ザ・グレート・展開予測ショー

サムライ◇ドライヴ〜2ndリズム「ワン>エイト(前編)」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 1/24)

正月休を生きながらえるため(誇張)人狼の里に帰郷したシロと彼女についてきたタマモ。
長旅の疲れも汗とともに洗い落とし、シロの生家で夜を越す。



翌朝、あらためてタマモが頭をめぐらす。黴と線香の匂いがする。
――首突っ込まないでおくか。――
タマモは視線を落とした。興味はあるし、遠慮するガラでもない。
しかし、陰気臭い話をほじくりかえして自分がつまらない思いをするのはごめんである。

シロは、面倒臭がるタマモを、長老の下へと引きずり出した。
「長老、これが拙者が普段仲良く『してやってる』アホ狐でござる」
「……そちらの若いのにいつもお世話『させられてる』タマモよ」
一瞬、沈黙が落ちる。長老がすぐさま嫌な空気を読み、話を切り出す。
「…………友達か?」
「知り合いでござる」
「不幸にも、ルームメイトよ」
またまた沈黙する。たっぷり十数秒かけて、長老が再度切り出す。
「…………まぁ、我らとは傍系の間柄の妖狐殿、里の代表として歓迎しましょう」
ここで「シロがお世話になってる」とか余計なことを言うほど長老は浅慮ではない。
「まぁ、短い間よろしくしてやって欲しいでござるよ。さ、タマモ行くでござる」
言いながら腰を上げるシロ。一方タマモは頬に汗浮かべつつぴくりとも動かず、
「あ、足痺れちゃって……ゆっくり立つから先行ってて」
「…なっさけない……やっぱりグータラ狐でござる」
呆れたような笑み一つ残してシロが退室し、長老も腰を浮かす。
「どれ…足が痺れた時は布で擦るとよいんじゃったかな……」
呟く長老の背中を、見ずに意識してタマモが口を開いた。
「仲間が帰ってきたってのに随分素っ気無かったわね…おまけでついてきたあたしが
よっぽど疎ましいのか、ひょっとして帰ってくるのに間が悪かったのか………」
「…九尾殿相手に化かし合いは分が悪すぎたわい。シロには伏せてくれますかな?」
背中越しのまま、長老はむしろ今まで以上に柔和な口調で喋った。
「そうできるように、追っ払ったんだけど?」
「妖刀じゃよ……あの子から父を奪った剣…砕けたそれを今、修復しております」
疲れたように、いや、自分を疑うように弱々しく言葉を紡ぐ。
「物騒な話ね。そんな危ない武器なんか、なんに使うってぇのよ」
「使うのではありません。在る事に意味があります。あれは我らが神の力の象徴……
里の者の心の支えであるそれが失われては……今は大丈夫でしょう…しかしいつか必ず
そう、フェンリルが復活したあの日の出来事が忘れ去られる頃、里は内から腐ります。
『個』である九尾殿と違い、『集』である我らには絶対に避けられぬ問題ですじゃ」
たとえ、また同じような悲劇が起きようと、里の存続にはそれさえも必要なこと。
それが、寄り合いでの決定である。また、次のようにも。
<生きる意味を見失って死ぬことのなんと残酷なことか。
我らは戦場で果てるなら、何の悔いもありもうさん>
タマモはおもむろに立ち上がり、侮蔑の眼差しとともにやや早口に喋りだす。
「とっくに頭腐ってるんじゃない?使わない武器を、使えないどころか
迷惑かけっぱなしの神様のために直して、そのことを仲間に胸張って言えないなんて!
くっだらない!あたしがへし折ってやるわよ!!せいぜい神様に泣きついてるといいわ!!」
バンッ
飛び出した先に、晧い影が佇んでいた。
「………胸張って言って欲しいでござる。…非力なお前が、何を折るでござる?」
「里の心の支えとやらよ。そっちこそ、盗み聞きなんてカッコ悪いわよ」
タマモは意地悪く受け応える。
「お前を待ってただけでござる。本気で怒鳴ってくれた声だけが、聞こえたんでござる」
「チッ……!カッコ悪ィのはあたしか…ま、あんたも今のはクサかったけどね♪」
言ってニッコリしつつ肩を叩いてくるタマモを振り払い、シロが喚く。
「うっさい!言っとくが今回は、霊波刀が使える拙者の独壇場でござるぞ」
「あ〜はいはい、そういう前評判裏切るのが楽しいから、そういうことにしといたげるわ」
軽口叩きつつ、ついでに鍛冶屋の戸も叩く。が、
「あり?」
「いなァい……」
はたしてそれらしい刀も、どこにも見当たらない。
「きっと長老が先回りして逃がしたのでござる……どうする?相手も人狼。
こっちが見つけられるような匂いや手がかりは残しっこないでござる」
「そうね……じゃあ、こうゆうのはどう?」
タマモは一瞬目を輝かせ、口を開いた。


