ザ・グレート・展開予測ショー

Winter vacation――休み――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 2/ 3)

 冬場というのは、何処でも、誰にとっても辛い季節だ。……もちろん、それはここ、妙神山とて例外ではない。
「小竜姫……………………さむい…………」
 小竜姫は無言で、空になった使い捨て懐炉の箱を逆さにして振って見せた。……当然、中に何もないのだから、そこからは何も落ちてなどこない。
「………………下界に行くでちゅ」
 どこか決心したような眼でそのことを告げるパピリオを、小竜姫は何故か止める事が出来なかった……
(……しかたないわよね…… 蝶は基本的に冬は生きられないし)


 下界に来れば、山の上よりは暖かいと思ったが、それは正しかったようだ。
「いや〜、下界はあったかいでちゅねえ」
 人間と同じような格好をして、人ごみの中を歩く。……山の上の気温が殆どマイナス気温であった事を考えれば、寒波に襲われている東京も暖かいと感じてしまう。いや、それは自分だけであるようだが。……人ごみの殆どは、寒そうに手を擦り合わせ、或いはコートの襟を立ててひたすらに黙々と歩いている。
(ヨコシマの事務所はどこだったっけ?)
 恐らく近くに下りてきているとは思うが、服を買う為に寄り道をしたので現在地が分からなくなってしまった。……まあ、そのうち見つかるだろう。
「さあ〜って、折角の小竜姫公認のお休みなんでちゅから羽根伸ばすでちゅ〜っ!!」
 人ごみの只中で、叫ぶ。……人ごみが自分の周りから少し離れていくのを感じたりもする。……どうでもいいが、少し寒くなる。まぁどうでもいい。
(ふぅ……まずは天ちゃんが言ってた『あそこ』でちゅね)


 東京デジャヴーランド。
 最近、隣に新しいデジャヴーシーが完成し、ますます繁盛著しい東京近辺最大のテーマパーク。……天ちゃんは失敗した……だけど、自分は違う。ちゃんと事前に位置を確認しておいたし、電話で案内も呼んでおいた。……即ち――
「パピリオ……いきなり人を呼びつけておいて案内か……?」
「そうでござる! 先生は拙者との散歩がまだでござったのだぞ!?」
「なんでちゅか? あんたは?」
 ヨコシマだけを呼び出したのだが、何か一緒についてきた。……まあいいとは言え、うるさい。
「拙者は横島先生の一番弟子! 人狼のシロでござる! ……って武士に名乗らせておいてお主は……!?」
「ふーん。私はパピリオでちゅ。ヨコシマの元飼い主」
「おいっ!?」
「せ……先生の飼い主…………」
 ぐらついているシロ。……自分が何か変な事言ったのだろうか?
「先生……先生の飼い主は……美神殿ではなかったのでござるかっ!?」
「誰が美神さんが飼い主だ!?」
「クゥ〜ン……だって……」
 二人で漫才をしているヨコシマとシロ。取り合えず、そろそろ寂しくなってきたのでとめる。
「あ〜……分かったでちゅ。……取り合えず、ヨコシマには私の案内をしてもらうでちゅ。……文句はないでちゅね?」
「あってもやらせるくせに……」
 無視。
「じゃ、れっつごー!!」
「まあいいや! ごーっでござる!!」
 何か成り行きで仲良くなってしまったような気がする。……シロと共に、パピリオは意気揚揚と入場ゲートへ向かった。


「ま、休日なんかに来れば当然こうなるな……」
「何で〜っ!?」
 隣で絶叫するパピリオを他所に、横島は嘆息した。……こうなるのではないかと思ってはいたのだが……
 ぴーん ぽーん ぱーん ぽーん。
『お客様にご連絡申し上げます。東京都からお越しの、横島様。入場ゲートで、お連れの犬塚シロ様がお待ちです。……繰り返します。東京都からお越しの……』
「あー……シロの奴やっぱり迷子になってたか……」
「ヨコシマ〜……こんな所でただ待ってても全然面白くないでちゅ〜……!」
 駄々をこねるパピリオ。……まあ、こうなるのは分かっていたとは言え、連れてきてしまった自分にも責任はあるのかもしれない。……だが、
(……俺は何なんだろな…… 結局来ただけ損じゃねぇかよ……)
「こうなったらこの人間全てふっ飛ばしてでも……」
 嘆息して、横島はパピリオをとめに掛かった。


 後日。
「パピリオっ!! お、お主……こないだデジャヴーランドへ言ったそうじゃないかっ! 何故だ!? 何故わしを連れて行かん!?」
「……全っ然面白くなかったでちゅ」
 不機嫌になって帰ってきたパピリオ。
 そんな二人を見て、小竜姫は嘆息の数を増やすのだった。
(結局尻拭いするのは私なんだから……)

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