ザ・グレート・展開予測ショー

Danger afternoon(Y)――午後の終結――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 1/27)

「! シロか!」
 声が聞こえた。
先程から走りつづけてはいるが、一向にタマモには追いつけなかった。……だが、声を聞く限りでは、シロが向こうからこちらに近づいてきているらしい。……先程より、大分近くから聞こえた。
 横島は足を止めた。……シロやタマモならいざ知らず、自分は走りながら絶叫できるほどの強靭な肺を持っているわけではない。……数秒待ち、暴れる鼓動が落ち着くのを待って、叫ぶ。
「シロ――――――っ!! 俺はここだ―――っ!!」
 そして、待つ。……程なく、道の向こうから土煙が見えた。……ただ、先程見たものよりは大分小さい土煙が。
「せんせえ――――――――――――――――ぇっ!!」
 飛翔。
 そのまま、抱き着いてくる。……バランスを崩して尻餅をつくが、シロはお構いなしに顔を舐めにかかってくる。
「会いたかったでござるぅぅ!」
 言葉には、涙すら滲んでいるように思えた。……しかし……だからと言って……
「だあああああああああっ! 重い! 取り合えずどけっ! そして顔を舐めるなあっ!!」
「ハッ! ……申し訳ないでござる……」
「お前……結構余裕あるんだなぁ……心配したってのに」
 呆れて嘆息する。余裕があるのならば、これほど急いで来る事もなかったのではないだろうか……
「そうだ! 先生、あれは何だったのでござるか……? あ、あれと言うのは……」
「知ってるよ。犬の群れだろう?」
 嘆息ついでに言葉を返す。その折、シロがいつまでたっても立ち上がらない事に気付く。……これは……
「シロ…… お前、足、どうしたんだ?」
 傍目から見ても分かるほど、シロの足は痙攣しており、とてもではないが走れる状態には見えない。……立ち止まったことで、疲労が一気に足を襲ったのだろう。自分もベストコンディションとは言えないが、今のシロよりはマシだろう。……恐らく。
「あ、大丈夫でござるよ……この位、今立ち上がるでござるから……」
「……シロ。立つな」
「え……?」
 今のシロを無理に走らせたら、最悪、深刻な故障を起こす恐れもある。
「でも……」
「いいから立つなっつってんだろ!!」
「ひあ……先生!?」
 シロを背中におぶって、横島は走り出した。……取り合えず厄珍のところへ行かなければならない。解毒法を吐かせなければ。


 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど……
「やっぱりこんなことするんじゃなかったあぁ……」
 シロの姿をしたタマモは、殆ど泣きながら、夕刻が迫る少し前の私道をひた走っていた。……捕まらない為にぐるぐる回って走っていたら、いつのまにかここが何処であるかすら曖昧になっている。横島が言うには、厄珍堂という店に来いということではあったが……
(これは……どうしようも……)
 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど……
『メエエェェェェスウウウウウウウゥゥゥゥッ!!』
『あのね。僕もね、君は僕を好きだとは思うんダ。だからね、ほら、待ってよマイハニー……』
『ぐぅわあああっはっはっはっはっはぁ〜っ! むぁ〜てぇ〜っ!!』
「ヒイイイイイイイイイイッ!」
 シロの感じていた恐怖が、完璧に分かった気がする…… あとでシロを慰めてあげよう。……自分が逃げ切れたら。
「くっそおぉぉっ……うにゃ?」
 足が踏み出すべきところがない。
 いつのまにか、公園に入っていたらしい。中央には、リスさんの像のある人工池がある。……次の一瞬でタマモに出来たのは、覚悟する事だけだった。
(うう……)
 ドボーン!!
 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど。
(? あれ?)
 水中で、タマモが感じたのは疑問だった。……どうしてこの犬たちは、自分を追って水に入ってこないのか? チャンスだというのに。
 水面から顔を出す。
 そこには、犬の姿はなかった。


(先生……)
 横島が、走ってくれている。
 自分の為に。
(先生……)
 シロは、本当に夢のような気分で横島の背中につかまっていた。……少しだけ、先程自分を追っていた犬たちに感謝すらした。……横島が自分の為に走ってくれているのは、きっと、彼らのお陰でもあるのだから。
「……先生ぃ」
 声に出して言いながら、シロは横島の背中に顔を擦り付けた。


