ザ・グレート・展開予測ショー

Danger afternoon(T)――午後の始まり――


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(02/ 1/15)

 その日は特に何事もない、誰にとっても普通の日と呼んで差し支えないものだった。
「――おーれがやらーなーきゃだ――れがーやるぅ〜……っと」
 故に、その日出勤日であった横島は、厄珍堂へ買出しになど行かされていた。……いや、ライフワークであるが故、文句などはないのだが。
 天気は上々。空には雲ひとつなく、遠くの空へと雁が群れを成して飛んでゆく。ついつい鼻歌など歌いたくもなる。実際、歌っていた訳だが。
(平和だなぁ……)
 こんなに平和な日は、本当に何日ぶりだろう。今日は、まだ一度も美神にも殴られず、何かのトラブルに毎度の如く巻き込まれてもいない。……強いていうなら、朝方シロの散歩(の名を借りた……何と言うか、全力疾走)に『巻き込まれた』ことだが、……こちらもまぁ、ライフワークと言っても最早過言ではあるまい。ほぼ毎日のように走らされているので、いい加減身体も慣れて来たのだろう。
 気持ちが軽いと足取りも軽い。
「おっと」
 横島は、危うく厄珍堂の前を通り過ぎそうになって、方向転換した。そのまま、店の中へと入ってゆく。
『お・奥さん……いけません……! 私は、私はただの宅配員……』
『……宅配員さん、……遠慮しなくてもいいのよ……さあ! 来て!!』
『お・お・ぉぉぉおおおお奥さああああぁぁぁんっ!!』
「何を見てるんだ相変わらず……」
「お! 坊主じゃないアルか! 久しぶりアルなぁ」
 外まで聞こえる音量で鳴り響く、TVの『爆音』。音源のTVの前に鎮座して、厄珍がこちらに向け手を上げてくる。
 それに手を上げて返しながら、横島は店内を見やった。何か、自分はともかく他人がこのような行動を取っているのを見ると、情けない気分になってくる。……何故だろう。
「厄珍、頼んどいたお札取りに来たんだけど……」
『奥さん! いいんですね!? いいんですねっ!?』
『来てぇぇぇぇ! 宅配員さぁぁぁん!』
「そこに置いてあるアル。勝手に持ってくヨロシ」
 再びTVを凝視する厄珍。横島は嘆息して、言われたとおりカウンターの上に置かれた紙袋を持って、そのまま振り向かず、足早に店から出た。
『京子っ! お前……何をやっているんだ!?』
『ああっ!? あなたっ!?』
「ああああああああっ!? 何でこんな所で帰ってくるアルか!! この馬鹿亭主っ!! せめてブラを下げるまで待つアルッ!!」
 後ろから厄珍の絶叫が聞こえてきたりもしたが……


 事務所には誰もいなかった。
「ったく、俺一人に買出し押し付けて何処いったんだ? 美神さん達は……」
 最近つくづく思うのだが、自分は確かにこき使われすぎなのではないか? そのような疑問までもが脳裏によぎる。
(……はぁ)
 しかし、
(逆らえないんだよなぁ…………)
 恐るべし『刷り込み』効果。自分では、ここまでこき使われる事に(しかも薄給で)異議を持っていたとしても、身体がそうされてくれない。
 横島は嘆息し、それ以上考える事を止めた。
「……もうじき昼か…………飯でも買って来るか」
 紙袋をその場に置き、横島は事務所から出た。


 そして、横島が事務所を出た直後。
「ただいま〜でござる〜」
 シロは事務所のドアを開けた。……いつものことだが、このドアを開けるときは我知らず気分が良くなる。師――横島がこのドアの向こうに居ることを考えれば当然の事だ。
 しかし今、事務所の中には誰も居なかった。
「あれ?」
 匂いを嗅いでみる。……匂いは残っている。横島の匂いは。
 しかし、匂いはすれど姿は見えず。自分の視界に横島の姿はなく、その匂いもどこかへと消えている。
「どこ行ったんでござるかな〜……先生」
 辺りを見回し、
 目に止まる。……紙袋。自分の記憶によれば、ここにこのよーな物は、自分が散歩(本日二回目)に出るまではなかった。そして、横島の匂いは最も新しくこの袋に残っている。
(先生が持ってきたんでござるかな……?)
 紙袋を開けてみる。
「? なんでござるか……? これは」
 その中には、見覚えのないものが入っていた。いや、見覚えがないと言うよりは、見たことがないと言った方が正しい。自分はこのようなもの見たことがないのだから。
「先生が持ってきたのでござるかな?」
 ぺろり
 固形石鹸のようにも見えるそれを舐めてみる。……そして、シロは顔をしかめた。臭いこそないが、味は泥水のようだ。少なくとも食べ物ではない。恐らく石鹸だろう。
 取り合えず台所に持っていって、早速それで手を洗う。――一度美神にこっぴどく言われてからは、外から帰ってきたときは必ず手と足は洗う事にしていた。
「ふぅ……」
 居間に戻ってきて。先程の紙袋を拾い上げ、大きくプリントされた『厄』の文字を見て、訳のわからない思いを深める。
「ホントに……みんな何処行っちゃったんでござるかなぁ……」
 次の瞬間。
 がしゃあああああああん!!
 反射神経は迅速にその活動を開始した。とっさに前方に身体を投げ出す。……そして、同時に眼で侵入者の姿を探る。……ガラスを破壊して飛び込んできた侵入者。……それは…………
「な……?」
 それは…………犬だった。

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