ザ・グレート・展開予測ショー

雪山公園物語。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(02/ 1/27)

それは、誰も覚えていないお話であるが。―――――



大雪の次の日特有な気持ちいい日だった。鉛色の空であるが雲が絶え間無く流れていく。
散歩日和。
そんなに大きくない、誰もいない公園の砂場で1人、坊やは遊んでいた。
枯木も賑わいの一躍と、その公園は、坊やにとってはちょっとした冒険場。
バンダナを頭に巻いて黄色のオーバーを着て一人、砂で遊んでいる坊やの表情はとても軽やかなもので。1人で過ごすことに慣れている、そんな表情。
しかし、それを悲しいと思っていない。
1人でもおとなしく待っている、それが彼女に課せられた重要な任務。
報酬は大好きなおかあさんの笑い顔。
「コロがりゃ、雪だるま」
ごろごろと雪を丸めていく。どんどんそれは大きく。それだけで、なんだか楽しくて楽しくて仕方なかった。
公園はよく行くけれど、今いるのは初めて来た公園。
すると、不意に後ろから声が聞こえてきた。関西なまりの、穏やかな声が。
「何をやってるんや?」
ひどくゆっくりとした声。だけどそれはどこか心地よい声だった。
ぼうやは後ろをふりかえる。そこにはバンダナの・・・同い年くらいの男の子がいた。
黄色のちょっと目立つオーバーとは反対に、赤のちょいと派手な印象を与えるガウンの男の子。目があっただけで、バンダナの子はにこぉと微笑んだ。つられて笑い返す。
「雪だるまや!一緒にやろか?」
子ども特有の無邪気な雰囲気。パッと明るい笑顔をくれた男の子にバンダナの坊やも笑い返す。
「やろして、もらうでー」
そう言って隣にちょこんと座った。のんびりとした子。
その子が雪でできた小さな団子に触る。ボロボロ崩れてゆく雪だるまはなんだかもの足りない。
「どしたんや?」
「あのな〜、たしか水を、塗すんやが・・」
なんだか若干言葉が足りなかったが、そこは子ども同士、ばっちりしっかり通じたらしい。ドタドタと活発なバンダナの坊やは、すぐそばの水道までかけよる。
中々でないが水を出して手袋を外し、両手いっぱいにためて、またドタドタと雪山にまでもどると
「ほりゃっ」
と雪団子にかけた。戻るまでには、指の隙間からぽたぽた水が落ちて半分くらいの量になり、氷となっていった。それを見て関西なまりの男の子も同じことを繰り返す。
ぱたぱた。雪の上に点々。の繰り返し。
だけれど、元々そんなに大きくない雪団子はすぐに水分を吸収し、どんどん固く丈夫になっていく。
「すごいな!」
ぺたぺた形を整える。幾分丸みが帯びてきた。
ちょっとした事が新鮮で。
1人が多かったバンダナの坊やには誰かと一緒に雪だるまを作るのが楽しくて仕方がない。
だけど・・・実は関西なまりの男の子もそれは同じこと。
べちゃ。
どこかでそんな音が聞こえた。何故かはすぐわかったけれど。
バンダナの坊やが転んだらしく、地面に倒れている。
泣くのを我慢している。ここで泣いたら恐らく雪だるまは壊れてしまう。そんな気分。
そこへ関西なまりの男の子が駆け寄る前に、バンダナの坊やの目の前に、小さな手がさしのべられていた。白い、関西なまりの男の子とは対照的に標準語を使うお兄ちゃん。
「だいじょうぶか?」
知らない男の子。歳の割には小柄でちょっと癖毛で、動きやすそうなズボンをはいていた。
予期せぬことにびっくりしたのか、涙はもう止まってしまった。
さしのべてくれた手をとり、軽く笑う。
「わるいなぁ」
「お前等、なにをやってるんだ?手が濡れてるじゃ無いか」
「雪だるまをつくってるんや、いっしょにやるか?」
いつのまにか栗色の長髪の子供もかけよっていた。笑って、手をとっている。
それはびしょびしょで雪泥で汚れていたけれど不快ではなくて。
むしろ誘ってくれたことがうれしくてにっかと笑う
「うん。おいらよこしま、よこしまただお!」
そのただお
の言葉でやっと2人とも互いの名前を聞いていないことに気が付いた。
「わいはどーもと、どーもとぎんいちゆーねん」
赤いガウンの男の子。
「俺は、人呼んで雪之丞。伊達雪之丞ってんだ、よろしくな」
はっきりと癖毛のあるお兄さんが言う。
自己紹介がすんだところで、早速自分達で作った雪だるまを紹介する。
すると、雪之丞はびっくりしてから付け加えた。
「そうだ!枯木で顔、つくろーぜ!!」
「面白そうやな!」
「やろ、やるでー」」
公園の裏手から小さな手で三人で雪に埋もれた倒木を探す。雪だるまが可愛くなるよう慎重に慎重に。
夕日が出てくる頃、子供の物とは思えない立派な雪だるまが完成した。
「やったぁー!!できたぜー」
「すごいわぁー」
「やったぜ。おめーら。」
それぞれ口々に喜び会う。やっと完成した雪だるまは、今まで作ったどんなものより完璧で、きれいに見えた。
そこで、ちょうど時間切れ。
栗色の髪をした女性と、眼鏡の男性がやってくる。
「タダオ!!」
「おかん、親父」
両親の登場が嬉しくて思わず飛びつく。にこにこしながら砂山を指差し、三人で作ったことを伝える。母親も砂山を見て「すごいわね」とれーこの頭をなでた。
母親に手をつれられて帰る時、丁度その時、偶然にも2人の母親も現れた。
三人は三人とも幸せそうに今日の事を伝える。三人とも別々の道を行くため公園を出たらすぐ別れる。
なんだか名残惜しくなり、夕日に染まった雪だるまをもう一度見て、それから三人で
「「「んじゃなー!!」」」
と笑顔で手をふって。
そのまま別れた。
三人とも、次会うことはないだろうと思っていた。
なぜなら、よく通う公園ではないから。偶然よっただけの公園だから。
それは不思議なことに三人ともで。
だけど、会えたらな、また会えるよ、とも思っていた。
「なぁ、おかん」
「何や?タダオ」
「雪だるまな、でかいの出来たんやで」
「それはね、きっと三人で作ったからよ」
「え?」
「皆で、一つのものを作れたからよ。」
そう母親は微笑んだ。
そうかもしれない。1人でばかり遊んでいた自分が「友達」と作ったから。
そうなのか。そうだったのか。
嬉しくなって、母親にまた幸せそうな笑顔を見せた。


それはもう誰も覚えていないけど。誰も覚えていないお話だけれど。
あの雪だるまはいつ溶けたのだろうか?次の日?その次?
あの雪だるまはもうないけれど。
三人はまた出会うことになる。
タダオがキッカケを作り
銀一がそれをほり下げて
雪之丞が名前の如くがそれを固める。


「っしゃ!いけ、ライジングサン、ぶっちぎりだ!」
「何を?ヨコッチに負けてたまるか!いくんや」
「ふっ。流石は浪花のペガサス。だが俺のエンペラーも負けちゃいないぜ」
それは誰も覚えていないお話だった。

そして三人は誰もが記憶に残る思い出を今日も一つ作り上げている。


眠り猫氏「砂山公園物語」オマージュ作品。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa