそれの正体に気付いたのは、不覚にもクスクス笑いの主の言葉によってだった。
 それは、透き通るような声でこう尋ねたのだ。
「ねえ、折り紙って、好き?」
 幼い―そう、あどけない子供の声である。
 鈴を鳴らしたかのようなその涼やかなその声、 降りしきる色紙の吹雪。
 それは、ひどく幻想的で美しい光景であった。
 そして、次の瞬間ひゅんっとその色とりどりの紙は普通ではありえない方向に動く
 ―そう、横島たちの方向へと。
「んなっ!!!」
 と迫り来る紙を避け横島。
 たかが紙とあなどるなかれ尋常でない速度で迫り来るそれは、立派な凶器である。
 しかも一枚や二枚ではない、数十枚いや、数百枚だ。
 ところどころ服が裂け皮膚が裂ける。
「なんとかしろおおおっ!!!」
 すでに半泣きになりつつ横島。
 一枚や二枚ならなんとかもできるが、こう数が多いとめんどくさいことこの上ない。
 するとしぶしぶながら助けてくれるかと思ったのだがワルキューレはにやりと
 それこそ意地の悪そうな笑みで
「自分デなんとかしろ、いうか私のまあひと時でもコンビを組むのならば、これくらいぱぱっとかたずけテみらんかいっ」
 と、無情ともいえる言葉をいったのである。
 まあこれはワルキューレなりにこれくらいなら横島」ひとりで大丈夫と思ってるからこそ言える言葉なんであるが―
 聞いたほうは、そんな意思など気付くはずもなく―
「鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 と魔族に言っても仕方の無い文句を言った。
 (鬼も魔族も関係ないだろう)
 そして同時に文珠を取り出し念をこめる。
 込める念はもちろん―『炎』である。
 だが動きまわる紙を出しただけでは消せるわけもない。
 「のやろーっ!」
 ウィン
 と炎を出した瞬間手のひらからサイキックソーサーをつくる。
 ちなみに文珠で出された炎はめったなものでは消えない、 霊力をふくんだ炎―ひのめの炎みたいなものである 。
 そして炎を『載せた』。
 これで「ファイヤーサイキックソーサー」(命名横島←センスなし)の出来上がりである。
 ひゅんんんんっ
「っせっいいいいいいいっ」 
 そして、ブーメランのように投げる。
 くるくるくると音をたてて回るそれをくいっと腕を引き操る。
 そうして、数分後には全ての紙が灰となっていた―。
 まだ、笑い声は消えない。
つづく   

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