ザ・グレート・展開予測ショー

砂山公園物語


投稿者名:眠り猫
投稿日時:(02/ 1/23)


それは、誰も覚えていないお話だけれど―――――



太陽の光が気持ちいい日だった。空も青々と広がっている。雲は穏やかに流れている。
散歩日和。
そんなに大きくない、誰もいない公園の砂場で1人、少女は遊んでいた。
緑も、そこそこあるその公園は、少女にとっては大きな冒険場。
栗色をした長い髪に、黄色のワンピースを来て一人、砂で遊んでいる少女の表情はとても軽やかなもので。1人で過ごすことに慣れている、そんな表情。
しかし、それを悲しいと思っていない。
1人でもおとなしく待っている、それが彼女に課せられた重要な任務。
報酬は大好きなママの笑顔。
「ほりゃ、お山ーっ!」
ばさばさと砂をかぶせてゆく。どんどんそれは高くなる。それだけで、なんだか楽しくて楽しくて仕方なかった。
公園はよく行くけれど、今いるのは初めて来た公園。
すると、不意に後ろから声が聞こえてきた。たどたどしい、穏やかな声が。
「あの〜〜〜、何やってるの〜〜?」
ひどくゆっくりとした声。だけどそれはどこか心地よい声だった。
少女は後ろをふりかえる。そこには黒髪の・・・同い年くらいの女の子がいた。
黄色のちょっと目立つワンピースとは反対に、ピンクのどこかおとなしい印象を与える洋服の女の子。目があっただけで、黒髪の子はにこぉと微笑んだ。つられて笑い返す。
「お山つくってるの!一緒にやる?」
子ども特有の無邪気な雰囲気。パッと明るい笑顔をくれた少女に黒髪の女の子も笑い返す。
「やる〜〜。ありがと〜。」
そう言って隣にちょこんと座った。のんびりとした子。
その子が砂でできた小さな山に触る。サラサラ崩れてゆく砂山はなんだかもの足りない。
「どーしたの?」
「あのね〜、お水かけたら〜、もっとつよいよ〜〜。」
なんだか若干言葉が足りなかったが、そこは子ども同士、ばっちりしっかり通じたらしい。ぱたぱたと活発な長髪の少女は、すぐそばの水道までかけよる。
水を出して両手いっぱいにためて、またぱたぱたと砂場にまでもどると
「えいっ」
と砂山にかけた。戻るまでには、指の隙間からぽたぽた水が落ちて半分くらいの量になってしまっていたが。それを見て黒髪の少女も同じことを繰り返す。
ぱたぱた。ぽたぽた。の繰り返し。
だけれど、元々そんなに大きくない砂山はすぐに水分を吸収し、どんどん固く丈夫になっていく。
「わぁー、すごーい。」
ぺたぺた形を整える。まぁ、大して変わってないのだけれど。
ちょっとした事が新鮮で。
1人が多かった少女には誰かと一緒に砂山を作るのが楽しくて仕方がない。
だけど・・・実は黒髪の少女もそれは同じこと。
べちゃ。
どこかでそんな音が聞こえた。何故かはすぐわかったけれど。
黒髪の女の子が転んだらしく、地面に倒れている。
今すぐ泣き出しそうな女の子。ここで泣いたら恐らく明日には公園自体が消えていただろう。
そこへ長髪の少女が駆け寄る前に、黒髪の女の子の目の前に、小さな手がさしのべられていた。白い、黒髪の少女とは反対に、よく日に焼けた褐色の肌。
「だいじょーぶなワケ?」
知らない女の子。長い癖の強い黒髪、動きやすそうなズボンをはいていた。
予期せぬことにびっくりしたのか、涙はもう止まってしまった。
さしのべてくれた手をとり、軽く笑う。
「ありがと〜〜〜。」
「なにやってるの?おててびしょびしょなワケ。」
「お山つくってるの!一緒に遊ぼ!」
いつのまにか栗色の長髪の子供もかけよっていた。笑って、褐色の手をとっている。
それはびしょびしょで泥で汚れていたけれど不快ではなくて。
むしろ誘ってくれたことがうれしくてにこっと笑う。
「うん。わたし、おがさわら えみっていうワケ。」
そのえみの言葉でやっと2人とも互いの名前を聞いていないことに気が付いた。
「わたしれーこ。みかみ れーこ。」
黄色のワンピースの少女。
「わたし〜〜、ろくど〜めいこ〜。よろしくね〜、えみちゃん、れーこちゃん。」
おっとりと黒髪の女の子が言った。
自己紹介がすんだところで、早速自分達で作った砂山を紹介する。
すると、えみはびっくりしてから付け加えた。
「トンネル、つくれそーなワケ!」
「ああ、面白そー!」
「じゃ、ほりましょ〜〜。」
山の真ん中辺りから小さな手で三人とも一生懸命にほっていった。崩さないように慎重に慎重に。
夕日が出てくる頃、数個の泥団子と共に完成した。
「やったぁー!!できたー!」
「すごい〜〜〜!」
「うれしーワケ!」
それぞれ口々に喜び会う。やっと完成した砂山は、今まで作ったどんなものより完璧で、きれいに見えた。
そこで、ちょうど時間切れ。
栗色の髪をした女性が現れる。
「令子!」
「ママぁ!」
母親の登場が嬉しくて思わず飛びつく。にこにこしながら砂山を指差し、三人で作ったことを伝える。母親も砂山を見て「すごいわね」とれーこの頭をなでた。
母親に手をつれられて帰る時、丁度その時、偶然にも2人の母親も現れた。
三人は三人とも幸せそうに今日の事を伝える。三人とも別々の道を行くため公園を出たらすぐ別れる。
なんだか名残惜しくなり、夕日に染まった砂山をもう一度見て、それから三人で
「「「バイバーイっ!!」」」
と笑顔で手をふって。
そのまま別れた。
三人とも、次会うことはないだろうと思っていた。
なぜなら、よく通う公園ではないから。偶然よっただけの公園だから。
それは不思議なことに三人ともで。
だけど、会えたらな、また会えるよ、とも思っていた。
「ママー」
「何?令子。」
「お山ねー、すっごいきれいだったの。とってもとってもきれいだったの。」
「それはね、きっと三人で作ったからよ。」
「え?」
「皆で、一つのものを作れたからよ。」
そう母親は微笑んだ。
そうかもしれない。1人でばかり遊んでいた自分が「友達」と作ったから。
そうなのか。そうだったのか。
嬉しくなって、母親にまた幸せそうな笑顔を見せた。


それはもう誰も覚えていないけど。誰も覚えていないお話だけれど。
あの砂山はいつ壊されたのだろうか?次の日?その次?
あの砂山はもうないけれど。
三人はまた出会うことになる。
令子がキッカケを作り
エミがそれをほり下げて
冥子がそれを固める。
「ちょっとエミ!!いい加減にしなさいよね!」
「それはこっちの台詞なワケ!!」
「ちょっと〜〜、やめましょうよ2人とも〜。」
それは誰も覚えていないお話だった。

そして三人は誰もが記憶に残る思い出を今日も一つ作り上げている。

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