ザ・グレート・展開予測ショー

旅?(4)


投稿者名:シキシキ
投稿日時:(02/ 2/ 2)

 ぐにゃり、と視界が歪んだ。
 同時に沸き起こる一瞬で全身の皮膚と内側が裏返り、即座に逆再生したような感覚。
 血流が反転し、視界が赤く染まり暗転する。
 既にそれは人間の許容を超えている。横島を苛んだのは吐き気などといった生易しい悪寒では済まなかった。
「ぎゃああああああああっっっ!!!!」
 肺腑ごと吐き出しそうな絶叫を上げる横島の頭を、ごつんと目が眩むような衝撃が襲った。
 次いで、耳を劈くような叱咤が飛ぶ。
「少しは落ち着け、この馬鹿者!!!この程度で死にはしないっ!!!」
「し、死ぬ、死ぬっっ、世界中のねーちゃんとまだであってないのに、いやじゃあああっっっっ……って、あれ?」
 みっともないことをほざいた後で、ふと我に返りきょろきょろと辺りを見回す横島。
 生きている。
慌てて自分の身体を見ても、裏返ってもいなければ、心臓破裂もしていない。
 ほっと息をつき、ようやく目の前に立つ仁王立ちの足の主を見上げると、そこには呆れた表情のワルキューレがいた。
「な、なんだったんだ?」
「ヤツを封印している空間に入り込んだんだ……にしても、もう少し平常心を保てねば戦士としては致命的な欠陥になるぞ?」
「……(汗」
何の覚悟もできない内から人外魔境に放り込んだ人間の言うことだろうか。
いや、魔族だが。
「おい、何時までへたり込んでる気だ」
「へいへい」
 何を言っても無駄と悟ったのか、よろよろと覚束ない足つきで横島が立ち上がる。
「ぬおー、まだグラグラするな」
 三半規管がストライキでも起こしたようで、平衡感覚が滅茶苦茶になっていた。
精一杯の抗議を込めた視線で睨み付けるが、当の元凶は素知らぬ顔で辺りの検分を始める。
「ふむ……やはり結界が限界に近いな」
「……つーか、さっぱり話が掴めんのだが」
 掌に砂を掬いあげ誰にとも無く呟く女に、横島はぼやいた。
彼が見渡した周囲は、先ほどの無人島の風景と何も変わっていないように見えたのだった。
 そうそれこそ、何も変わってないのだ。
 ここに横島がたどり着いた時と、何も。
 先程まであった歪んだ光りが二つの太陽が無いと言うだけで。
 妙な感覚も無い。
「ここまできていたのならば、もう結界の補強は無理か……」
 ぐるりと視線を彷徨わせながら呟く。
 ちなみにさっきの横島への説明という部分は黙殺されている。
 ……まあこのオトコに説明しても得るものが頭痛と心労のみだ。
 しかも何故かものすごく哀しくなってしまう……。
「夕飯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
 それはそうとして、海に向かって絶叫している横島。
 切なそうな、心臓をひきしぼられるような悲痛な叫びである。
「すきやきぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 続いてこだまする声。
 そう、今日の献立は、すき焼きだったのだ。
 普段たんぱく質を摂取する事が出来ない横島にとっての貴重なこの日。
 おきぬが、昨日明日の夕食はすきやきですよーっとそれこそもう横島にとって女神のごとき神々しさで宣言したのだ。
 がくん
 とその悲痛な声というか叫ぶ声というかそんなものを聞いた瞬間ワルキューレの肩が一段落ちた。
 いや、いいんだ、こんな奴なんだと必死に自分に言い聞かせるワルキューレ。
 生きるか死ぬかというか、下手をすれば命を落とすかもしれない任務ということは自分が来た時点でわかっているだろうに―それでもすきやきがきになるらしい。
 果てしない虚しさを感じつつも無言で叫んでる馬鹿に、一撃食らわせ結界を捜し始めた。―いや正確にはこちら側からの結界の割れ目を。
 慎重に、細心の注意を払って―
 多分それは、ほんとうに見落としやすいところにあるのだから―
「ん?」
 一方先程の再現のように、砂浜につっぷしている横島が何かに気付いたかのように顔をあげた。
つづく 
 

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