ザ・グレート・展開予測ショー

Danger afternoon(V)――午後の転換――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 1/19)

(何が起こったでござるか!?)
 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…………
 シロは走りながら考える。考えながら、眼下を見やる。……犬の津波はどんどん増殖しながら明らかに自分を追って来ている。流石に屋根の上を走っている自分に追いつく術はないだろうが。
 しかし、立ち止まれば本気で上ってきそうな勢いではある。立ち止まる事は出来ない。
「うううううううううううう………… 何か最近拙者、損な役回りばかりの気がするぅぅぅ……」
 走りながらの呟きは、無常に呼吸を苦しくする。だが、呟かずにはいられない……
「何かこないだも先生達の仕事に着いてこうと思ったら美神殿に駄目って言われるし、そしたら先生は何か『がいこく』で酷い目に遭ってたらしいし、拙者は先生に霊力だけ送って何にも出来なかったしぃぃぃっ!!」
 ふわり。
「へ……?」
 独白に夢中になっていたため、気付かなかったが。
 いつのまにかここは住宅街から離れて既に換算とした空き地。
 当然、屋根という今現在自分が依存している足場は、なくなる。……そのことから導き出される結果は。
「きゃあああああああああああっ!?」
 空き地に落下し、したたかに尻を打つ。
「クゥ〜ン……あ痛たたた……」
 四つんばいと言うひどく情けない格好で、自分の尻をさする。シロは、空き地のちょうど真ん中辺り――取り合えず持ち前の脚力でここまでは普通に飛んだらしい。とても感謝する気にはなれないが――で、とにかくここからの脱出を試みた。
 だが。
「…………やっぱり、逃がしてはくれないでござるか……」
 目の前には、犬の群れ。空き地の入り口を完全に塞ぎ、今なおその数を増やしつづけている。とてもではないが、まともに闘える数ではない。
(先生……)
 霊波刀を放射する。生身の犬を斬るためには、このような物は本来使ってはいけないものだ。確実に相手を殺してしまう。
(出力を弱めて…………何とか気絶させるだけに留めれば……)
 こちらの戦闘力を目の当たりにすれば、少なくとも目の前に居る犬たちは怯むだろう。対抗策はそのあとで事務所に戻って美神にでも相談すればよい。
「よし……いくでござ……ってうわぁ!?」
 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺ…………
 舐めている。
 下手をすれば数百匹は居る犬たち。その全てが……自分を、舐めている……
「あ…………ああ……あぁ…………」
 回る。ぐるぐる回る。何だか空も回っている。あれ? 何で空が見えるのだろう? 自分は立っていたはずなのに。あれ…………
 本当に何が何だかわからないまま、シロの意識は溶けていった……


「すまんな、タマモ」
 取り合えず事務所に戻って目を覚ました横島から聞いた開口一番の台詞がそれだった。
「うん。ところで横島、あんな所で何やってたの?」
 特に気にする必要はないことではあったが、やはり気にはなる。……特に、あの場で嗅いだ匂いの中には……
「飯を買いにいったんだが…………シロの声がしたと思ったら急に何か遠くから土煙が湧き上がってきてな……その後は覚えていない」
「やっぱり天中殺……」
「頼むから言わんといてくれ。それで気がついたらここだ」
「ま、それはいいけど、シロの奴何であんな犬たちに追われてたんだろ?」
「……犬?」
 訊き返してくる横島。気付かなかったらしい。
「あれ犬だよ。犬が物凄い勢いで疾走してたの」
「……なるほど。体中に足跡が刻みついてるのはその所為か……ところで、シロが追われてたって云ったか?」
「うん。シロの匂いが屋根の上からしたし……」
 ついでに言えば、そのシロの叫びのお陰で、昼寝から目覚められたわけなのだから、感謝しておくべきなのかもしれない。……もしあそこで飛び起きるのが少しでも遅かったら、自分も今ごろ横島と同じ目に遭っていただろう。
 その折。
 プルルルルルルルル プルルルルルルルル
 事務所の電話機が呼び出し音を奏でる。仕事用の音ではないと言う事は、私用ということだ。別段、美神以外が取っても構わない。タマモは受話器を取った。横島にも会話が聞こえるように、会話は電話機本体から流しておく。
「はい。美神除霊事務所ですけど」
『おお! 新しいオンナの子アルか!? ワタシ厄珍と……』
「横島ー。厄珍ってオッサン知ってる?」
「どいてくれタマモ、俺が代わる」
 横島に受話器を渡し、タマモは後ろに退いた。先程会話はオープンしておいたので、横島と厄珍なる男の会話はそのまま聞こえてくる。
「何だ? 厄珍」
『おお坊主! さっきのオンナの子誰アルか? 後で紹介するアルよ』
「知るかっ!! で、何の用だ? 美神さんなら今留守だぞ」
『そうだったアル。坊主、さっきの紙袋返して欲しいアルよ』
「紙袋? それがどうしたんだ?」
 紙袋……タマモは取り合えず居間の中を見渡してみた。……あった。ソファーの上に、開かれたまま放置されている。
『あの紙袋、坊主が間違えて持っていったアルよ。あれには最近仕入れた超A級危険物的薬物が入ってるアル』
 その声を聞いて、紙袋に伸ばしかけていた腕がピタリと止まる。
「何でそんな危険物をそんな所に置いておくんだ!?」
『仕入れたばかりでしょうがなかったアル……それより、本来の注文の品渡すから取りに来て欲しいアルよ。あれを持って』
「危険はないのか……?」
 ……紙袋の前で、紙袋に手を伸ばした体勢のまま動けないタマモ。
『袋を破らない限り、危険はないアルよ。大体、危険物とは云っても、あれの危険はまた別のところにあるアル』
「……ところで危険物って何なんだ?」
「これのこと? 横島」
 取り合えず危険はないと理解し、持ってきた紙袋を横島に渡す。……紙袋から、何か妙な匂いが漂ってきてもいたが。
『それは……』
「何なんだよ」
 紙袋の中を覗き込みながら、横島。ちなみにタマモには、その中には何も入っているようには見えなかったが……
 そして、男の言葉は続く。
『惚れ薬アル』

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