 横島にとっては、事態はそれどころではなかった。
「だああああああああああああああああああああっ!! やっぱりまだ残っていやがったかああああああああっ!!」
 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどど……
 どんどん増殖する犬の群れは、容易く自分に追いついて来そうに思う。……決して体力万全とは言い難い上、シロまで背負っていては、いやがおうにも速度は下がる。犬たちはどんどん近づいてくる。
「シロオオオオオオッ!!」
「え!? ハイ、先生!!」
 何故か慌てたように答えてくるシロ。……そんな事に頓着している場合ではないとは言え、気にはなる。……だが、今はこちらの方が先だ。
「お前、事務所で何をしたんだっ!?」
「何って……」
 背中で悩み始めるシロ。……厄珍堂はまだ遠い。取り合えずこの犬たちを振り切らなくてはならない。
「ええっと、帰ってきて、誰も居ないから袋の中を覗いて……石鹸を見つけたからそれで手と足を洗って……」
「! ちょっと待て、石鹸?」
 犬たちはもうすぐ後ろに来ている。文珠は残っていないので、いわゆる絶体絶命と言うときなのかもしれない。
「そうでござる。……確かに石鹸でござった」
「石鹸…………」
 ひらめいた事がある。以前、西条と共に魔鈴さんのチョコを食べて…………
(……そうか!!)
「シロッ! 事務所に戻るぞっ!!」
「え……? 厄珍堂とかいうとこに行くのではないのでござるか?」
「いいんだっ!! 解決法が見つかったっ!!」
「ホントっ!? 流石先生でござるっ!」
 シロの身体を右手だけで支え、左手にサイキックソーサーを作り出す。
「ハッ!」
 轟音。
 地面が陥没し、その場に大穴が出来る。……躊躇なく、横島はその穴に飛び込んだ。
「ちょ……ちょっと先生!?」
「いいんだっ! 下水道から事務所に帰れる!」
 そうだ。確かに、事務所には地下室がある。……普段は鍵が掛かっていて、事務所古参の三人しか、その先が何処へ繋がっているかは知らない。
「しっかりつかまってろよ!!」


 事務所にたどり着くまでに要した時間は、僅か数分だった。地上を行くよりも、断然早い。……何故か下水道内に順路が示してあったからだが……
(いつか捕まるぞ……美神さんも)
 今回はそのお陰で助かったので、文句を言える筋合いでもないのだが。
 取り合えず何故か名残惜しそうなシロを降ろし、倉庫へ直行する。……目的のものをすぐに見付け、シロの所へ戻る。
「せ・先生…… それは……」
「着るんだ。シロ」
 宇宙服。のように見えて実はNASA使用の防護服である。以前自分と西条が思い出したくもない事態に陥ったとき、その解決になったものだ。
「お前が犬に追われている原因は、恐らく『匂い』だ。俺のときと一緒だな」
「で……でも、……これを着るんでござるか……?」
 言って来る、シロ。……確かに不恰好だ。シロも、狼とは言え女の子でもある。これを着せるのは可哀想だが、これ以外に方法はない。
「ああ。不恰好だが仕方がないよ 俺のお古だけど……」
「……着るでござる」
 その瞳は、決意の色に燃えていた。


 夕刻。
 横島は、シロ、タマモと共に厄珍堂の前に居た。……決意と、燃え滾る思いを胸に秘めて。
 二人を見やる。二人も、自分と同じような眼をしている。その思いを伝えるのに言葉は要らない。……ただ、実行すれば良い。
 即ち……
 ガラガラガラ……
「ヘイラッシャ……おおっ、坊主! 惚れ薬持ってきてくれたアルか!?」
 出てくる厄珍。
「………………やるぞ」
 横島、そして二人は、静かに拳を握り締めた。


 同刻。
「ただいま〜」
 おキヌは事務所のドアを開けた。……遅くなってしまった。休日登校だったのだが、帰りに級友たちとショッピングをしてきたのだ。……早く食事を作らなくては。
 しかし、おキヌの思いを他所に、事務所内には誰も居なかった。
「あれ? どこいったんだろ。シロちゃんやタマモちゃんまで……」
 屋根裏にも登って見るが、やはりそこも空。事務所内には、自分の他には誰も居ない。
(ま、いいや。早く御飯作っちゃお)
 制服のまま、台所へ向かう。エプロンを着け、手を洗おうとして……
(あれ? 石鹸買っておいたっけ?)
 切れていたはずなのだが、石鹸はそこにある。誰が買って置いてくれたのだろう。
(ま、いいや)
 深く考えずに、おキヌは石鹸を手に取った……


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