ザ・グレート・展開予測ショー

Danger afternoon(W)――午後の追跡――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 1/21)

『惚れ薬アルよ……それも、むかーし坊主が失敗した事を教訓に、『同族』にしか作用しない画期的なものアルね』
 横島は、そんな事は最早聞いていなかった。……いや、聞いてはいたのかもしれないが、少なくとも意識の中にその言葉は入ってはこなかった。言葉は続く。
『でも問題があってね〜…… もてたい人の身体に匂いをなすり付けて使用するアルが、不特定多数に圧倒的にもててしまうアル。坊主みたいな奴は嬉しいかもしれないアルが、商品としては失敗作アルな』
「ていうか、それどこにあるの?」
 隣で聞いていたタマモが聞いてくる。……そう、紙袋の中は……空だった。
「なあ、厄珍」
『ん? どうしたアルか、坊主。あ、そうか! 欲しいアルな!? よおし、死をも辞さない覚悟があるのならば、知り合いのよしみ、たったの5千万円で良いアルよ。何、ワタシと坊主の仲じゃないアルか。礼なんて要らないアルよ。ただちょーっと令子ちゃんのパンツを横流ししてくれれば……』
「そうぢゃねぇ……それはどこにあるんだ?」
 少なくとも、厄珍が言っていたように、紙袋の中には見当たらない。先程から隣でタマモが紙袋を逆さにして振っているが、何も、出てこない。
『? 紙袋の中じゃないアルか?』
「…………ないぞ」
「ないわね」
 厄珍には聞こえていないが、隣でタマモも同じことを同時に呟いている。
 そして、厄珍の言葉は数十秒間停まった。
 その間、何となく時計を眺めてみる。時計の秒針が『8』の文字に掛かった辺りで、受話器の向こうから厄珍の絶叫が聞えてきた。
『うわああああああああああああああっ!! ど、どーするアルか、坊主!! あれが一般人の手に渡ったら大変な事にっ!! ワタシ営業免許停止されてしまうアルよ!!』
「大変なのはそっちか!?」
 思わずつっこむ。……しかし、確かにそれをしている場合ではない。タマモはもう既に、匂いで例の『惚れ薬』を探し始めている。
「答えろ厄珍っ!! それはどんな効果があるんだ!? 効果の持続時間は!? ……そして、その薬まさかまだ残っているのか!?」
『あれで最後アルっ!! だからワタシ自身が使ってコトの真相を確かめようとしたアルにぃぃぃっ!!』
「するなっ!! ……タマモ。シロを探す事は出来るか?」
 前半は厄珍。後半はタマモに向け言う。
「え、シロ? 多分出来るけど……でも何で?」
「シロが犬に追われていたんだろう? 例の薬は多分シロが持っている。……ついでに、このままじゃシロが危ない!」
「シロが!?」
「行くぞタマモッ!!」
「うんっ!!」
『あ、坊主〜っ! ちょっと待つアル、薬はしっかりと回収してワタシに返すアルよ〜っ!!』
 耳障りな厄珍の声を後ろ耳に聞きながら、……横島とタマモは、昼下がりの町へと疾走していった。


 その少し前。
「――!」
 意識を失っていたのは数秒の事だったらしい。……シロは、空き地の真ん中。ど真ん中に倒れて夜空を見上げていた。
(あれ?)
 夜空。
 おかしい。今は昼過ぎ。夜というには余りにも早すぎる時間である。……ということは『これ』は…………
「う……あ」
 よく見ると、闇は微かにその身を動かしている。時折、闇の合間から光が見えたりもする。
「だ―――――――――――――っ!!」
 シロは跳ね起きた。……自分に覆い被さっていた数十匹の犬を跳ね飛ばして。体中が唾液でべとべとだった。
「よ、よくも武士に生き恥を……」
 霊波刀が、再び淡い光を発する。……ちなみに全力である。最早手加減などしてやるつもりは微塵もない。……と言うか、そのことを念頭におく余裕すらない。
「たたっ斬る!!」
 くううううううぅぅぅぅぅぅぅぅん…………
 力の差を理解したのか、一歩退く犬たち。
 だが、退くのはそれまでだった。空き地の中には、続々と後続の犬々がなだれ込んでくる。先程事務所に最初に進入してきた、あの黒犬の姿も見えた。ということは、来る道で蹴り倒してきた犬たちもそろそろ復活してきているということだろう。
「………………」
 どんどん増える犬。
「………………」
 何があったのかは知らないが、自分を執拗に追いかけてくる犬。……それも、加速度的に犬の数は増えて行く。
「………………」
 取り合えず感じたのは、先程まで感じていた怒りやら、殺意やらが急速にしぼんで行く事だった。
 その代わりに浮かんできたもの。
「………………う、う、うわあああああああああああん!!」
 恐怖。悲哀。そのような感情に突き動かされ、シロは翔んだ。……火事場の馬鹿力という奴なのか、10メートルほど翔んで、犬の集団の向こうに着地する。そして、着地と同時に猛ダッシュ。……追いつかれては……駄目だ。
「せんせ――――――――い!! 助けてでござるぅ――――っ!!」
 走る。……犬の群れが追ってきているのをはっきりと感じる。だから、走る。追いつかれないために、走る。走らなくては……駄目だ。しかし、走れば、生きられる!
(先生! 先生! 先生! 先生! 先生! 先生ぇぇぇぇっ!!)
 だから、足を止めるわけには行かない。自分の意志では、足は止まらない。いつもの散歩を遥かに超え、時速50キロ近い速度に、足に深刻な不安を感じてはいても、停まるわけには行かない。
「せんせえ――――――っ!!」
 全速力で事務所へと走りながら、シロは虚空へと吼えた。

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