ザ・グレート・展開予測ショー

サムライ◇ドライヴ〜1stフレーズ「ホームステイ」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 1/22)

冬の空というものは、おおむね淀んだ雲が敷き詰められていて見た目に重い。
しかし今日は、まるですべてを飲み干した後のように何もない蒼暗い大空である。
「はぁぁぁぁぁぁ…」
あまりに晴れやかで、のどかな空に洗われるままに心をひたす。
「…ねぇ?…」
「ほふぅぅぅぅぅぅ…」
彼女の心は、いまや空にあった。少なくとも本人はそう信じていたし、
地上のいかなるしがらみからも、解放されていて呵るべきである。
「…ちょっと…」
「いや〜、たまらん…」
思わず、口をついて出てしまう感嘆の声。今や、彼女は空と成ったと言える。
地上での苦楽とはかけ離れた高みに、彼女は達していた。…のかも知れない。
「ねぇったら…!」
ぴしり、と微かに件の彼女の表情に不自然なモノが混じる。が、すぐ立ち直る。
「こうしてみると、俗世間のなんとちっぽけな…」
「聞えてんのに無理矢理無視すんなぁぁぁッ!」
今度こそ完全にその声を聞き及び、彼女の表情が途端に険しくなる。
苦虫を噛み潰したような顔…
それどころか、噛んだ虫が極上のヤな音を立てて潰れたような、極上の失意顔。
前髪だけにある鮮やかな紅色が、我関せずと言わんばかりに風になびいていた。
脱力したくなる気持ちを幾度となく奮い起こし、正面の少女をねめつける。
九つにまとめられた金髪が、頼り無気に風に流されていた。


             サムライ◇ドライヴ

「で、どうしたでござる?」
なるたけ無感情に聞こえるように、シロはタマモに向かって言い放つ。
「どうもこうも…長いわッ!あんた本ッ当に故郷への道順・覚えてんでしょうね?」
シロの努力をあっさり無視して、タマモはぐぐい、と詰め寄った。
「あたりまえでござる!お前と違って人狼はこのくらいで根をあげないでござる」
最後には舌だして思いっきりタマモを小馬鹿にするシロ。
「ふんッ、バッカみたい!どうせ犬は頭悪いから体鍛えなきゃすぐ死んじゃうのよ」
「なんだぁ?コイツ、その莫迦にノコノコついてきといてよく言うでござる」
そもそも、タマモが一緒に来る理由がシロにはさっぱり分からない。
事の起こりは数日前――
「今年の正月は可愛い妹のために実家で過ごすことにしたから♪
もしも電気ガス水道止まってて冷蔵庫も空っぽな事務所に不服なら
あんたらも里帰りぐらいしたほうがいいわよ?うちはホテルじゃないから」
ゴキブリ、敗北についでこの世で三番目に無駄な経費が嫌いな所長の至上命令。
こちらに選択権はない。
が、定まった故郷を持たないタマモが選んだのはなんと人狼の里。
「おキヌちゃん、この前の里帰りのお土産おあげじゃなかったの。
おキヌちゃん家のほうじゃおあげがないんだって…だから仕方なかったのよ」
清々しい程シンプルかつ不条理な答えに、シロは爽やかな笑みを返して言う。
「どっちが莫迦だぁぁ!?お土産と普段買う物は別でござるぅぅぅーーー!!」
「やかましい!!この森を練り歩いてる間に、あたしだって考えてたわよ!!!」
「あー、この莫迦!莫迦の分際で今まで散々拙者を莫迦呼ばわりしやがってー」
「うっさい莫迦!事実おつむの程度はあんたの方が低いじゃないさ」
少女達の他愛無い戯れはゴチッ、とかメギャスッ、とか可愛らしい音を響かせた。
リュギッ
妙な音を立て、足を滑らせたのはどちらだっただろうか…バランスを失って
しがみつくと相手の者もパニックで掴み、どちらからとなくハデに転ぶ。
倒れ込む先は、なんだか急傾斜ぎみだったりするのも御愛嬌。
『わわわわわわわわわわわわひぃぃぃぃぃぃぃ!』
ベリベリベリ…ガササッ
死ぬ程転がり落ちた二人は、気を失ったかどうかも覚束ない頭をふりふり起こして
「ううぅ…ヒトの帰郷の足引っぱりまくりおって…、里はこの奥でござる」
「いつつつつ…なによ、近道できたんだからよかったじゃない」
またまた掴み合いの喧嘩をはじめ、その後も度々どたばたしながら日が暮れた頃。
「着いた…拙者の人生で一番過酷な一日だったでござる」
なだめる者もおらず、一日の半分は喧嘩に使ったような一日だった。
「ったく、なんて秘境なの?ナビは莫迦だし、ホントよく来れたもんだわ」
二人の少女が、歴戦の勇士も裸足で逃げ出すような風体で里入りした。

「この恰好じゃ、長老に挨拶するのも明日の方がいいでござるな」
軽く体を叩くと、泥が乾燥した固まりがぼろぼろ剥がれ落ちた。
「それにしても…事務所の仮住いとおんなじくらい味気ない部屋ねぇ」
シロの実家の敷き居を潜ってのタマモの第一声である。
「武士とは内面を磨くものよ。部屋も同じこと。飾り立てたりしないでござる。
んじゃ、拙者が薪・わけてもらってくるから水汲んでこい」
「客に働かせるのがあんたン家の流儀か…」
「客というのはもう少し行儀良いものでござる!」
ボソっとこぼすタマモにテンポよく切り返すシロ。
戦争抑止力(美神さん)を失った二人の共同生活がここにスタートした。
行き着く先は決裂か?はたまたより熱い結束か?



そしてのどかな人狼の里で筆者は説得力のない戦闘をやってしまうのだろうか?
説得力はおいておくとして少なくとも一波瀾ある予定ではあるが…
ほんのりと見損なわれる不安を抱きつつ次回へ続く

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