ザ・グレート・展開予測ショー

旅(その三)


投稿者名:シキシキ
投稿日時:(02/ 2/ 1)

「あー、ところでさ……」
 今思い出したような言い方で、横島が真剣な視線を向けた。
「なんだ?」
 珍しい事もあるものだと思ったのかもしれない。ワルキューレは多少胡乱げではあったが、真っ直ぐな視線で横島に問い返す。
「ああ、ひとつ聞きたいんだけど、日本に帰るにゃどうしたらいいかな。夕飯までには帰りたいんだが、美神さんのことだから迎えなんて期待できねーだろーし」
 言うに事欠いてそれかい。
 ぶちぶち。
 二、三本の何かが切れる音がした。そのうちの一本は間違いなく堪忍袋の緒だろうが。
「……」
 ワルキューレは無言のまま横島の襟首を掴むと、まるで猫の子でも運ぶように歩き出した。
 のしのしという表現がぴったりきそうな足取りで岬から下っていく。
 それはつまり蜃気楼どころではない尋常ならざる揺らぎに近づいていくということだった。
「わ、おい、ちょっと待った!!つーかそもそも、これって仮にも魔界のエージェントであるワルキューレの仕事だろ?」
 人間の助けを受けたとなれば外聞が悪い筈だ、などと言い訳めいたことを言ってみる。あわよくば余計な厄介ごとからは遠退きたい。
 そして、口からでまかせだろうが横島の本意がどこにあるにせよ、これはプライドの高い戦鬼に対してはこの上ない挑発の筈。
 だったのだが、喧しい手荷物にギロリと視線を送ったワルキューレは、次の瞬間には底意地の悪い笑みを浮かべ口元を吊り上げて見せた。
「さて、どういうことだか。神魔共同で調査にあたる筈だった今回の任務に人間からもエージェントを加えるよう提案したのは神族と聞くからな」
 つまり、私の知ったことか、と言う事だ。
「あー、そーですか」
 がっくりと頭を垂れた横島の脳裏には、今考えればやけに意味深に楽しそうだった雇用主の(彼が見た)最後の姿が浮かんでいた。
 じゃあ今回の事件は全て仕組まれたもの…らしい。
「…せめてもう少しまっとうな送り方はしてくれなかったんだろーか」
さめざめと顔を覆い横島。
クルーザーの中から海に蹴飛ばされて無人島へなんぞいやである。
と、いうか普通死ぬ。
「こ、こうなったら…」
ごごごごごごごっと地響きが鳴りそうな背景をしたがえ横島。
その真剣そのものの口調に
「なんだ」
とワルキューレも耳を傾ける。
多分―潔く闘いに挑もうとでも宣言するのだろうと思ったが―
「ち、ちくしょおおおおおおっ覚えとけえええ―くそ女―ぜってえ夕飯までに帰って給料UPさせたるからなーああああ」
とあらん限りに山彦のように叫ぶ横島。
ぐらりとワルキューレの姿が横に傾く。
もちろん体調不良からではなくあまりにばかばかしいからだ。
(こんなのが…こんなのが…人間代表のエージェント…)
任務に赴く軍人というものが、こんなんでいいはずはない。
まあ横島は、軍人でもなけりゃこの仕事の内容も知らないのだが
それでも、それもでだ。
(こ…これでいいのか)
と思ってしまうのは仕方が無いだろう…。
(これも仕事…仕事…だ)
心の中で何度もうめくように繰り返しワルキューレは諦めたように手荷物を一番ゆがみのひどい部分に投げ捨てた。
つづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa