ザ・グレート・展開予測ショー

八年後物語


投稿者名:NGK
投稿日時:(02/ 1/30)

第四話:地獄への道

だんだんだん
ドアをたたく音がする。
「ねぇ、ただちゃん?いるんでしょ?ねぇ・・・あけて!!」
「・・・・・・」
ドアの向こうで横島は目をつぶっていた。
{「君には愛が足りない・・・」}
西条の一言が横島の心を締め付けていた。
「俺が美神さんを幸せに出来る訳が無いじゃないか・・・」
貯金も無い。甲斐性も無い。根っからの女好き。
こんな俺が幸せに出来るわけないじゃないか・・・
横島はドアにもたれかかりながら呟いた。

「さぁ、令子ちゃん行こうか」
西条は令子の手のひらを握り締めた。
「(結局、横島は来なかったな・・・)」
「どうしたの?西条さん・・・」
令子は西条を上目づかいに見ている。
身長差からどうしてもそうなってしまうものだが、
今の令子にはいつもの邪悪さ(言いすぎ)が消えているためか
年齢はもう、28なのだが普段が普段だけにかわいく見える。
「ねぇ・・・西条さん・・・?」
令子の問いに西条は笑顔を見せた。
「なんでもないさ・・・」
西条は令子の肩を ぽん と叩いた。
「さぁ、行こう。空港へ・・・」
西条はそう言って微笑んだ。
こうやって見ると令子はかわいい。
あのころに見た表情のように・・・
「令子ちゃん・・・僕が君を幸せにしてあげるよ・・・」
西条は令子の耳元でそうささやいた。

「へーいつもより、きれいになってる・・・」
ひのめは部屋を見回した。
あの散らかっていた部屋がきれいに片付いている。
「言っておくが俺は追いかけないぞ・・・」
横島はひのめに背を向けて言った。
「ただちゃん、ホントにこのままでいいの・・・?」
ひのめは背中越しにそう言う。
だが、
「あーあー何とでも言ってくれ・・・」
横島は背を向けたまま手を振って帰れの合図をした。
しばらくして・・・
横島は後ろを向いた。
だれもいない。
「おーい、ひのめー帰ったのかー」
呼びかけてみる。
返事がない。
気配も無い。
「帰ったか・・・」
横島は冷蔵庫を開けてみる。
空だ。
ちなみにひのめが入っているのを期待していたわけではない。
ただなんとなく開けてみたのだ。
「なにもないな・・・」
令子がパリに渡ることによって自分の給料はどうなるのだろう。
「今までが今までだからな・・・別の就職先でも探すか・・・」
とは言え、当ては無い。
「お、俺って人脈ねぇ・・・もしかして・・・」
こんこん がちゃ
ドアを開けるとそこにはひのめとタマモがいた。
「なんだ・・・お前帰ったんじゃないのかよ」
「説得してくれる人を連れてきたの」
と言うとタマモの腕をつかんだ。
「お前、またデートしてきたのか?」
「うん」
タマモは満面の笑みでうなずいた。
「それより、あんた」
タマモの顔が険しくなる。
「なに、こんなところでぐだぐだしているの!」
「お前にはわかんねぇよ・・・」
「わかるよ・・・」
タマモは目を細めた。
「好きな人が目の前からいなくなったら・・・どんなに・・・つらいか・・・」
タマモは静かに目を閉じた。
「お前・・・」
「だから・・・行きなよ」
横島は、頭をかいた。
「・・・しゃあねぇな。あの人がいないと生活できないし・・・」
横島は立った。
そして、走っていった。

空港
「さ、令子ちゃん・・・行こう・・・!!」
前から走ってくる男に見覚えがある。
「まさか・・・」
男はこちらに近づいてくる。
はぁ はぁ
二、三秒立っただろうか。
男は二人の前に立った。
男を令子はじっと見つめているように見える。
「・・・何のようだね横島君・・・!」
怖かった。
男-横島の顔は昨日の迷いに満ちた表情ではなく、
ある種の決意に満ちた表情になっている。
横島は何も言わず令子に歩み寄る。
「ま、まて・・・」
止めなければ・・・
西条の言葉に横島は振り向いた。
「西条」
横島は西条を真っ直ぐ見つめる。
「昨日の答え。言える・・・今なら・・・」
令子はうつろな目で横島を見ている。
「美神さんがいないと俺は事務所でお金をもらえないんだよ」
その言葉に西条は安堵した。
そして言う。
「なんだ、お金か。なら、いくらでも出そう。・・・いくらだ。
なんなら働き口を紹介してもいいぞ」
横島はかぶりを振った。
「そんなんじゃないんだ。・・・美神さんは俺の生活そのものなんだ。
どこにでも、俺の生活すべてに美神さんがいる。
その、美神さんがいない生活なんて考えられない」
事務所で働く、お金をもらう。家。
そのすべてに令子がいる。
「これが俺の・・・答えだ」
そのとき西条は一瞬、時が止まったように感じた。
「ばかな・・・そんなの・・・」
認めない。
「令子ちゃん・・・」
令子の手をとってこの場から逃げよう。
しかし、令子はその手を振りほどいた。
「ごめんなさい・・・西条さん・・・私、パリへ一緒に行けない・・・」

