ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 流感編 中


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/ 3)

 「体温、計測不能」
化学の実験用のアルコール温度計が破裂してしまった。一体何℃あるのだろう。
 「全身に…発汗…?」
冷却材の都合だろうか。体中に結露している。しかも、不条理にも外側に。(フツー水滴は暖かい側、つまり熱源がある体内に発生すべきところ)
 「風邪………っぽいわね。いかにも」
目の前に横たわっているのが普通の人間の娘であれば――の話だが。


結局、美神達は立ち上がることもできないというマリアのために、Dr.カオスのアパートまで診に来ていた。
当然、美神はいやがったのだが、おキヌに「マリアの看病のおかげで治ったんじゃないですか」と諌められて、しぶしぶやってきた次第である。
病人(?)のいるところには似つかわしくないからと、シロとタマモは置いてきた。シロはついてきたがったが、美神のひと睨みで引き下がった。


しかし――
 「マリアってまぶたがあったんスね」
 「本来マリアは睡眠はとらんし、眼球を保護する必要も無いのでまぶたは使っておらんがな。まあ、リアリティーの追求のためつけておった」
 「なんかあったときにしか閉じんとは。24時間コンビニのシャッターか」
じゃないけど――
目の前のマリアは、彼女が機械であるという予備知識を持った美神たちにも、風邪で高熱にうなされている普通の人間の娘に見えた。
目を閉じて、苦しそうな表情をしており、意識も無い様で、さながら昏睡状態だった。
カオスの部屋に一つしかない布団に横たえられているのだが、何の意味があるのだろう。
 「朝起きたらなにやらコゲ臭い匂いがしてな。マリアの周囲の畳が焦げておったのじゃ。慌てて湿らした布団でくるんだんじゃが、いまは触らんほうがいいぞ。火傷する」
なるほど、火事防止のためだったのか。しかし、湿らしたという布団は、今はほとんど乾いてしまっている。
 「危険ね…」
このままでは遅かれ早かれ火事になってしまうし、マリアの体も保たなくなってくるかも…。

 「美神さんの風邪が伝染ったんじゃあ…?」
こういう発想はおキヌちゃんだ。自分も幽霊だったこともあって、機械であるマリアを人間と分け隔てて考えない。
 「そう言えば、風邪って他人に伝染すと治るってよくいいますね」
こういう発言は横島だ。とにかく余計なひとことが多い。
 「いや、それは有り得ん。よくできているとは言え、マリアの体はロボットじゃ。人間の風邪はひかん」
さすがに造った当人なだけあって、カオスの意見は的確だ。
 「だからな美神玲子。オヌシ、マリアに何をした?」
 「へ!?」
カオスが調べたところ、機械的な欠陥は見当たらなかったらしい。
 「あと考えられるのは、霊的な影響だけなんじゃが」
 「昨日の私が、マリアになんかできたわけ無いでしょッ!!」


だが、確かに、考えられるのは霊的な障害しかない。呪い…? だろうか。
一同、沈黙してマリアを取り囲んで眺めていた。そのとき、
 「…ん……」
マリアの口(?)から声が漏れた。寝言…だろうか? ロボットが?
 「熱…い…」
悩ましげな表情で言葉を漏らす様はうなされる病人そのものだ。
 「よこ…しま…」
横島を呼ぼうとしているのだろうか? 一同、横島をかえりみるが、注目された本人の様子がおかしい。わなわなと震え、注目されているのにも気付かないようである。
 「い…い…い…」
い………?
 「いろっぺー!! 機械と分かってはいるけど! 機械と分かってはいるけど!! しかし! これは!」
一同、ずっこける。
しかし、おキヌがいち早く立ち直った。
 「横島さん! ヤケドしますよ!」
文字通りの意味である。が、確かに、このクギは刺す必要がある。

