ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 流感編 前


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 2/ 3)

 「39.8℃」
額に当てていた手を離す。熱の有無を確かめる古典的な方法だ。だが、正確すぎる。
 「…脈拍・1分に・80。通常より・やや・高め」
今度は手首だ。人間の医者も脈をとるが、ものの数秒で計れる者はいないだろう。
 「風邪の確率・90%・対処法・栄養と・休息」
診断は的確なものであろう。何せ、500年を超える経験と知識に裏づけられているのだから。

看病しているのは、マリアである。
しかし今、風邪と診断されたのは、意外にも、美神であった。

事務所にある自分の部屋で、美神は今、高熱のためベッドからも離れられない状態であった。
 「う〜〜。なんで私が、こんなメに…!!」
風邪に恨み言を言っても仕方が無いのだが、自分が気に入らない事には黙ってはいられないのが美神である。
 「ミス・美神・食べて・ください」
美神のボヤキには反応せず、自らの処方に従って作ったらしい料理を美神に勧める。
 「お粥はキライなのよねー。なんかみみっちくて」
土鍋に入っているそれは、色々具が入っているし、スープもミルク仕立て。誰が見てもお粥ではなく、リゾットと呼ばれるべきものなのであるが、不機嫌でヘソを曲げた美神には喩えそれがフカヒレスープ等であっても、結果はさして変わらないだろう。
 「だいたい薄情なんじゃないの!?」
美神の愚痴は、数十分前に起きた出来事をさしていた。


美神は今朝起きたときからこの状態であった。
所長がこれでは、今日の営業は休むしかなく、おキヌちゃんが美神の看病にあたり、他のものは事務所で待機になる予定であった。ところが―
突如、西条とともにGS連中が美神除霊事務所に集まってきて、予定は変更された。
結果的にはおキヌ・横島を始め、タマモ・シロまでも人員としてICPOに駆り出されたのである。
出かける前のおキヌの説明によると。
 「某県の自衛隊基地が直径500メートルもある巨大霊団に襲われたんだそうです。ICPOには最初UFOに襲われたって通報が入ったそうなんですけど…。とにかく一人でも多くの人員が必要らしくて…。今回は相手が霊団ですから物理攻撃は効果が薄いらしいので、美神さんの看病は霊力の無いマリアが残ってしてくれるそうですし。行って来ても…いいですか…?」
いつもの美神なら色々とツっこみそうな説明だが、熱のせいで頭がぼ〜っとしている美神は、とりあえず頷くことしかできなかった。
それ以外の人は誰も美神の部屋に顔を出さなかった。あまり大人数でどやどやお見舞いするのも気がひけたのだろう。かといって、みんなのうち数人だけがと言うわけにもいかない。
結局マリアだけを置いてみんなはワイワイと出て行き、冒頭の状況であった。


 「…ん……!?」
目を開くと、そこには心配そうな顔のマリアがいる。
 「大丈夫・ですか? ミス・美神?」
どうやら眠っていたようだ。カーテンの隙間からは赤の色調の濃い光が差し込んでいる。もう夕方のようだ。
 「うなされて・いましたが?」
うなされて…!? 何か妙なことを口走ったりしたのだろうか。まさか、アイツのこととか。
 「ちょっと!マリア!そのこと誰にも言わないでよねッ!!」
上半身を起こして、マリアに詰め寄る。頭がクラクラするが、それが熱によるものなのか急に起きたためであるのかは分からない。
 「……!? イエス・ミス・美神」
ホッと胸を撫で下ろすと、そのままドサッとベッドに上半身を投げ出す。
マリアが約束を破ることは、まず無い。それは彼女がロボットだからと言うよりも、性格の問題である。同じロボットでもテレサはとても信用の置けるものでは無かったし…。

 「ただいまー!!」
耳(?)なれた声を聞いて、マリアは美神のそばから離れ、部屋のドアをあける。
 「お帰りなさい・横島さん」


その次の日。
美神は元気に職場復帰していた。昨日あれだけ重かった風邪が、今日はウソのよう完治しているのだ。
結局、昨日のお粥(美神の言によれば)は何やかやと文句をつけながらも全部食べたらしい。
あの後、帰ってきたおキヌがマリアと看病を交代したが、美神はすぐに眠ってしまい、今朝まで眠り続けた。
 「やっぱりマリアの看病が的確だったおかげかもね」
なんの含みも無いセリフだが、おキヌには多少の罪悪感を与えていた。病気の美神を一人、置いていってしまったことを気にしていたのだ。
 「でも、早く治って良かったですね」
だが、それを言動に表すおキヌではない。笑顔に多少の翳りがある程度だ。

美神達は横島の出勤を待っているところだった。
昨日1日休んだ分、今日は遅れを取り戻さなければならない。
美神以外の連中は昨日も一日中除霊にかかりっきりで疲れているのだが、そんなことには美神はお構い無しである。金にもならない仕事は、「仕事」として彼女の計算には入らないのだ。

 「ちゃーす!!」
片手を軽く上げながら横島が事務所に入ってきた。
屋根裏からどたどたとシロが駆け下りてくる気配がする。
が、そんなことより。
横島に続いて入ってくる人影を見て、美神は露骨に嫌そうな顔した。
Dr.カオス!!

 「ちと厄介なことが起こってな」
予想済みだ。だいたい彼が自らこの事務所を訪れるときは必ず厄介事を携えている。
だが、次の一言は美神が全く予想しなかったものだった。
 「マリアが、風邪をひいたのじゃ」

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