「そんな・・・」
薬の効き目が切れたというのか?
西条はちらっと横島を見た。
横島も驚いているようである。
「いつ・・・から・・・」
「昨日・・・横島君が来た後・・・」
あの後、おキヌが来た。
「美神さん・・・今、助けますからね」
そう言うと彼女は懐から解毒剤を取り出した。
「これで・・・直るはずです」
一分ぐらい立っただろうか。
令子は指を動かしてみる。
動いた。
今度は立ってみる。
難なく立てた。
「さ、帰りましょう」
おキヌはそう言ったが、
「私・・・ここに残るわ・・・」
それを聞いておキヌは顔色を変えた。
「どうして・・・早くしないと西条さんここに戻ってきますよ!」
「大丈夫。明日帰るから・・・」

「この一週間、ずっと西条さんを見ていた・・・
西条さんが私のこと思ってくれるのは正直、うれしい。
私も昔に戻った気がした・・・でも・・・」
西条は令子を守られなければならない"ひと"と見ていた。
それにくらべて横島は・・・
「横島君は私を守ってくれている。だけどそれは義務感からじゃない・・・」
西条のそれとは違って心地よい暖かさ・・・
横島は"守ってあげる"のではない。"守ってくれる"のだ。
「西条さん・・・私はもう、昔の私じゃない・・・」
子供のころのままじゃない。そう言いたかった。
西条の意識の内にそう思っているからこそ
どんなことをしても守らなければならないと考えたのだと令子は思っている。
西条はぐるりと背を向けた。
その体は震えている。
令子の気持ちが自分に向いていないことは前から予想はしていた。
だけど認めたくなかった。
相手が横島だから・・・ではない。
自分から令子の気持ちが離れていくのが怖かった。
だからこういうことをしてまで令子を自分のもとに置いていたかった。
自分のもとに置いとけばいつか令子も分かってくれる。
そう思ったのだ。
「・・・・・・」
しかし、認めざるを得ない。
これは彼女が選んだ道なのだ。
そしてそのまま搭乗口へと歩き去って行った。

西条が去った後、令子と横島が並んで歩いている。
お互い無言のままで。
「美神さん・・・あの・・・」
横島が先に口を開いた。
しかし、その後の言葉が出てこない。
何を言うのか。
見当もつかない。
こう言うとき何を言えばいいのか横島は見当もつかなかった。
「横島君・・・さぁ・・・」
令子が今度は口を開く。
「私のこと・・・ねぇ、その・・・もごもご・・・」
令子は照れた。
「だから、さぁ・・・」
言いよどむ。
こういう表情の令子はカワイイ。
だから思わず言葉が出た。
「・・・好きです・・・??」
言ってから横島は口を慌てて両手で抑えた。
思わず口に出た。
でも、これが本心だった。
これしか言えない。
令子は下を向いている。
しばらくしてから、
「横島君、後から私の家に来ない・・・・・・?
おキヌちゃんがお祝いをするって・・・」
そして・・・立ち去った。
その言葉を聞いて横島は・・・
「・・・ついにこの日が来たか・・・」
本来あるべき姿になる。
「わっははっは・・・ついに俺の時代がきた!!」
あたりかまわず叫ぶ横島。
「うぉー!ああ・・・今までつらい日々に耐えた甲斐があった・・・
とうとう美神さんと・・・」
横島の目から血の涙が出る。
「そして二人は・・・あぁ!!横島忠夫ここにあり!!」
当然のことながら令子の言葉を最後まで聞いてはいなかった。
仕方ないかもしれないが。

「みんな、そろそろ美神さんの家に行くわよ」
おキヌはシロ、タマモ、ひのめの三人に呼びかけた。
今日、令子が日本に留まるということでお祝いをすることになったのだ。
「わーい美味しい物いっぱい出るよね!?」
「油揚げっぽいものも出るよね?」
ひのめとタマモがおキヌに詰め寄った。
「美味しい物は出るけど油揚げとかステーキとかはどうかな・・・?」
「やったぁぁあ!」
「・・・ちぇっ」
そんな中シロは一人席を立つ。
「シロちゃん?」
「拙者は止めとくでござる・・・」
そのまま自分の部屋へと向かっていった。
「シロちゃん。最近元気ないね・・・」
「やっぱり何かあったのかしら・・・」
そんな中タマモは一人黙々と準備する。
「ほっときゃいいでしょ。アイツ、ステーキが出ないから落ち込んでいるだけよ」

「先生が・・・・・・」
自分の周りが変化していく。
「ずっと、このままだとよかったのに・・・」

次回予告
「横島君、今日ここで泊まっていかない・・・?」
令子のその言葉に横島の血液は沸騰した。
次回 「八年後物語」 第五話:喜びはつかの間に
お楽しみに!!  
注)煽っておいて何ですが、あらぬ期待はしないように・・・

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