 「うぅ…ん…」
依然としてマリアのうわごとは続いている。
 「死なない…たとえ世界が滅んでも私だけは死なない」
 「当たり前だ。コイツが死ぬようじゃあ、世も末だぜ」
世界が滅ぶと言うことは、この世の終わりと言うことだと思うのだが。
 「横島さん。そんなこと言っちゃダメですよ。風邪ひくと、自分はこのまま死んじゃうんじゃないかって、弱気に考えちゃったりするもんですよ」
おキヌはあくまでマリアの味方らしい。
美神だけは何も言わずに考え込んでいる。何か気になる事が有ったらしい。


 「カオス。コンセント、どこ!?」
暫く考え込んでいた美神が、何の脈絡も無く問う。
 「……?? そこに有るが?」
 「見てなさい」
言うが早いか、美神はマリアからプラグを取り出し、コンセントに差し込む。
 「あ、まて、イカン!」
 「充電モード! 論理演算を休止します!」
無機質なマリアの声。目も瞑ったままだ。
 「今の、聞いた?」
美神が誇らしげに振り返ったが、その時。

突然、蛍光灯が消えた。
 「充電異常終了! 論理演算を再開します!」
マリアの充電も途切れた。
 「停電!?」
 「だから待てと言ったのに。ヒューズが飛んだみたいじゃわい。どうしてくれるんじゃ。今時、ヒューズも高いんじゃぞ!」
そりゃ、今時ヒューズなんて使う人は少ないだろし。
 「あんた、普段どうやってマリアの充電してるの? まさか、いつかみたいに他人ん家にタカリに行ってるわけ? それとも自販機の電源を抜くとかいうセコい犯罪でもしてるの!?」
 「そ、そんなことは…せん。マリアの燃費はいいから、滅多に充電せんでもよいのだ!」
しどろもどろだし、第一何のフォローにもなっていない。そのことに自分でも気付いたのか、カオスは言葉を足した。
 「マリアを充電するときは、ヒューズを付け替えておるッ!」
本人はフォローのつもりらしいが、これも犯罪だ。しかも、美神の指摘したものより、はるかにセコい。
 「??????」
話が全く掴めず、ただ停電にオロオロしているおキヌに横島が簡潔に説明した。
 「電気会社との契約では基本電力使用量ってのが決まってるんだけど、カオスのおっさんトコは金が無いから最低量、最低料金の契約をしてるんだ。俺んトコもだけど…。で、決められた量以上の電気を消費すると――例えば、電子レンジとドライヤーを一緒に使ったりすると、ヒューズが飛んで停電になるんだ」
ブレイカーが落ちると表現しないところを見ると、横島のアパートもヒューズなのだろうか。
 「わたし、その二つ一緒に使ったことありますけど、停電にはなりませんでしたよ。」
おキヌは、あまり理解できなかったようだ。因みに、ヒューズはモノによって容量がきまっており、カオスは電気会社指定のものより大容量のヒューズに取り替えることによって停電を防いでいたのである。電気会社にバレ無いところは、さすがにヨーロッパの魔王の技術のなせる技か…。

 「……。まあ、いいわ。今の見たでしょ? 充電確認のセリフは流暢にしゃべったわよね。それから、さっきの寝言…」
 「……!! そうか!! マリアは予めプログラムされている言葉は流暢にしゃべれる!!」
長年、マリアのたどたどしいしゃべり方に慣れ親しんできたカオスには盲点だった。
 「そういうこと。だから、このうわごとも誰かに霊的にプログラムされたものって事ね」
 「誰かって…誰が?」
 「それが分かれば苦労はしないのよッ!」
イラついた美神に話し掛けるのは賢明ではない。怒号にドツキのオマケがつくのは、まあ横島ぐらいのものであろうが…。
古い…と言うか半分腐っている畳に横島の頭がメリこむ。あとで大家さんに何と言われるであろうか。
マリアは依然としてうわごとを繰り返している。同じセリフが2回連続で出たりするあたりを見ると、セリフはランダムで選ばれているらしい。
全員、また、その場で悩み込んでしまった。床にめり込んでいる一人を除いて。

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