ザ・グレート・展開予測ショー

旅?(2)


投稿者名:はずっち
投稿日時:(02/ 1/30)

脳裏に浮かぶのは、にこやかに笑う」雇い主の顔。
もしかしてもしかしたら…
なにやら果てしなく嫌な予感を感じさらに顔を強張らせる。
本当に顔を合わせないほうが良かったかも…
と、考え強張った視線を目の前の女性に投げかける。
だがそれをこの女性がどう解釈したのか
例の不敵な笑いを浮かべ―
「ん?なんだ?ワタシの仕事の内容が知りたいのか?」
との賜った。
「あー、いや、できたら止めといて貰えると有り難いんだが……」
 口元を引きつらせながら視線を逸らせるが、その視線の先には、更に見たくないものが待ち構えていた。
「……ああああああああっっ、なんでこうなるかなあ」
 ほんの刹那の茫然自失の後、やるせなさの余り、思わず髪を掻き毟る。
「ようやくお出ましか、待ちかねたぞ」
 対照的に、ワルキューレは嬉々とした風情で髪をかきあげた。
 今にも弾けんばかりの肉体の躍動。精神の飛翔。

 そんな二人の目の前では、空間が震えていた。
 西に傾きかけた太陽が二本の長い影をつくる。
 と、同時に、東の空からも、
 紛う事無き夕日が、
 アカイヒカリを投げかける。
 視界が、
 歪み、
 軋む。
 ギシギシと音を立てて、
 捩じれていく。
「なんじゃこりゃ……」
 横島の呟きさえ空々しく響く中、ワルキューレはその横島の表情を楽しむように、言葉を紡いだ。
「わからないのか?」
「わかるかいっ」
くらくらと回る頭を抑え横島。
まあ、そこでわかると言うのもどうかと思うが。
「ゆがんでいるのだ。ここは」
空間が。
「…………性格じゃなくてか」
ぼそっと横島。
誰のとは言わないほうがいいだろう。
「ほう。」
と、氷点下の声でワルキューレ。ついでに空気も二度ほど下がる。
「…………すいません。俺です、で、なんで歪んでいるだ」
二つの太陽の眩しさに目をほそめ横島。
先ほどから襲う全ての感覚はいまだつきまとっている。
こんな感覚といつまでも付き合う気のはご免である。
するとワルキューレはさも楽しそうに―
「もちろん、ここに魔族がいるからだろーが」
空間を引き裂く―いや、この場合きって繋げるといったほうが正しいのだろう。
おまえも魔族だろうがとも思うがこの際それは言わないでおく。
「なんだかなあ……そんな滅茶苦茶な事できるヤツが居るのか?」
 岬から見回した時に感じた、島全体を覆うような異様な雰囲気。
 その魔族とやらが原因だったにしても、この規模はぞっとする。
「だからこそ、こんな辺鄙な島になど封印されていたのだろう?」
 事も無げに言ってのけるワルキューレに、横島はゲンナリとした視線を向けた。
 どうしてこう、俺の周りにはこう厄介事が三度の飯よりも好きそうなやつが多いのだろう。
「封印されてんのに、なんでこんなに此処は歪んでるんだ」
 何時の間にか口調もぞんざいな物に戻っていた。
 ワルキューレは、それを気に留める様子も無く、うむと力強く頷いた。
「それを探るために私が来たのさ。お前もそうなのだろう?」
 出て来た言葉は全然頼りにならなかったが。
「……実家に帰らせてもらう」
 思わずしゃがみ込んだ横島の背にワルキューレがバンと掌を叩きつけた。
「貴様も一端のGSならシャンとせんかっ」
「無茶言うなよ」
 力任せの一撃に咳き込みながら恨めしげな視線を向ける横島に、ワルキューレはにやりと口の端を吊り上げる。
 そんな不敵な表情が、厳しささえ漂わせる凛々しい顔に良く似合っている。
「クラインの壷というものを知っているか?」
「クラインの壷?」
 鸚鵡返しに呟くと、横島は斜め45度に首を傾けた。
 こちらはあまり可愛くない。
と、いうか憎たらしさ全開といったところである。
「まったく…簡単に言うと裏と表の境界のない壷のことだ」
いささか呆れたようにワルキューレ。
その表情は本当にGSかと問いただしていること間違いなしである。
「はぁ?」
と裏と表が無いなんぞ無いだろーがと横島。
………別の意味で、頭が痛くなる。
「まあ…詳しい説明は―おまえにしても仕方ないだろうから、省く」
額を抑えつつワルキューレ。
その表情は苦渋に満ちており、思わずご愁傷様とでも言いたくなる風体である。
「仕方ないってなんだああああ」
思わず条件反射で絶叫する横島。
その言葉に、ぴくりと表情を動かす。
「じゃあじっくり、くどくどとこの上もなく詳しく説明してほしいか?」
聞いたら三十分以上かかること間違いなしである。
「…………………………………………いや、いい」
横島は頭の痛くなること間違いなしのお言葉に謹んで辞退をする。
だらだらと流れる汗が、嫌である事を証明していた。
「ならば―まあ、よおするに、その魔族が封印された空間、本来ならば、繋がるはずのない世界がある特定の力によってこの今いる世界と繋がれているのだ。」
ちなみに反射なんかもしているぞ。
「…?なんだそれ?」
 頭の上に「?」マークを浮かべている横島に呆れを通り越して憐憫の情でも抱いたか、ワルキューレは溜息ひとつを置いて、噛んで含めるように言葉を吐き出した。
「あー、メビウスの帯ぐらいは解るだろう?」
「ああ、あれだろ、紙の帯を捻ってわっかにしたヤツだろ」
 それなら解る。
 思いっきり感覚的な物言いだが、間違えてはいない。
「そう、あれの一次元上の代物だ……」
 表面を指でなぞって行くと何時の間にか裏側に触れているという珍妙な代物。
 正確に言えば結界の構造はもう二、三次元上のモノだが、人間が想像できるイメージとしては最も近いだろう。
 って、結界の容を簡単に表す比喩で使った言葉を、何故こんなに一生懸命説明しているんだろう、自分は。などと思わなくも無い。
「あーーーーー、とにかくっ、ぐるぐる回って出れない筈の結界がなんか知れんけどぶっ壊れかけてるって事だな?」
 途中から聞くことを放棄していたのか、横島は長くなりそうなワルキューレの話を手を上げる事で遮った。
「まあ、有体に言えばそうなんだが……」
 なんかこいつに言わせると身も蓋も無いな。
 事態の解決に半歩も近付かない内に妙な疲労感に襲われるワルキューレであった。

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