ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(転変)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 1/21)




 ー終曲ー



 一瞬とさえ言えぬ程度の隙だった。

 ツ・・・右頬から流れ出る温かな何か。戦闘に割り込んだベスパは、頬に添えた掌の内側で、その『何か』を感じていた。
「・・・ち」
 まじまじと、それがこびりつく右の手を見やりつつ、舌打ちするベスパは、そこを狙い追撃してきた再度の光弾を、今度は軽く首を捻って回避する。すると背後、いや左斜め後ろから声がかけられてきた。
「大丈夫かベスパ!」
 横島(ポチ)の声だ。
 その声音から、横島が純粋にこちらの身を案じてるというのは解る。しかし。
「あ〜〜〜、こっちはだいじょぶだから・・・」
 そこで一度言葉を切り、ベスパは息を吸い込んだ。

「あんたはとっとと下のも連れて、行けっつってんだよっっ!!!」

 力いっぱいにそう叫ぶ。すると・・・僅かながら迷う気配も感じとれたが、後ろから感じるその気配は遠ざかって行く。
 だが。そう簡単に、事は上手く運ばない。

『ーーー逃がさん』

 短くそう告げるや、突然現れたベスパの事になど構わず、主命を果たさんとセステルティウスが指先を、遠のいてゆく気配の方へと向ける。

『死ね』

 人の五感では防ぐのが難しい光線が放たれた。
 真っ直ぐにーーー標的の、獲物の急所を的確に狙った光線。

 それはしかし、その軌道に割り込んだ何かによってーーー
「おっと!」
 ーーー阻まれた。

「!」

 固まるセステルティウス。それはだ無造作に伸ばしただけの、ベスパの左腕。しかし自分の通常の光線では、それすらも貫けないというのか。
 そうこうする内、やがて全ての霊気が感じとれなくなる。
 美神令子も横島忠夫も、そして地上からこちらを見上げていた、あの二匹の人狼もネクロマンサーも。
 もはや感じとれるのは、眼前に在るこの強敵の霊波のみだ。
 ベスパがーーー動く。両方の掌で拳を形作り、胸の前で激しく突き合わせると、一層こちらへ向けられた霊圧が強まった。
 ニッ!と笑うベスパ。
 セステルティウスの頬を、冷や汗がつたったーーー

(光線はどうってこたないね、けれどーー・・・)
 両拳を突き合わせたベスパは、
 ピリピリと、己が全身の感覚が研ぎ澄まされて行くのが、はっきりとーーー解る。
(久しぶりだよね・・・こんなのはさ!)
 戦前の高揚感。涌いてくる緊張感。そのどちらもが、久しく感じ得なかったものだ。
 ベスパは一旦そこで、気を引き締め直した。
(あの光弾、ポチ達が合体している時にダメージを・・・加えてあたしの頬にも・・・マトモに受けたらヤバイか)
 ベスパがーーー叫ぶ。
「よぅし・・・行くよ!!!」

 既に合体も解け、意識の混濁した美神をシロに背負わせーー・・・疾走する横島達は、背後で強力な二つの霊波がブツかりあうのを感じたーーー

 
 
 沈黙に支配されていた。



 快活な声も無く、朗らかな笑顔もまた無く。



 重苦しい空気のみが、闇のみが、満ちる。



『よくも・・・』



 煮詰めた殺意と憎しみとを、凝縮したかの様な声。

 闇の、声。

『よくもたばかってくれた・・・』

『あら?何の事かしら?』

 闇の中より次いで聴こえてきたのは、意志の強さを感じさせる女性の声だった。

『ぐ・・・ォオオオ!!!』

 獣じみた狂気の叫び。

 それを最後にし、女性の声は、気配はーーー絶たれた。
 
 ーーーしばらくして。



『美神美智恵・・・許さん!もはや絶対に許さんぞ!』



 そして、闇の声もまた、絶えたーーー




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