森の中を人里目指して歩を進める、大荷物を背負った人狼の鍛冶屋テツ。
「妖刀はそこ?」
と……ン
声を帯びて舞い降りたのはタマモだった。
ザッ
「退路もない。拙者は同胞を傷つける気はない。大人しく八房をこちらへよこすでござる」
「……お前らが、そうなのか…よく、わかったな」
シロに後をとられた男は、面白くもなさそうに言った。
「…慌てないのね……(コイツ、まさか……)」
いやな空気を肌に感じ、タマモが、歯の根が震えを懸命に抑えながら言う。
「俺の真後ろか……いい場所に立ってくれたな。角度、距離ともに理想だ…」
「……!?」
スッ、ザビュッ
シロは左に跳んだ。何かが彼女の首をかすめ、過ぎる。
「わざと…追いつかせた……おおかた自分の妖刀の能力テストってとこね」
「一つ目がハズレだ九尾。俺は長老の命に背かず慎重に逃げていた。
だが、万が一にも追いついてくれはしないかと期待していたのだ」
タマモの息苦しそうな呟きに、男は律儀に応えた。一方、シロは草木の陰を睨み据えた。
ガチャリ、チー
「人…形?」
姿を現したのは、子供を模した木の人形。
「妖刀暗鬼‘千切り刃凝(ちぎりにんぎょう)’俺が九尾を倒すまで、これで遊んでろ」
――そして同時にシロを疲労させねば、剣術を知らぬ俺では八房を用いても勝てない…
従来の妖刀では優れた剣士、剣客が手にしてこそその本領を発揮する。
優れた剣とは剣士の力量差を絶対的なものとする。この刀はその常識を覆すためのもの。
いかに優れた剣の腕も、この剣を繰るには不要。どんな剣士とも対等以上に戦えるだろう。
きりきりきりきりきり……
「この人形のどこが妖刀でござる?」
向かってくる人形の頭を右手で押さえ込んで尋ねるシロ。
「例えば、「そこ」だ」
ヂャゴンッ
「ぎゃう!?」
ぱた…ぱたた……
反射的に離した右手から、あるいは人形に突如生えた鋭利な角から鮮血が流れ落ちる。
「千切り刃凝の名はダテではない。全身千数十に及ぶ内蔵式妖刀を存分に味わうがいい」
恍惚の笑みすら浮かべ、男は言う。視線をタマモからはずさぬそのままで。
「そんで?さっきの口振りだと、あたしには直々に相手してくれるみたいだったけど」
「フ…再生八房の切れ味を試さねばウソになる…」
ザンッ
ギュドドドドドドドドンッ
「くの…」
タマモはうめきつつ身をよじり、斬撃同士のあいまをぬってかわす。
「クククッ!俺はたった一振りしかしておらぬというのに、随分苦労しているな…?」
「………そう見える?…ま、余興はここらでおしまいにしとこっか…」
「笑止!八発の斬撃が同時に繰り出されて、貴様はいくつにまで反応できる?
二つか?三つか?どちらにせよ、この俺が連続で剣を振りつづければかわしきれんぞ」
タマモが不意に、人差し指を立てて冷ややかな視線を送った。
「………一発…」
「…なに?」
「妖刀八房の正体見たり。その攻撃を完封するのに、掌打一発あれば事足りるわ」
「貴様!……ならば次の攻撃でやってみろ!!ほぅれ、ゆく………ぉぶ!!!」
ゴドンッ!
炎を纏ったタマモの拳が、テツの顎を的確に打ちぬいていた。
「ぶわぁ〜かッ!こっちゃアンタの攻撃待ってやるほど、親切する義理ないのよッ!!」

つづく

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