ザ・グレート・展開予測ショー

サムライ◇ドライヴ〜3rdセッション「ワン>エイト(後編)」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 1/26)

――正月休みは事務所を空けなさい
家主の美神にたたき出され、人狼の里へとやってきたシロ&タマモ。
しかしそこでは、古代神フェンリルを奉らんと妖刀八房を直していた。
「仲間に胸はって言えないような後ろ暗いことなら、最初っからするんじゃない!」
激怒したタマモが八房破壊を強行する。抵抗する鍛冶屋・テツ。
「八房は一振りで八発の斬撃を生み出す。貴様に八発も叩き落とせるわけがない」
「そんなことする必要無いんじゃない?一発止めるだけで防ぎきれるわ」



刃凝がシロに迫った。その指先に鈍い輝きがともっている。
「爪か!?」
シュバッ
シロの左手に光が集まり刃となる。そしてその手を刃凝の爪に叩きつけた。
ガキッ
刃凝は受けた五指を使って霊波刀を掴んで止める。
「なにィッ!?」
霊波刀が捕獲されるなどとは夢にも思わない。爪が妖刀でできていてこその芸当。
残った左手も右手同様の五条の銀光を宿し、シロに向けてふりおろされる。
ザゥッ
すんでのところで右脚を突き出し、防ぐ。スニーカーを貫いた妖刀から血が滴る。
ビュバッ
相手の両手を止めて、ほんの僅かに気をゆるめた刹那に刃凝の両肩がはぜ割れた。
ザムッ、ドンッ
飛び出した曲刀が、シロの脇腹や二の腕に突き立つ。
「ぐく…!!」
シロは額にたまの汗を浮かべて残った右手で刃凝の顔面を叩こうと身をよじった。
シャウッ
唐突に刃凝の口から鉛色に濡れた何かが、シロの眉間目指して飛び出した。
とっさに右手でそれを掴む。
「…舌ベロ!?こんなものまで…」
鎖状の妖刀を掴んだ右手は一瞬でずたずたに裂けて血みどろになった。
グリュンッ、キシュキィキン
刃凝が首をまわすと、しなやかな髪が大きく揺れて乾いた音をたてる。
「まずい!」
髪は鋼線。そしてそれすら妖刀。シロはすぐさまそれを理解した。
右手で掴んだ舌を引っ張り、左手の霊波刀は強引に突き押す。
ゴヂッ
最初に喰らった角型妖刀の付け根に頭突き一発。その勢いで刃凝をひっぺがす。
「ったく…頭だけで何本仕込んでいることやら」
言いつつ、霊波刀が薄くなっていくのを見やって唾棄する。
失血による集中力減と妖刀の基本性質である霊力を奪う効果のダブルパンチ。
さらに人形でありながら舌が濡れていた。毒である。持久戦では勝ち目がない。
「一か八かに勝負を賭けるでござるか…」
呟きながら、今や完全に霊波刀が消え失せた左手を突き出す構えをとる。
しかし、刃凝にはシロがやっていることは筒抜けだった。
無傷の左手で勝負をかけると見せて、その実は我が身で隠した右手こそがド本命。
一見、深手を負い、毒までをも受けた右手に霊波刀を組むことは不可能に見える。
が、実は痛みがあることによりかえって意識を集中しやすくなっている。
それによって、渾身の霊波刀で斬りつけてくるだろう。
もっとも、いかなる角度からいかなる部位に攻撃されようとも
いかなる姿勢からでも妖刀が飛び出す仕組みになっている刃凝相手には徒労だが。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
シロが猛り、一息に間合いをつめた。霊気は間違いなく右手に収束されている。
刃凝の意思のベースであり、本体素材の木に宿る木霊はハッキリと感じている。
――右手は…右手はまだ出さないのか?まさか素手で殴りつけるのか…
刃凝が一瞬狼狽したちょうどその時、シロは右手をふりかざした。
――やはり右か!!
ぞぶぅ
刃凝が右手の霊波刀を受けるべく構えたと同時に
シロは左手を、刃凝の口に突っ込んだ。
肩から上だけであの調子では、全身にどれほど罠があるか知れない。
思いつく急所を片っ端ッから攻める時間もないし、かくなる上は内部を突く。
「だぁぁぁぁぁぁぁッ」
右手の霊気は隠れ蓑。集中を解き、すぐさま左手に霊波を組む。
ボンッ
刃凝の頭が爆砕し、消え入る寸前の霊波刀が弱々しい光を放つ。
「…どう…で、ござ…る…」
ジャキジャキジャキジャギギキィィィン
呼応するように、刃凝の全身から無数の切っ先が生える。
「あ…頭無しでも動く?いや、それはともかくなんだそのトラフグみたいな恰好…」
シロが慌てて身構えるのにもかまわず、刃凝はきりもみで体当たりを敢行した。
ぞりぞりぞりぞりぞり
「うあああぁぁああぁああぁああああぁぁぁああ!?」

