ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 流感編 後


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/ 3)

解決の糸口がつかめずに場は凍り付いていたが、
意外なところから、再び動き始めた。


「おか…ね…」
他の人なら聞き逃したかもしれない。しかし、美神の耳だけはこの単語を敏感に聞き取っていた。
もしかして…? 一同を手で制して、マリアのうわごとに耳を傾ける。
 「う〜〜。なんで私が、こんなメに…!!」
突如、初めて聞くセリフが飛び出した。いや、厳密に言うと、Dr.カオスは既にこのパターンを聞いているし、それに、もう一人…。
 「お粥はキライなのよねー。なんかみみっちくて」
この2つが今まで出なかったのは偶然だろうか。それとも何らかの霊的干渉を受けてのことだろうか。
とにもかくにも、聞き覚えのあるセリフに美神の顔色が、一気に真っ青になる。
 「よこ…しま…」
このセリフは今までも出てきたが、今回は美神の顔色を、一気に真っ赤にする。
 「…?? なんか、美神さんみたいな事、言ってますね??」
幸い、地面に頭をメリ込ませていた横島は美神の顔色の変化には気付いていない。が、このセリフにより、さらに数センチ頭を沈められる。
カオスは、そのうち横島の頭が床をブチ抜くのではないかとヒヤヒヤしていたが、大家よりも目の前の恐怖を優先して敢えて触れないことにした。
だが、次のセリフは、その努力の全てを無駄にするものだった。
 「どうした、オヌシさっきから青くなったり、赤くなったり」
不幸にも、美神の向かい側にいたカオスは美神の表情の変化に気付いてしまったのだ。
カオスの心配とは裏腹に、先に床を貫いたのは、カオスの頭だった。


 「なんでワシが殴られなきゃいかんのじゃ!?」
下の階に住む大家さんと恐怖のにらめっこをしてしまったカオスだったが、マリアが風邪をひいている事情を説明すると、今日のところはすんなりと引き下がってくれた。この大家さんは、マリアがロボットであることに気付いていないのだろうか。
 「……。どうも、私の風邪が伝染ったって言うのは、まんざらでも無いみたいね」
カオスを殴った理由については黙秘するつもりらしい。
 「病は気からって言葉、聞いたことある? 思念が身体に影響を与えるという好例なんだけど。風邪ひいた人のネガティブな思念は風邪の治りを遅らせたりするわ。今回のマリアの症状は風邪ひきの思念が強い霊波によって増幅されて呪いのような形を為したものね」
 「そうか! オヌシの強力な霊波を昨日一日浴び続けたんじゃ。辻褄は、合う」
 「じゃ、マリアの風邪は、美神さんのせいって事ですか!?」
 「……。マリアの魂はカオスが造った人造のものよ。人工幽霊一号が私の霊波によってその身を維持しているように、造られた魂っていうのは強い霊力の影響を受け易いんじゃないかしら」
横島の露骨な物言いも、さすがに今回はツっこむわけにはいかない。
 「とにかく。原因がわかったからには処方は簡単よ。マリアに取り付いてる思念をもとの場所に戻せばいいのよ」
 「いつだったか、スケベ校長のイドを戻したときみたいにですか?」
 「…………」
横島にしては良く覚えている。そう。あのときは、受け入れを拒まれたスケベ校長のイドが暴走して…。

 「横島クン! “戻”の文殊!」
 「へ? なんで?」
 「いいから。早くしなさい!」
風邪ひきのネガティブな美神の思念なんて、見せたくないし、だいいち自分も見たくない。
 「横島さん。出してあげてください」
おキヌもあの時の事を思い出したのだろう。美神の思考を推し測って横島を促してくれる。
 「……?? まあ、いいですけど」
以前のやり方を使わないのには納得がいかないが、どうせ文殊は数も使い方も美神に管理されているようなものである。美神が使えと言った以上、無駄遣いしたと咎められることも無い。とりあえず言うとおりにしておくことにした。

横島から文殊を受け取った美神は、それを自分の額に当て、そのままマリアの額に押し当てた。ちょうど、親しい人の熱の有無を確かめるような感じだ。マリアの額は触ったら火傷では済まないほど高熱を発していたし、その熱気は十分伝わってくるのだが、不思議と文殊を介して触れている部分に熱さは感じなかった。
文殊が光を発して消える。
美神はその拍子にバランスを崩してマリアの額に触れてしまったが、不思議ともう熱くはなかった。文殊がマリアの熱まで元に戻したのだろうか。
目をさましたマリアと、至近距離で目が合う。
 「ミス・美神!?」
 「おお、マリア! 大丈夫か!?」
事の成り行きを見守っていたカオスが声をかける。
 「…!? おはよう・ございます。ドクター・カオス」


結局、今回は美神のせいであったことから、ギャラの請求はしなかった。
美神はすこぶる不機嫌そうだったが、その理由はただ働きさせられたことだけではないだろう。

帰り道、横島がまた言わなくても良いことを言う。
 「マリアの風邪が美神さんの思念によるものだったって事は、あのうわごとは…」


 「さーって。無駄なことに時間くっちゃったわ! 早く帰って仕事しましょ!?」
意識が有るのか無いのか、アスファルトに倒れ伏す横島と、苦笑しながらヒーリングをかけるおキヌを尻目に、美神はひとりサッサと事務所へと歩いていった。

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