風が運ぶ微かな血臭。まさか人形に血を積んでいるでなし、苦戦しているのか。
「あーぁ、こりゃ手間が増えそうね。さっきので手首ひねったっぽいし最悪」
「ぬぅぅ…糞餓鬼がよくもやりおったな…!!死ね!!」
テツが振るう。人狼が誇る稀代の妖刀、八房を。一振りが八発の斬撃を生む。
ブォウ…パシッ
「な…!?」
タマモは左手で、ことさら無造作に、八房を掴んで止める。
「だから言ってるでしょ?八房を封じるのは簡単なのよ」
バギッ
八房を掴んだ左手を巧みにさばき、肘鉄をくらわして倒す。
「ぐぐぐ…こんなバカな…」
ヒュ…バシィッ
今度は右手で掴む。そして左で殴り飛ばす。
ガゴッ
「まだ気づかないの?八房の致命的な弱点…いえ、能力発動条件という枷に」
「弱点…枷?」
「アンタら人狼は『一振りを八発にする』ってさも凄そうに言うけど
能力は『八発の斬撃を飛ばす』。『一振りする』という条件を満たせばね。
つまり戦闘において、敵の眼前で刀を振りきらなければ能力が発動しない。
よほど格下の相手ならともかく、自分と大差ない動きができる相手に
不意打ち以外で能力を出すには、刀が振り切れてなおかつ発生した斬撃が届く
遠すぎず近すぎない間合いを保たなければならない、中距離限定の能力!
だから近距離で、攻撃の軌道を妨害すれば防ぐ攻撃は一発ですむのよ」
八発の攻撃をいなさなければならないと考えれば、ついつい距離を置きたくなる。
その心理的死角、間合いをつめて攻撃を封じるところに攻略のカギがあったのだ。
「よし!そうとわかれば…」
ザッ
テツは飛び退き、間合いをはかる。
ザビュッ
八発の斬撃がタマモに迫る。慌てず騒がず右手に発火した念を集める。
パシパシパシ、ドギャザザザザンッ
三発捌いてスペースを作り、躱す。そして一足飛びで間合いを詰め
シャ…トンッ
テツの追撃を絶妙のタイミングで止める。
ゲシッ
今度は容赦なく蹴り飛ばす。どだい間合いを制するのは瞬発力である。
「死なすと後々メンドーだからそこで寝てろ」
「ぐぐ…」
なおも八房を手がかりに、テツはのろのろと起き上がる。
タマモは振り向きもせずにパチン、と指を鳴らす。
ゴォウッ
「ギャアアアアアアアアア!?」
「人狼の無節操な頑丈さを忘れてた…寝てろと言ったのに立ち上がったのは
抵抗の意思有りとみなしてよさそうだし、死なない程度に焦げるといいわ」
躍り狂う爆炎に、タマモは呆れ、嘲り、最後には昂揚した様子で語りかけた。

きりもみアタック(命名)の二撃目が迫っていた。目は霞み、傷口はばかに熱い。
「…ハァ…ハァ…武士道、とは…死ぬこととみつけたり…」
ズギャウッ
刃凝は、シロに接触するなり回転を止め、四肢を目一杯伸ばし彼女に纏わりつき、
一気に縮こまった。新しい攻撃パターンだったのだ。全身から鮮血が吹き出す。
「…………!!?」
今度は、今までに無い激痛だったにもかかわらず、悲鳴は無い。
シロは膝をつき、ゆっくりと倒れ込んだ。
刃凝が、右手のギミックを稼動させて前椀部に収納された妖刀をせり出させた。
人狼は偽死を使う。死亡確認には、首を切り落とすのが一番手っ取り早い。
「よし…」
存外あっさり、シロが起き上がった。やはり首を切ろうとすれば当然か。
ザッ
刃凝が斬りかかり、シロは刃を作りきらない霊波を練って構え
ズパッ
右腕が、宙を舞った。
「やはり…攻防一体に思えた貴様も大刀を出した場所は無防備であったな」
首を斬るには大きな得物が必要になる。それを誘えれば、死んだふりは大成功。
全身に小さな無数の妖刀を配するのは防御重視の造りだったのだ。
そして残り少ない霊力はインパクトの瞬間のみに刃を生んで節約する。
刃凝の右腕は地に落ち、バラバラに砕けた。
大勢は逆転した。シロの霊波刀は確かに完璧にガードされてはいるが
刃凝の妖刀の間合いは狭く、失った右手方向から攻めると反撃は届かない。
ジャッ
シロに向かって、刃凝の右脚が迫った。これも五指に妖刀が仕込まれている。
とっさに、シロは霊波をおさめた右腕を掴ませた。
そして相手の背中側から左手の霊波刀を胴体に突き立てる。
ヤマアラシの体毛のような妖刀が霊波刀と押し合う。
刃凝の右脚が引っ張られ、伸びきり、爪状の妖刀が腕に食い込んでくる。
「ううううぅぅぅぅううううぅううぅうぅぅ!!」
シロが唸り、徐々に妖刀が進まなくなる。刃凝が軋む。
みしみしみし、ばりっ
刃凝の右脚が折れ飛び、刃凝はよれよれと倒れ込んだ。
「片手片足になっては、動けたとして戦いようはあるまい」
根性で止めてた妖刀を一本づつ摘んで外しながら、シロは勝ち誇った。



次回へつづく

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